法務省。経済界等の支援を受け、会社法改正案に議決権ベースの株主提案を抑制する制限案提案へ。反原発の市民団体等が反発。法制度の趣旨揺るがす恐れも(RIEF)
2026-08-14 00:13:38
(写真は、株主提案で電力会社の原発事故責任を追及する市民団体の活動=今年1月、筆者撮影)
法務省が検討している株主の権利を制限する案に対し、脱原発・東電株主運動など原発に反対する全国の10団体が8月12日付で共同声明を出した。「少数意見や株主の思いをないがしろにする」と法務省案に反発。現在の規制案が通れば、電力会社の株主総会で毎年、出してきた原発事業をけん制する提案が事実上、できなくなるという。これらの団体は、政府の経済政策にも反すると指摘し、撤回を求めている。
同省は昨年4月に法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会を設置し、会社法改正に向けた作業を進めている。その検討項目の中に株主提案を盛り込んだ。現在、会社法では株主総会で議案を提案できる株主として、議決権の1%以上か、議決権ベースで300個以上を6カ月以上保有することと定められている。
この制度に対して経済界からかねて「可決する可能性がない提案が数多くなされている」との声が出ていた。このため法務省は、300個要件を削除して1%のみにする案のほか、300個を500個や1000個に引上げたり、会社の定款で自由に定めたりできるような改正方法を提示している。
同部会の審議は非公開で議事録が公表されている。関係者によると、委員らの多くが300個という議決権の要件の撤廃に賛成している模様だ。委員の一人で日本製鉄の仁分久弥子法務部長は、300個の削除を求め「可決可能性の乏しい株主提案であっても提案権が行使されると、会社に非常に大きな負担が発生する」と法務部門の相当な重荷になっていることを強調。「株主共同の利益に資するとは言い難く、会社の規模や業種を問わない数値基準は法制度の合理を有していない」と手厳しく批判している。
株主提案権が導入されたのは1981年で、株主に総会に参加を促し、経営者や株主同士でのコミュニケーションを高め、開かれた株主総会を目的にしていたという。今回の部会で経済産業省の鮫島大幸・組織課長は、総会の状況が80年代とは大きく異なることを指摘。SNSの活用も含め、年間を通じて企業と株主との対話が行われていることを強調し「コミュニケーションの機会は増加している」と述べ、数値要件の撤廃を求めた。
これに対し反原発の10団体は「市民による株主提案ができなくなる」と強く訴える。例えば関西電力の場合、株価は今年8月時点で1株2300円前後で推移している。株式数を掛けた時価総額は2兆6千億円ほどになる。1%の株を持つとすれば260億円の資金が必要になる。100株で議決権が1個となる単元株の場合、300個であれば7千万円ほどで、この水準でも個人では厳しいが、団体のメンバーが持ち寄れば調達できる金額という。
10団体の有志や関係者は12日に、オンラインで会見を開いた。2018年に発覚した関西電力高浜原発をめぐる株主代表訴訟にかかわっている北村賢二郎弁護士は「個人株主は金だけ出して口を出すなと言うことか」と法務省の方針に正面から疑問を呈した。さらに、同弁護士は、政府が「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げて国民に投資を呼びかけていることを挙げ、「金融市場でガバナンスが効いているからこそ国民が投資ができる」と指摘。今回の株主提案を制限する動きは、株主総会を活発にし、ガバナンスを高めようとする動きに反しており、「日本の経済成長に水を差す行動でもある」とし、政府の政策のチグハグさを指摘する。
脱原発・東電株主運動の木村結さんは欧米の制度について、「少数意見の尊重や少数株主が経営に参画する事に対し、ハードルを低くする救済措置がある」と解説し、今回の法務省案について「民主主義をないがしろにし、少数株主が経営に物を言うことを排除するもので、撤回させたい」と語った。
法制審の部会でも、この議決権数の要件を撤廃するという案に対し、慎重な委員らは少なくないようだ。東京証券取引所の青克美・常務執行役員は300個の削除について「従来の株主提案権に対する考え方を大きく変える。(このことを)しっかりと認識した上で考えることが重要」と、より深い議論が必要という。
東京大学の田中亘教授も「外からどう見えるかということも考えなければ」と述べる。「企業が困っているので法律で権利を制限してしまおう、という風に日本企業が行動しているとの評価が定着すると、日本の企業・市場に対してネガティブな影響が及ぶ可能性についても考える必要がある」と指摘した。
東京弁護士会の矢野領弁護士は「個人的には反対」としている。仮に株主提案権を300個から1000個に引き上げた場合においても、「一気に富裕層対象だということになって、より批判が強くなる懸念がある」と述べている。関電の場合でも仮に300個から1000個にした場合、株式の金額ベースで約7000万円から2億円を超える金額になる。
実は2019年の会社法改正時にも、同じように300個の議決権数の是非が議論されている。当時の法制審会社法制(企業統治等関係)部会で見直しが検討されたが、開かれた株主総会の実現という趣旨に反し、個人株主による提案権を過度に制限してしまう恐れがあるとして、見送られた経緯があった。
12日のオンライン記者会見に参加した株主の権利弁護団の前川拓郎事務局長は、この19年の検討事実を指摘し、「この7年間で、株主提案の要件を厳しくするような立法事実はない」と言い切った。そもそも株主提案の件数は年150件程度で多くはなく、低調と言える水準で乱用されてもいない、という見方を示した。また、株主提案を使った市民運動は原発だけではなく、数年前から政権に忖度しがちなテレビ局の放送内容を改めてもらおうと株主提案が使わていると説明した。
大手の信託銀行の調査では、今年6月総会にあった株主提案は25年よりも8社減って106社だった。10年前の2016年は37社で、それと比べると、3倍増と伸びている。最も増加したのが、海外のアクティビストなどの機関投資家による提案だった。26年は過去最高の55社で、全体の半分を占めていた。個人株主の株主提案の濫用と言うよりは、アクティビストが日本企業の経営改善を求めて活用する側面もある。
ここに来て、自民党等の政権党も株主提案の制限を求め始めている。自民党の成長志向型コーポレートガバナンスPTは今年7月下旬、「企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言を」との意見書をまとめている。その中に株主提案権の行使要件の引上げを盛り込んでいる。法務省が示したように、300個の個数要件について「低いハードルで、一部の株主による濫用的な提案を招く一因となっている」と指摘し、1%に一本化することの検討を求めた。
法制審会社法制(株式・株主総会等関係)部会では、議決権が1%未満の株主による提案の場合、可決したケースがほとんどないという調査結果も示されている。「300個以上」を活用して株主提案をする割合は全体の6割と見られ、これらがなくなる可能性も指摘されている。法務省民事局は「部会では明確な反対意見も出ており、何かを決めたということではない」(担当の参事官)と言う。
ただ、「煙の無いところに火は立たない」というのが世の常だ。法務省は今秋には一定の結論を示すとみられているが、方針によっては、原発を中心とした環境政策や社会問題のあり方、さらには株式相場にも少なからずの影響を及ぼす可能性がありそうだ。
(加藤裕則)

































Research Institute for Environmental Finance