台風10号の強風の影響。地球温暖化で風速で秒速約3m強く(7.5%)、発生確率で26%上昇。英ICLの研究チームが温暖化による気温上昇を踏まえたモデル分析で解明(RIEF)
2024-08-31 01:52:57
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日本列島を「強風」と「豪雨」で揺さぶっている台風10号の影響について、地球温暖化による平均気温の上昇により、温暖化の影響がない場合に比べて、最大風速が秒速約3m(7.5%)強くなり、発生確率は26%高まることが、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究機関のモデル分析によって示された。同分析では、九州に接近するこれまでの何千もの台風の影響と動きをシミュレートし、産業革命以前の気候と、人為による温暖化の進展で平均気温が1.3℃上昇した現在の気候の両方で、起こりうる台風の強度の範囲を推計した。
ICLのグランサム研究所(Grantham Institute)のラルフ・トゥーミ(Ralf Toumi)教授らが、自ら開発したモデル分析手法「The Imperial College Storm Model(IRIS)」を活用し、台風10号(国際名では台風シャンシャン)の潜在的な強度(風速など)を調べた。
これまでに九州を襲い、観測データが残っているすべての台風の強度を測定し、それに地球温暖化による産業革命前以来の今日までの平均気温の1.3℃上昇による影響を加えて抽出した「合成台風」の軌跡を分析した。台風の最大風速を予測には、海面水温と気温、そして空気湿度のデータを用いた。
その結果、今回の台風10号の場合、最大風速が、気候変動の影響によって時速約6.5マイル(秒速約3m)分または7.5%分、気候変動の影響を想定しない場合に比べて、強くなっていることを見出した。また台風10号クラスの台風の発生確率については、温暖化の影響で26%増えているとしている。
つまり、温暖化による1.3℃の平均気温の上昇によって、台風10号クラスの台風が襲来する頻度が、10年間で従来の約4.5回から5.7回へと1回以上増えていることになる。
同研究機関が開発したモデル「IRIS」は、他の台風やハリケーン、サイクロン等にも応用できる。トゥーミ教授らは、台風10号の分析に先んじて、7月にフィリピン北部や、台湾、中国湖南省など、東南アジアの広い地域に破壊的な風と雨をもたらした台風Gaemiについても、温暖化の影響をモデル分析した。
それによると、温暖化による気温上昇によって、フィリピン北部では約20年(5~30年)に1度、台湾では約5年(1.5~20年)に1度、湖南省では約100年(90~160年)に1度、台風Gaemiのような激しい降雨現象が発生している。モデルによる気候変動の影響は、台湾と湖南省では降雨量がそれぞれ約14%と9%多くなり、両地域で降雨量の合計は気候変動によって約60%増えている可能性が高くなったとしている。
さらに、世界が化石燃料を使い続けて、温暖化が加速して平均気温の上昇が産業革命前の水準から2℃高くなった場合、両地域での台風による壊滅的な被害が発生する可能性は30~50%高くなるとしている。フィリピン北部では、観測データでは、台風が激化した3日間の降雨量は約12%増加したが、同地域のデータセットには大きな不確実性もあるとしている。
気候モデルは、現在の気候では降雨量の増加と減少の両方を示唆しているが、気温が2℃上昇へと温暖化が高まる方向へと、将来の気候が推移する場合は、降雨量の増加が上回ることを示唆しているとしている。
研究者らは、気候変動が台風の潜在的な強度に及ぼす影響は不確実性があるとしながらも、陸上、海洋の両方での気温の上昇などから総合すると、気候変動は台風を発生させやすい条件を高めており、台風が発生した場合、降雨量と風速がより強くなることを示している、と評価している。この点は、気候変動によって熱帯低気圧がより激しく、より湿潤になっているという他の科学的知見とも一致している、としている。