環境省。難分解性化学物質「PFAS」関連の来年度予算要求で、汚染地域住民の血液検査費用を要求から削除。住民の血液検査は「(実施すると)かえって不安を増す可能性」と否定的(各紙)
2024-09-01 03:19:00
各紙の報道によると、環境省は、来年度予算要求で、発がん性が疑われる難分解性化学物質のPFAS(有機フッ素化合物)の対策費用を計上すると発表したが、汚染地域住民から要求の出ていた汚染地域での住民の血液検査費用は要求から削除した。同省は米軍施設や工場等の周辺でPFASが検出される問題で、自治体向けの手引の修正案で、住民の血液検査は「(実施すると)かえって不安が増す可能性がある」として否定的な判断を示していることがわかっている。健康影響の有無を調べるのは、対策実施の基本。この役所は一体、どこを見て行政をやっているのだろうか。
東京新聞が報じた。それによると、同省はPFAS関連の当初予算の概算要求額は4億6000万円とした。今年度(2024年度)の当初予算額から約2億6000万円の増額要求となる。しかし、米軍横田基地を抱える東京・多摩地区などのPFAS汚染が見つかっている地域住民らが求めていた住民の血液検査の費用については盛り込まなかった。
同省は、住民の血液検査については、全国の平均的なPFASの血中濃度の測定は継続するが、汚染地域に絞った調査は実施しないとしている。伊藤信太郎環境相は30日の記者会見で「現時点でどの程度の血中濃度で健康被害が生じるか、明らかになっていない」と述べたという。「明らかになっていないから、調査してもらいたい」というのが住民らの声だ。同省はそうした「住民の声」は聞かずに、誰に配慮しているのだろうか。
予算要求の対象事業は、要求額の大半の4億1000万円が暫定目標値を超えるPFASが水道水から検出された地域で摂取防止策を調査するための費用などとしている。またPFASを含んだ泡消火剤の在庫量や海外の規制状況を調べるためとして5000万円を計上する。住民の血液検査については、全国の平均的なPFASの血中濃度の測定は継続するが、汚染地域に絞った調査は実施しない方針という。まったく、意味の分からない役所だ。
東京新聞では、今回の報道に先立って、今月初め、同省が自治体向けに作成したPFAS対応手引の修正案を入手し、報道している。それによると、住民の血液検査については「(実施すると)かえって不安が増す可能性がある」と説明し、自治体による住民の健康調査に否定的な考えを、新たに盛り込んでいるという。
同省の手引は、2020年に同省が全国の自治体向けに通知するために作成したもの。現行の手引書は5項目で、PFASの摂取対策や排出源の特定、水道水の暫定目標値(1L当たり50ng=㌨㌘)を超えた際の対応などを示している。同省の「PFAS総合戦略検討専門家会議」で現在、内容の修正に向けた議論を進めているという。
同新聞によると、入手した手引の修正案では、「地域住民の健康不安への対応」の項目を追加。自治体が住民に説明する内容として、「どの程度の量が身体に入ると影響が出るかについての十分な知見はない」「摂取が主たる要因とみられる健康被害が生じたという事例は確認されていない」などを挙げているという。
修正案はPFASの影響を調べる追加の健康診断についての考え方も示しているが、特に血液検査には消極的な姿勢で、「血液検査の結果のみで健康影響を把握することは困難」と指摘。「検査を受けた人の精神的な面を含めたフォローの手法が確立されていない」などとして、「かえって不安が増す可能性がある」と懸念を強調しているという。
その上で、住民の健康調査については、特定健診やがん罹患(りかん)情報などの既存統計を用いて地域的な健康影響の傾向を把握する方法が望ましいとの考えを示したうえで、ドイツの公的機関や米国の学術機関が、PFASの血中濃度指標を上回った場合でも「必ずしも健康障害が起こるとも限らない」「将来、健康影響が発生することを意味しない」と否定的な見解を示していることを紹介。健康調査に否定的な同省の主張の補強材料としている。
しかし、水道水から高濃度のPFASが検出された汚染地域の自治体では、健康不安が高まる住民への対応として、血液検査を実施するところが増えている。岡山県吉備中央町では、全国初の公費による血液検査の実施を決定した。町の専門家委員会では、環境省の専門家会議と同様に住民の精神面への懸念も示されたというが、町は「知ることによって不安が解消されることもある」と、住民を信頼する形で判断したという。
またPFASは生物への蓄積性が高いが、数年たてば徐々に排せつされるとされる。このため同町では、数年ごとに血液検査を実施することで、血中のPFAS濃度が減少するかどうかを調べ、摂取対策が有効かどうかを確認する作業も検討しているとされる。
東京都福生市の米軍横田基地が汚染源として疑われている東京・多摩地域では、市民団体と京都大が2022年から23年にかけ取り組んだ血液検査で、検査を受けた住民の46%が、米国の学術機関が定める「健康被害の恐れがある」指標を超過した。特に国分寺市では93%、立川市では75%が超えたとしている。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/351208
https://www.tokyo-np.co.jp/article/344535