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ワシントンでは、早くも「トランプ 3」の観測が飛び交う(山崎一民)

2025-02-10 16:21:38

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写真は、1月20日の大統領就任式での宣誓の様子=BBCニュースより:https://www.bbc.com/news/videos/cy9lvveyyqxo

 

 トランプ米政権は始まったばかりだが、ワシントンでは「Trump 3」が、すでに話題を広げている。つまりトランプ氏は大統領3選を目指すか、目指すならどのような手立てが考えられるかを巡って憶測が飛んでいるのだ。

 

 トランプ氏は昨年11月の大統領選挙の投票所で記者団に「大統領選挙に出るのは今回が最後だ」と語っていた。ところが大統領に当選後、米議会下院の共和党議員との会合では「皆さんが、私は『素晴らしいからもう1期大統領をやってほしい』と考え、何かしない限り、私が再び(大統領選挙に)出馬することはないだろう」と冗談めかして言ったことがある。その後、上院共和党議員との会合でも同種の発言をしている。

 

 米憲法は修正第22条で「何人も2回を超えて大統領の職に選出されてはならない」と定めている。これが大統領の「3選禁止規定」とされている。トランプ氏は3回大統領をやりたいなら憲法を改正し、「大統領の3選規定」を設けなければならない。しかし憲法改正は容易ではない。憲法は第5条で改正手続きを定めており、米議会上下両院の3分の2以上の議員が発議するか、全米3分の2以上の州議会の請求による憲法会議を招集して発議しなければならない。

 

  加えて、憲法改正案を成立させるには州議会の4分の3以上の承認が必要である。これは現在の党派対立が先鋭化している政治状況下では容易ではない。現在、共和党のトライフェクタ州(州知事、州議会上下両院を共和党が制している州)は23州、民主党のトライフェクタ州は15州で、残る12州では知事と州議会を異なる政党が制している。こうした政治分断下で38州の州議会の承認を得るのは難しい。

 

トランプ大統領3期目実現の法案を提出したオーグルズ議員
トランプ大統領3期目実現の法案を提出したオーグルズ議員

 

 米議会下院共和党のアンディ・オーグルズ(Andy Ogles  :  テネシー州選出)議員は今年1月23日、憲法修正22条を改正する上下両院合同決議案を提出した。同議員は極右の親トランプ派議員で、改正決議案は「2期連続で大統領を務めなかった者は3期目を求めることができる」としており、トランプ氏の3選に道を開くことを狙った決議案である。https://ogles.house.gov/media/press-releases/rep-ogles-proposes-amending-22nd-amendment-allow-trump-serve-third-term

 

    トランプ氏は大統領を1期務めた後に落選し、4年後に再当選しており、同決議案が成立すれば通算3期目を果たすことが可能になる。しかしこの決議案が成立したとしても、クリントン、ブッシュ(子)、オバマの3人の元大統領は3期目を目指すことはできない。これら3人の元大統領は2期連続で大統領を務めたからだ。

 

 またトランプ氏なら、本気で3選を狙うつもりになったらやりかねないと言われている手段がある。一つは憲法修正22条を破棄することである。しかし憲法改正同様の手続きを踏まなければできない。

 

 もう一つ奇抜なアイディアとして囁かれているのは、2028年の大統領選挙で、ヴァンス副大統領を大統領候補に擁立、トランプ氏はその副大統領候補となり、選挙に勝ったらヴァンス大統領を辞任させトランプ氏が憲法修正第25条の規定(「大統領の免職、死亡、辞職の場合には副大統領が大統領となる」)に基づき大統領に昇任する。そうすれば事実上トランプ氏は3選を果たし、大統領を3回務めることができる。この場合の大統領選挙運動のスローガンは「Vote Vance to Make Trump President Again!」となる。

 

 トランプ氏の3選を阻む最大の障害は「高齢」かもしれない。同氏はもし2028年11月7日の大統領選挙で3選を実現するなら、2029年1月20日に大統領に就任することになり、その時点では82歳になっている。現在のバイデン前大統領と同年齢である。今78歳のトランプ氏はいたって健康そうだが、誰しも年には勝てない。「トランプ  3」が現実になれば、トランプ劇場を沸かすだろう。

 

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 米世論調査会社のギャラップ社は、就任式から原則1週間後に、新大統領(トランプ氏以外は全員1期目)の全米支持率調査を行うのが恒例となっている。大統領の「初期支持率」と称し、アイゼンハワー(敬称略)以降、全大統領について調査してきている。トランプ2期目の初期支持率(1月21〜27日調査)は47%である。過去の最低は2017年のトランプで45%だった。初期支持率が40%台の低率だったのは、今回と2017年のトランプだけである。https://news.gallup.com/poll/655955/trump-inaugural-approval-rating-historically-low-again.aspx

 

ギャラップ社の歴代大統領の支持率調査
ギャラップ社の歴代大統領の初期支持率調査

 

 他の大統領の初期支持率は最高がケネディで72%、次いでアイゼンハワーとオバマが68%、カーター66%、ニクソン59%、クリントン58%、ブッシュ(子)とバイデン57%、レーガンとブッシュ(父)51%となっている。


 一方、不支持率ではトランプは48%で、同調査史上最高である。不支持率が2番目に高いのは2017年のトランプで45%だった。不支持率が40%台と高いのはトランプだけである。他に不支持率が2桁の大統領は5人で、バイデン37%、ブッシュ(子)25%、クリントン20%、レーガン13%、オバマ12%である。その他の大統領の不支持率は全て1桁で、最も低いのがニクソンの5%、ケネディとブッシュ(父)6%、アイゼンハワー7%、であった。

 

 

(注)本記事は、筆者が発行する「ワシントンウォッチ」2025年2月7日号の記事の一部を、筆者の了解を得て転載しました。

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山崎 一民(やまざき かずたみ) ワシントンウォッチ誌編集長。日本経済新聞ワシントン特派員、米国ハーバード大学ニーマンフェロー、駐日米国大使館シニアエコノミックアドバイザー等を歴任。1994年に家族と渡米。同年に「Washington Watch」創刊。東京大学法学部図書館に同誌のアーカイブが開設されている。2004年、日米交流150周年に際し、日米の相互理解、友好親善に寄与したとして外務大臣表彰を受けた。