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中国とEUがグリーン・タクソノミーの共通化を目指した「タスクフォース」設立へ。中国の馬駿氏が明らかに。石炭火力除外のタクソノミーが国際共通基準化の可能性(RIEF)

2020-06-20 16:17:30

ma001キャプチャ

 

   中国のグリーンファイナンス委員会議長を務める清華大学教授の馬駿(Ma Jun)氏は、近く改定が決まる中国のグリーンタクソノミーを踏まえ、中国とEUの間でグリーンタクソノミーの共通化を図るタスクフォース(作業グループ)設立の見通しを明らかにした。中国のタクソノミー改定は、これまでグリーン事業に含めていた超々臨界圧石炭火力発電(USC)等を除外するもので、EUのタクソノミーとの間の最大の課題だった。中国側の改定を受け、中国とEUはグリーンタクソノミーの国際標準化を目指すとみられる。

 

 馬氏は、英メディア主催のウェブセミナーで語った。タスクフォースの設立時期については言及していない。馬氏は「6年前(中国人民銀行等がグリーンカタログ作成の作業に入った時)には、問題はタクソノミーの不在だった。現在は、200近いタクソノミーが市場に登場している。その結果、多くの混乱が生じているほか、取引コストも高める結果になっている。重複も多い」と問題点を指摘。

 

 そのうえで 「投資家のコストを引き下げ、市場の透明性を高めるためには共通化が必要だ」と述べた。グリーン事業に関するタクソノミーは、EUがサステナブルファイナンス行動計画でグリーンタクソノミーを公表しているほか、中国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、カナダ、インド、英Climate Bonds Initiative(CBI)などが独自の基準を示している。またCO2排出量の多い企業をグリーン化するブラウンタクソノミーの制定議論も高まっている。

 

 馬氏はこうした環境を指摘したうえで、「EUとのグリーンファイナンス分野でのタクソノミーの共通化は非常に興味深いテーマ。EUとの協力の次の『マイルストーン』であり、国境を超えたグローバル投資を促進する重要なステップだ」と位置付けた。

 

 EUと中国はこれまでも、中国のタクソノミーに「クリーンコール」として盛り込まれているUSC等の扱いをめぐって、長い間、調整を続けてきた。EU側は中国のタクソノミーから石炭をはずすことで、欧州の投資家が中国版グリーンボンド市場に参入する道を拓くことを目指してきた。一方、中国側も馬氏らは国内市場の「クリーン化」を主導してきたが、石炭火力がエネルギー供給の6割を占める中国の国内事情から、修正に時間がかかっていた。

 

 しかし、中国のグリーンボンド原則の制定している政府の国家発展改革委員会(NDRC)と中国人民銀行(PBoC)は、中国証券規制委員会(CSRC)とともに、グリーンタクソノミーから「クリーンコール除外」する改正案をすでに示し、変更が確定している。 http://rief-jp.org/ct4/102996?ctid=75

 

 馬氏は清華大学のグリーンファイナンスセンターも主宰している。「清華大学の最近のモデル分析では、現時点で銀行が石炭火力事業に融資すると、以後の10年間で同融資のデフォルト率は20%になる。これは投資家や銀行が投資先を選ぶ時、非常にショッキングなデータ。投資家や銀行の投融資選好を変えるため、こうしたデータへの理解を促す必要がある」とも述べた。

 

 馬氏のこの指摘は、日本の投資家、銀行等にとっても重要な警告といえる。日本では経済産業省のエネルギー政策に基づき、現在も国内では新規の石炭火力発電事業計画が約40件、進行している。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)など3メガバンク等の環境・社会ポリシーでは、原則として新規石炭火力発電へのファイナンスは停止するとしているものの、USC等については条件次第で継続もあり得るスタンスを崩していない。

 

 馬氏が紹介した「新規石炭火力10年間のデフォルト率20%」は、再エネ等の普及と、温暖化の加速による移行リスク等の増大を踏まえた試算とみられ、中国だけに特有のものではなく、石炭火力発電全体に共通するものといえる。一方、日本の経産省はこれまで、石炭だけでなくガス火力も除外するEUのタクソノミー制定に対して、経団連や各業界団体を通して反対意見を表明するとともに、石炭火力を「クリーン」扱いしてきた中国との“共闘”も密かに模索してきた。

 

 しかし、EU・中国連携が明確になったことで、石炭火力死守の日本のエネルギー政策の「孤立化」が深まることは明確だ。特に中国の政策転換が政治的理由よりも、経済的な分析を踏まえた「合理的な選択」とすれば、日本は現行のエネルギー政策を修正しない場合の合理性を国民と市場に説明しなければならない。(RIEF)