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日本の固定価格買取制度(FIT)を悪用したベトナム企業のバイオマス燃料認証偽装問題で、経産省による「過払い金」は年100億~160億円。国民の再エネ賦課金に上乗せ。業界試算(RIEF)

2022-11-06 23:09:37

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 ベトナムの大手バイオマス燃料会社が、国際的な森林認証のFSC認証を偽装した問題で、同社から燃料を輸入して経済産業省の固定価格買取制度(FIT)において、年間100億~160億円前後のバイオマス電力事業者への「過払い」が発生していた可能性が出てきた。これらの過払い分は、FIT制度により、国民負担に転嫁されたことになる。ベトナムの事業者は、日本のFIT制度の管理の甘さを利用して偽装したとみられており、同制度を運営する経産省、バイオマス事業を管轄する農水省等の「政策責任」が問われる情勢だ。

 

 FSC認証を偽装した木質ペレットを日本に輸出していたのは、ベトナムで最大の同ペレット製造業者のAn Viet Phat Energy(AVP)社。ベトナムから日本への木質ペレット輸出は毎年、150万㌧以上に及んでおり、最大手の同社からの輸出量はその過半を占めるとされる。

 

 しかし同社の木質ペレットについては、以前から、品質の問題が指摘され、同社の燃料を活用している日本のバイオマス発電で火災が発生した事例も報告されている。こうしたことから、ドイツに本部のあるFSCは、2021年3月からアジア地域でのFSC認証木質ペレットのサプライチェーンの取引情報の調査を開始した。その結果、AVP社について、2020年分の認証偽装を確認、先ごろ、同社に対して排除措置を実施した。https://rief-jp.org/ct10/129368?ctid=72

 

 今回、FSCが偽装を確認したのは、2020年の認証分だけで、今後、それらの年以外での偽装の有無も判定する。また、AVP以外の東南アジアのバイオマス燃料事業者の間でも、「日本向けの偽装」が横行しているとの指摘もあり、疑惑のバイオマス燃料輸出が拡大する懸念も出ている。https://rief-jp.org/ct10/129427?ctid=72

 

FIT政策を運営する経済産業省。コンプライアンスの「甘さ」が浮き彫りに
FIT政策を運営する経済産業省。「過払い見過ごし」で、コンプライアンスの「甘さ」が浮き彫りに

 

 ベトナムでFSC認証対象となる樹木のアカシア等の栽培面積から計算すると、産出できる木質ペレットは年間30万㌧程度とされる。だが、AVP社は、実際はその6倍近くを日本を中心とした需要国に輸出してきた。日本のFIT制度でのバイオマス燃料価格は、燃料源によって、木質ペレット等の一般木材使用の場合は、1kWh当たり24円だが、質が下がる建設資材廃棄物だと、同13円、一般廃棄物その他バイオマスだと同17円になる。

 

 AVP社は、FIT買い上げ価格の高い木質ペレットの国内での調達量に限りがある中で、自社で調達した木質ペレットに、それ以外の木質系廃棄物等を混在させて量を増やして、FSC認証を偽装、FIT単価24円の燃料として輸出していたとみられる。仮に、同社の偽装燃料がすべて一般廃棄物扱いとみなされると単価17円なので木質ペレットより7円安くなる。また建設資材廃棄物とみなされると単価13円なので11円も下がる。

 

 業界関係者によると、発電量50MWのバイオマス発電所の場合、発電効率や所内動力等を差し引いた年間平均売電量は約36万4000Mwh。単価24円の場合87億円強、17円で62億円弱、13円なら47億円強となる。50MWの発電所の場合、木質ペレットを燃料にすると年間25万㌧程度の輸入が必要。ベトナムからの輸入量を踏まえ、50MW級の発電所4基分、年間100万㌧の木質ペレットがAVP社から輸入され、そのすべてが偽装だと仮定した場合、単価17円に修正すると約104億円、13円だと約160億円の「過払い」が毎年発生していたことになる。

 

 問題はこうした過払い金をだれが埋め合わせるかだ。FIT制度では対象となる再エネ電源ごとに経産省が発電事業者からの買い上げ単価を決め、企業、個人の電力需要家に対して再エネ賦課金(再エネ全体)として割り当てている。バイオマス認証偽装があった2020年の再エネ賦課金の単価は2.98円/kWh。2022年は同3.45円/kWh。平均的な家庭の負担額は1万円強。

 

 再エネ電源の買い上げ総額は3兆8000億円なので、今回発覚した偽装分の「過払い分」は全体の賦課金額の0.26%。年間1万円の賦課金として26円になる。世帯当たりでは少額とはいえ、国民はこの分、払わなくてもいい賦課金を払わされていたことになる。さらに、過払い額はもっと増える可能性が指摘されている。AVP社だけでなく、他のアジアの国の事業者の中にも同様の手口で、日本市場に質の悪いバイオマス燃料を輸出していたとされるところも少なくないという。

 

 アジアの再エネ関連企業の間では、日本のFIT制度のコンプライアンスの「甘さ」は知れ渡っているという。「書類さえ通せば、高い買取価格のバイオマス燃料として日本に輸出できる」とされている。その書類の軸になるのが、バイオマス燃料の認証であり、AVPはそれを偽装したわけだ。認証手続きでは、実際に個別のバイオマス燃料を精査したり、焼却等を試すわけではなく、取引・手順に瑕疵がなければ認証されるため、大手企業による意図的な偽装を見抜くのは難しいのが実態とされる。

 

 バイオマス電源が想定通りの発電要件を満たしていないとすれば、制度を運営する経産省は、対象発電事業からの買い取り額を見直す必要があり、バイオマス事業を掌握する農水省は、対象となる輸入バイオマス事業の品質を再調査する必要がある。ベトナムからの木質ペレット輸入に依存しているわが国の既存電力を含むバイオマス発電事業者、輸入にかかわった商社等からの事情聴取も当然、必要だ。そのうえで、「過払い分」を関連する事業者から徴収し、賦課金の減額を実施する必要がある。

https://anvietenergy.com/?lang=en

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/

https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220325006/20220325006.html