環境NGOのFoE Japan。OECD多国籍企業行動指針の日本政府窓口に、三井物産、JOGMEGが参加するアフリカ・モザンビークLNG計画の人権・環境課題への懸念と対応を申し立て(RIEF)
2026-06-10 02:14:02
(写真は、FoE Japanのサイトから引用)
環境NGOのFoE Japan(東京)は、日本企業が関与するアフリカのモザンビークLNG事業で、現地住民に対する人権侵害や、同地域で広範囲な環境破壊が続いているとして、OECD(経済協力開発機構)の「多国籍企業行動指針 日本連絡窓口(日本NCP)」に対して、申し立てをしたと発表した。同団体の佐藤万優子氏は「これまで同計画に関与している日本企業や銀行等に懸念を伝えてきたが、一向に改善が見られない。現地の状況は刻々と悪化している」として、OECDに申し立てた理由を説明している。海外での日本企業が関与するエネルギー開発計画で生じる人権・環境問題への対応を、日本政府がOECDの指針に基づいて示せるかが問われる。
モザンビークLNGの開発事業は、2010年に海上ガス田が発見されたことを機に本格化した。仏トタル・エナジーズ主導の下、複数の国の輸出信用機関、銀行団が開発事業に融資している。日本勢はJBIC、日本貿易保険(NEXI)、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等の公的機関が参加。JOGMECは、三井物産と共同で出資枠の2番目となる20%を出資している。このほか、3メガバンクを含む民間銀行団が関与している。
またトタルの事業計画では、開発したLNGの3割は日本郵船等が専用タンカーで日本へ輸送。到着したLNGは、東京ガス、東北電力、JERAなどが購入し、ガス火力発電等に活用する流れとしている。https://rief-jp.org/blog/150518?ctid=33

日本企業や金融機関は、同事業計画の「需要者サイド」を支える形で参画しているわけだ。ところが環境NGOらによると、同開発計画では、すでに工事の準備段階で周辺海域の自然環境が破壊されたり、海洋汚染が進んでいるほか、計画地周辺に住む住民たちが、強制的に退去させられる等の人権侵害事件も引き起こしている。https://rief-jp.org/ct7/159347?ctid=
こうした事態の背景には、同計画を後押しする同国政府が国内において反政府勢力と対立・紛争を続けていることが大きい。LNG計画自体も、2021年に同国内で反政府勢力による抵抗活動が活発になったため一時停止していた。しかし、最近になって、政府による治安回復が進み、昨年11月に事業を再開する方針が、同国政府から示された。
そこで、FoE Japanは、このまま事業再開が本格化すると、同事業に伴う環境破壊や人権侵害が再び増大する可能性が出てくると懸念。同事業に関与する日本企業に対してOECDが定めた多国籍企業行動指針に基づく責任ある行動をとるよう、同機構の「日本連絡窓口(日本NPC)」に対して、対応を申し立てたわけだ。
同行動指針は、1976年に策定されたもので、グローバルに活動範囲を広げる各国の多国籍企業に対して、人権の尊重、温室効果ガス(GHG)や生物多様性に関する情報提供およびその対策等をとるよう求めている。NCPを設けているOECD諸国は、申し立ての対象企業がこれらの行動指針に抵触・違反していると判断する場合、調停・斡旋等の「非司法的措置」を講じて、当事者間での合意を目指したり、定められた手続きの後、法的な拘束力はないものの、当該企業行動について声明を出すこともある。
このため各国には連絡窓口(NCP)が設けられている。日本の場合は、外務省経済局、厚生労働省大臣官房国際課、経済産業省貿易経済協力局の3省庁で構成されている。ただ、NCPの政府窓口が十分に機能するかどうかという点では、課題を抱えているとされる。
FoE Japanは2017年5月にもインドネシアの石炭火力発電の操業で漁場を失い、漁師らが困窮していることなどについて日本のNPCに申し立てをした。この時、NCPはほぼ7年後の2024年2月になって、事業者の丸紅などに対し、「引き続き行動指針の遵守を確保し、地域コミュニティや住民とのエンゲージメントを行うよう勧告する」との最終声明を出した。
しかし、この声明は、結論を出すのに相当な時間がかかったうえに、対象企業(丸紅)に対して、「引き続き行動指針の遵守の確保」を求めるなど、丸紅側の企業活動にも一定の理解を示す形をとっており、「企業寄りの日本政府」のスタンスを改めて確認する内容だったとされる。このためFoE Japanは「積極的かつ明確な勧告を当該企業に対して行っていないなど、声明の内容には不十分な点が見られる」と批判した経緯がある。
FoE Japanが5日に開いた会見では、環境や気候変動の問題に詳しい増本志帆弁護士が、OECDの行動指針に「企業が負の影響を助長している場合または助長する可能性がある場合、当該企業は、最大限可能な範囲で、その助長を停止又は防止するために必要な措置を講じ」などと「負の影響」の緩和を求めている点があることを指摘したうえで、「三井物産ともJOGMECもこれらの責任を果たしていない。住民やNGOなどステークホルダーとの対話もできていない」と両社に対して行動指針を順守するよう訴えた。
また同記者会見には、モザンビークで活動する環境団体「Justiça Ambiental!(JA!)」のダニエル・リべイロ氏も参加。現地で自然環境の破壊等が懸念され、すでに進行している実情を語った。同氏によると、LNG開発計画の周辺の海域にはサンゴ礁が連なり、クジラ、イルカ、ウミガメなどの多彩な生物種が生息していることから、生物多様性にとって重要な地域としてユネスコのエコパークに指定されているという。

このため、この海域でLNG開発事業が始まると、これらの自然環境が破壊され、海洋汚染のリスクも高まる可能性があるという。実際にも、現状では、工事のための航路やパイプライン設置のための海底の浚渫工事が行われており、同工事の影響で海中の堆積物で舞い上がり、それらがサンゴ礁や海中の岩場に降り注いで多くの生物が失われいているという。
リベイロ氏は、同計画地域の周辺分に住む農家や漁師の多くが移転させられているが、移転の補償は十分ではないことも指摘した。住民たちは農地を失い、漁にも出られず困窮生活を強いられているとの訴えが、これまでに1000件以上も寄せられているという。また同事業に対して、事業者のトタルが行った環境アセスメントは、評価対象の項目に自然環境の影響を示す情報がなく、アセスとして極めて不十分だと述べている。
今回のOECD行動指針へのNCP申し立てに対して、どのような結論が出るかは不透明だが、今後、三井物産などが国際的なレピュテーションリスクを受ける可能性はある。この数年間で、海外の機関投資家は環境や人権といったサステナビリティを重視する姿勢を鮮明にしている。昨年12月には、英国とオランダの金融機関が撤退している。このモザンビークLNG計画に参画している日本の3メガバンク等もその対応が注目される。
(加藤裕則)

































Research Institute for Environmental Finance