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フランス政府「気候変動対策・レジリエンス強化法案」を議会に提出。市民評議会(CCC)の提言を土台に。近距離国内航空は禁止、自動車CO2規制はEUタクソノミーより緩和(RIEF)

2021-03-01 15:47:27

Frenchparliamentキャプチャ

 

  フランス政府は、気候変動対策を法制化する「気候変動対策・レジリエンス強化法案」をまとめ、議会に提出した。法案は2030年までに温室効果ガス排出量を40%削減(90年比)するため、①製品・サービス消費でのCO2排出量の表示制度「CO2スコア」を導入②鉄道で2時間半以内で移動可能な短距離区間の航空路線の運航禁止③ガソリン車等の販売を2030年以降禁止ーー等、市民・ビジネス関係でのCO2削減を義務化する。法案は市民から抽選で選ばれた「気候変動市民評議会」の提言を盛り込んだ。今月末に開く国民議会で審議される。

 

 (写真は、今月末から法案を審議する仏国民議会)

 

 ただ、フランスのWWF等の100以上の環境NGOや市民団体は、今回の法案に盛り込まれた対策では、2030年までに40%削減目標の達成は困難とし、さらにEUが2030年に目指す55%削減と整合性がとれていない、として批判する声明を発表した。今後、国会での修正を巡る議論が激しく展開されそうだ。

 

 法案は「Bill 3875 on the fight against climate change and strengthening resilience in the face of its effects」。政府が提出した。法案作成の過程では、2018年末に、マクロン政権が温暖化対策を理由として推進した燃料税引き上げ対して市民等が反発、フランス全土で抗議の「黄色いベスト」運動が展開されたことを反省し、市民の意見を十分に温暖化対策に反映させるために「気候変動市民評議会(Convention Citoyenne Climat:CCC)」を設けて意見集約を実施した。

 

市民気候変動評議会のマーク
市民気候変動評議会のマーク

 

 CCCは抽選で選考された150人の市民で構成する評議会。2019年10月から同評議会で議論し、2020年6月に、社会的公平性を維持しつつ、2030年までに温室効果ガス排出量の40%を削減するための149項目の政策提言を公表した。これを受け、マクロン政権は今回の法案をとりまとめた。

 

 法案では、運輸関連のCO2規制として航空機について厳しい規制を盛り込む半面、自動車についてはEUの規制よりも緩い内容となっている。国内航空便については、鉄道で2時間半以内で移動可能な短距離区間の運航を禁止する。さらに、国内便全便に2024年から100%のカーボン・オフセット・プログラム導入義務付けを課すとしている。

 

 一方、自動車については、CO2排出量が走行1kgm当たり95g以上の車両の販売を2030年に禁止するとした。ガソリン車、ディーゼル車の販売禁止につながる。だが、欧州委員会が進めるサステナブルファイナンス行動計画の気候緩和タクソノミーの1km当たりCO2排出量50g以上を非グリーンと見なす分類に比べて、ほぼ2倍より緩い。しかもタクソノミーでの値は4年間の猶予期間に限定しているので、プラグインハイブリッド車(PHV)も一時的にしか許容できないとされる。

 

 しかし、今回の法案の基準値では、PHVは期限限定なくクリアできるほか、ハイブリッド車(HV)も走行モードによっては、小型のものなら対応可能との見方もある。自動車は市民が生活の足とするウエイトが大きいことから、CCCの意見を聞く形で緩めの設定になった可能性がある。同案がそのまま国会で承認されるか、EU規制との整合性で修正されるかが注目点だ。

 

 消費者にとって影響の大きい消費・食品関連分野では、すべての製品・サービス消費によるCO2排出量の表示制度「CO2スコア」を2024年までに導入する点だ。日常品のカーボンフットプリントの低い商品ほど売れることになる。化石燃料の利用に関する広告の掲載を禁止するほか、プラスチック廃棄物対策や過剰包装対策として、スーパーでの食品量り売り販売の面積を2030年以降、店舗全体の20%以上とすることも盛り込んだ。

 

 また企業の社員食堂などでの民間ケータリングサービスが使用する食材の50%について、2025年から「持続可能または質の高い製品」とするとした。このうち20%を有機食品とすることを義務付ける。生産者は2025年からガラス容器のデポジット(預託金)制度を導入できる。

 

 CO2排出量の多い住宅・建築物については、AからGまでの7段階のエネルギー・気候パフォーマンスのラベリング制度を導入する。このうち、熱効率が悪い低断熱住宅(FまたはG)は、今後1年の間に賃貸料の引き上げを禁止し、2028年から賃貸自体も禁止する。その間に、リフォーム等での改善を促す。意図的で深刻かつ長期的な環境破壊行為を「エコサイド」との犯罪として認定し、最長10年の禁錮刑、最高450万ユーロの罰金を科す規定も盛り込んだ。

 

 同法案は3月29日から国会で審議される。

 

https://www.assemblee-nationale.fr/dyn/15/textes/l15b3875_projet-loi

https://reseauactionclimat.org/appel-a-plus-dambition-pour-la-loi-climat-et-resilience/