HOME |相次ぐバイオマス発電所での火災・爆発事故。大半の輸入燃料はベトナム産。同国のバイオマス燃料には認証偽装の過去。経産省のFIT制度管理の杜撰さが「不正」を招いている可能性も(RIEF) |

相次ぐバイオマス発電所での火災・爆発事故。大半の輸入燃料はベトナム産。同国のバイオマス燃料には認証偽装の過去。経産省のFIT制度管理の杜撰さが「不正」を招いている可能性も(RIEF)

2024-08-21 11:54:26

スクリーンショット 2024-08-20 213233

写真は、ベトナムの木質ペレットに混入された可能性のある建設廃材のヤマ=提供写真)

 

  先月、北海道・石狩バイオマス発電所が爆発火災を起こすなど、最近、バイオマス発電所での爆発・火災事故が相次ぐ。事故は発電のためのバイオマス燃料から起きており、それらがいずれもベトナム産であることがわかった。同国産の燃料では2022年に、同国大手業者が自主的な国際森林認証のFSC(森林管理協議会)認証を偽造し、不純物入りの燃料を日本の商社経由で輸出していたことが発覚している。業界関係者は最近の相次ぐ事故も、ベトナム産燃料に含まれる不純物が影響している疑いが大きいと指摘している。いったん不祥事が起きたにもかかわらず、固定価格買い取り制度(FIT)の運営を担当する経済産業省の監督・検証体制はその後も改善されないままで、低品質のバイオ燃料の輸入をはびこらせている可能性が出ている。

 

 7月19日、北海道石狩市の石狩新港で稼働中の石狩バイオマス発電所で爆発事故が発生、作業員1人が手や足にやけどをする事故が起きた。爆発の影響で発電所建物の一部の屋根が吹き飛び、火災は約2時間40分にわたった燃料として貯蔵していた木質ペレット等からの火災とみられる。https://rief-jp.org/ct4/147350

 

バイオマス燃料を運ぶベルトコンベアが火に包まれている(NHKのニュースから)
JERAの武豊発電所のバイオマス燃料を運ぶベルトコンベアが火に包まれている(NHKのニュースから)

 

 同様の事故は、今年1月31日にJERAの愛知・武豊火力発電所でも起きた。同発電所は石炭とバイオマス(木質バイオマス)混焼の火力発電だ。JERAは、木質バイオマス燃料の高速大量搬送に伴い粉じんが多量に発生したことなどを事故原因として発表した。昨年には、中部電力が中心の鳥取・米子バイオマス発電所で5月と9月に二度にわたり火災が発生。同年1月には九電みらいエナジーが関与する下関バイオ発電所でも火災が起きた。https://rief-jp.org/ct10/145080?ctid=

 

 これらの爆発・火災事故は貯蔵していたバイオマス燃料の木質ペレットが何らかの原因で、発火したケースが大半だ。木質ペレットは木を原材料として加工したものなので、燃えやすいと言えばそうだが、一定の品質管理ができていれば、こんなに相次いで事故を引き起こすことはないと思われる。何がバイオマス燃料をこれほど「燃えやすく」しているのか。

 

 これらの大型バイオマス発電の燃料となる木質ペレットの輸入先がその謎を解くカギのようだ。関係者によると、石狩バイオマスの輸入業者は神鋼商事、JERA武豊は伊藤忠商事、米子バイオマスは丸紅、下関バイオエナジーはセルマークジャパンで、いずれも輸入元はベトナムの事業者だ。ベトナムからの木質ペレット輸入では、2022年1月に、ベトナム大手のAVP社が国際的な森林認証のFSCを偽造し、産業廃棄物等の不純物をペレットに混在させていた問題が発覚。同年10月にFSCは同社に対する認証を取り消す措置をとった。https://rief-jp.org/ct10/129368?ctid=

 

木質ペレットは一見するだけでは不純物が入っているかはわからない
木質ペレットは一見するだけでは不純物が入っているかはわからない

 

 他のアジアの輸出企業の一部でも同様の問題が指摘されていた。ベトナムの事業者が偽装をしたのは、輸出先の日本のFIT制度が関係しているとされる。FITで木質ペレットとして認証されると、同燃料での発電電力は1kWh当たり24円で買い上げられ、建設廃材等を燃料とする場合の同13円、一般廃棄物の同17円より価格的に有利になる。このため、偽装や嵩上げをしてでも「木質ペレット」として輸出しようとするインセンティブが働いたとみられる。

 

 日本のFITで買い上げられたAVPの偽装ペレットによって、最大で年間100億~160億円前後のFIT資金(最終的に電力消費者負担)によるバイオマス電力事業者への「過払い」が発生していたとの試算もある。だが、経産省も、FIT制度の買い上げ価格を決める「調達価格等算定委員会」(委員長:高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授)も、同問題への対応を一切取らず、今日まで不問に付してきた。https://rief-jp.org/ct5/129862?ctid=

 

 ベトナム産のバイオマス燃料に懸念が多いのは、商社が契約する現地の輸出企業は大手であっても、燃料の木質ペレットの製造の多くは山間部や地方の小規模事業者に依存し、それを各地から集めて日本の商社等に手渡す仕組みが主で、サプライチェーンの管理が不十分である点が大きいとされる。それでも関係者の間では、AVPの不祥事が発覚した時点で、バイオマス燃料についての国内での監査・検証体制を強化していれば、その後の爆発・火災事故の発生はある程度抑止できたのではないかとの見方が出ている。

 

ベトナムでの建設廃材の貯蔵施設。これらが木質ペレットに混入か?
ベトナムでの建設廃材の貯蔵施設。これらが木質ペレットに混入か?

 

 同様のバイオマス発電所での燃料による火災事故は韓国でも起きている。ベトナム等のバイオマス燃料事業者の最大の輸出先は、日本と韓国、それに台湾、フィリピン等で、中でも大口は日韓両国だ。これら日韓向けのベトナム産の輸出木質ペレットの品質検査を実施したベトナムの検査機関によると、火災を引き起こしたペレットの中に金属物が含まれていたことがわかった。建設廃材や廃棄パレット等を混在させると釘等の金属物が混じることを示している。

 

 日本の場合、FIT制度の行政による管理が「甘く」、悪質業者に付け込まれているとの見方もできる。実際、関係者によると、日本での輸入バイオマス燃料の確認作業では、製品に森林認証等の書類が添付されていると、それだけで「品質の高いバイオマス燃料」とみなし、実際の抜き取り検査等は行わない。商社マンも、役人も、電力会社の当事者も、品質についての疑いや懸念を、ほとんど持たないとされる。あるいは仮に懸念を持ったとしても、FIT制度によって、すでに買い上げた電力の対価となる資金は、電力会社、海運会社、商社を経由して、海外の輸出企業に支払っていることから、その回収作業は容易ではない。そのため「消費者負担」のままにしておく方が得策と、関係の官民一同で、判断しているのかもしれない。

 

 認証機関もそうかもしれない。FSCはAVPに対して、2022年10月から3年半の認証取り消しの処分を下した。だが、実際には2023年12月に、AVPに認証を再付与している。わずか1年でサプライチェーンも含む改善が出来たと確認できたのだろうか。それとも、取引量の多い大手企業は認証機関にとっても「お得意様」というわけか。

 

 こうしたバイオマス燃料をめぐる官民の組織関係の中で、日本の商社の中には、伊藤忠のように、認証偽装歴のあるAVPが、FSCの認証再取得をする前から大手の同社との取引を再開しているところもある。もちろん自主的認証のFSCラベルがない燃料でも、取引はできる。だが、偽装疑惑がある企業から輸入した木質ペレットを、日本のどの発電所に売却しているのかは、気になるところだ。伊藤忠をはじめ、東南アジア産のバイオマス燃料を輸入する各商社には、より明確な情報開示を求めたい。

                           (藤井良広)