国連事務総長のほか、英仏スペインの外相が、人為の化石燃料によるGHG排出量増大とエルニーニョによる気候災害の加速化に警鐘。「脱炭素の努力から力を抜くべきでない」と(RIEF)
2026-08-03 00:58:45
(写真は、A European firefighter stands in front of flames in 2025 (Picture: Czech Civil Protection)
欧州各国を襲っている激烈な熱波と、森林火災の猛威に対し、国連事務総長のアントニオ・グテーレス(António Guterres)氏と、英国、フランス、スペインの外相らは先週末、「欧州を襲っている死者を出した山火事の原因は気候変動にある」と改めて指摘した。そのうえで、この災害を契機に、温室効果ガス(GHG)の排出削減を加速させるよう、欧州だけでなく、世界に対して呼びかけた。気候変動による災害は、すでに大きな被害を社会に与えており、排出削減、脱炭素の努力は今こそ必要で、その努力から力を抜くべきではないと、米国を含む国々に警告を発した形だ。
国連事務総長のグテーレス氏は先週末金曜日の31日、記者団に対し、「気候危機はさらに加速している」と述べた。エルニーニョ現象が激化することで「すでに燃え盛っている地球に、さらに油(燃料)を注ぐ」ことになり、これまでに観測された世界的な高温は単なる「前座」に過ぎないと強調した。
31日に発表された世界気象機関(WMO)の新たな報告書は、現行の気象パターンが今後10月にかけて「強い現象」へと発展し、世界の多くの地域で平年を上回る気温や降雨パターンの乱れが生じるリスクが高まると予測している。
こうした人為の化石燃料使用による温暖化の進展での気候災害の増大は、太平洋の東領域の赤道付近ですでに発生しているエルニーニョの影響で、さらに気候変動を増大させている。エルニーニョの影響は、すでに平年よりも海中の水温を約3℃(2.9℃)高い状況となっている。化石燃料の燃焼による発電所や鉄鋼工場、ガソリン自動車などからの温室効果ガス(GHG)排出量の増大に歯止めがかからない中で、エルニーニョによる気温上昇が、今年末までに5℃上昇に近づく可能性を示している。
WMOの科学者は記者団に対し、今年これまでに 見られたすべての熱波やその他の気候影響は、「エルニーニョの影響が地球規模で本格的に現れ始める前の段階」に過ぎないと語った。気候専門家グループである「ワールド・ウェザー・アトリビューション(World Weather Attribution)」グループが発表した科学的分析によると、人為的な気候変動により、フランスでの致命的な山火事の発生確率は2倍に、スペインでは20倍に高まっていることが判明した。英国で発生した小規模な火災は、同研究では分析対象外としている。
国連気候変動担当責任者のサイモン・スティール(Simon Stiell )氏は、欧州の熱波や森林火災だけでなく、ここ数週間の間に地球の各地で発生した気候変動は、チリでの暴風雨、北米・日本での異常高温、熱波等も、過剰な化石燃料燃焼によるGHGの上昇が原因であると指摘した。「気候変動の警報が地球の各地で鳴り響いている」と述べているわけだ。日本でも、と。
欧州の各地で広範囲な森林火災が発生しているが、最も多くの住民の安全が脅かされているのは、フランス南西部のボルドー近郊と、スペイン中部のマドリード近郊である。フランスでは25万人近くが避難し、数百戸の住宅が全壊した。一方、スペインでは8万人が自宅を離れざるを得なくなり、ある村では少なくとも13人が死亡した。
グテーレス事務総長は、新たな化石燃料生産プロジェクトや化石燃料への補助金が世界中で苦難を引き起こしていると批判した。この演説について、匿名を希望する国連高官は、各国がバラまく化石燃料への国家補助金の総額は年間数兆㌦規模に上ると述べ、年金基金や保険会社を含む機関投資家が化石燃料プロジェクトへの投資を続けていることを批判した。この中には、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や、日本生命等の大手生保等も含まれる。

世界の指導者や一般市民がなぜ気候変動対策を優先していないのかと問われたグテーレス事務総長は、ウクライナ、中東、スーダンなどでの戦争に気を取られ、「時にはさらに危険な脅威となる他の側面を忘れてしまうからだ」と述べた。
単なる「物忘れ」ではない。事務総長は、化石燃料業界や「一部の国々」は、気候変動が存在しないかのように装うキャンペーンを展開しているとも指摘した。国連はそうした国々を念頭に置いて、「状況をありのままに指摘し、責任の所在を明確にし、世論を動員する」ことにおいて、より積極的であるべきだと付け加えた。「一部の国々」はトランプ政権の米国を想定しているのは間違いないだろう。「国々」と複数なので、その中に「日本」が入っている可能性もある。いや、残念ながら「間違いなく」入っているだろう。
英国の外相に新たに就いたエド・ミリバンド(Ed Miliband)氏はこのほど、パリとマドリードを訪問し、フランスの外相のジャン=ノエル・バロ(Jean-Noël Barrot)氏と、スペイン外相のホセ・マヌエル・アルバレス・ブエノ(José Manuel Albares Bueno)氏と、それぞれ会談を持ち、世界に対して化石燃料への依存を減らすよう求める共同声明を発表した。気候変動の影響による激烈な熱波と、すべてを燃やし尽くす森林火災の影響を目の当たりにして、本気の取り組みを他国にも求めた形だ。
英国とフランスの共同声明では、各国政府に対し、地球の平均気温上昇を産業革命前比で1.5℃以内に抑えるという『パリ協定』の目標に沿った、国連の気候計画(国別決定貢献:NDC)を公表するよう求めた。毎年の気候COPの会合で話題になるNDCだが、 国際NGOのClimate Action Trackerによると、1.5℃目標と整合性のある2035年の排出削減目標を盛り込んだNDCを提出しているのは、英国、ナイジェリア、ノルウェーのわずか3カ国だけだ。エジプト、ベトナム、アルゼンチンを含む52カ国は、NDCをまだ提出していない。日本は2030年のNDCの未達成の可能性が高まっている。
排出量削減への取り組みの確認に加え、外相らは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の次期主要評価報告書の発表時期をめぐる継続中の論争にも言及した。ミリバンド氏とバロット氏は声明で、2年後に予定されている気候行動の進捗状況に関する政府間の次期グローバル・ストックテイクに、この科学報告書が反映されることの「重要性を強調」し、同報告書をそのプロセスへの「極めて重要なインプット」だとした。
同報告書の発表時期は、IPCCにおける政府間交渉や6月にボンで開催された気候変動会合において、常に論争の的となってきた。自らを「科学の友(Friends of Science)」と称する国々のグループは、進捗状況の総括に先立って報告書を公表することを求める一方、サウジアラビアやインドなどの国々は、そうすることで報告書の質が低下し、開発途上国の科学者の意見が十分に反映されなくなると反対している。
両氏は、11月に開かれるCOP31において、特に強力な温室効果ガスであるメタンの排出削減を加速させるよう努めることも強調した。両国は各国政府に対し、「メタン排出強度がほぼゼロの化石燃料市場を構築するために共同で取り組む」よう促すとした。メタンはエネルギー産業などが「移行燃料」と位置付ける天然ガス、LNGに多く含まれることから、LNGが「メタン削減したうえでの移行燃料」として、とどまれるかどうかが焦点だ。
英国とスペインの共同声明では、グローバル・サウス(途上諸国)を支援することの重要性を改めて強調した。「われわれが直面する課題に見合った規模で」持続可能な資金を途上国の気候対策に動員することの必要性を力説した。ミリバンド氏は前英政権で、エネルギー大臣を務めており、その際、軍事費の増額に充てるため、途上国への気候資金を削減している。英国がリーダーシップをとるならば、これまでの途上国対応も見直すべきだろう。
グテーレス氏は、「個々の災害を孤立した悲劇として扱うのをやめ、われわれの目の前で展開しているシステミック・リスクとして認識すべき時が来た」と述べた。英メディアのガーディアンの調査によると、英国で6月に発生した熱波に関するメディア報道の4分の3が、気候変動に言及していなかったことが指摘されている。
さらに同氏は、排出量の削減に加え、極端な暑さにさらされる脆弱な人々を保護するための適応策への取り組みを求めた。具体的には、極端な暑さに耐えられるよう建物を新築・改修すべきであり、すべての都市や国が「暑さ・健康」行動計画と早期警報システムを整備すべきだとした。同氏によると、250以上の都市が国連の「ビート・ザ・ヒート(Beat the Heat)」イニシアチブに参加しているという。
(藤井良広)


































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