HOMERIEF Interview |第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー①大賞は城南信用金庫の「再生可能エネルギー・ファイナンスの展開と国内金融機関初のRE100達成」(RIEF) |

第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー①大賞は城南信用金庫の「再生可能エネルギー・ファイナンスの展開と国内金融機関初のRE100達成」(RIEF)

2020-02-07 17:07:38

 

 第5回(2019年)サステナブルファイナンス大賞は東京の城南信用金庫が受賞しました。東京電力福島第一原子力発電所の事故を契機に、再生可能エネルギー推進のファイナンスを展開してきたほか、2018年には国内金融機関初の再エネ100%導入を内外に宣言する「RE100」に加盟、1年半で達成しました。サステナブルファイナンスを「有言実行」している同信金の川本恭治理事長に聞きました。

 

――受賞おめでとうございます。城南信用金庫の。受賞理由は再生可能エネルギー重視の金融へ転換された点です。そのきっかけを教えてください。

 

 川本氏:大変、名誉ある賞をいただきありがとうございます。私どもが再エネに切り替えを図ったのは、なんといっても東日本大震災、それに続く福島第一原発の事故が大きなきっかけでした。当時は、私たちにいったい何ができるのか、本当に悩みましたが、地域の発展、人々の夢や希望、幸せな生活を奪った、この国の将来を担う子どもたちにとって負の遺産でしかない原発を、地域に立脚した信用金庫として、このままにしておくことはできないと考えました。そこで、「原発に頼らない安心できる社会へ」というメッセージを発信しようと取り組みました。

 

 

川本恭治理事長㊨、審査委員長の佐藤泉弁護士(日本プレスセンターで)
川本恭治理事長㊨、審査委員長の佐藤泉弁護士(日本プレスセンターで)

 

 そこで、事故を起こした東京電力との契約を新電力会社に切り替えました。次いで、原発の即時停止と、それに代わる電力として、再生可能エネルギー普及に向けた、ファイナンスを通じた事業者支援を手がけました。さらに、脱原発への普及啓蒙活動として講演等にも取り組みました。

 

――金融商品の開発にも取り組まれましたね。節電プレミアムローン等を開発・提供されました。これらの新商品開発ではどういう点を重視されましたか。

 

 川本氏:自分たちの考え方を具現化し、顧客の方々にも取り組みを共有してもらいたいということで、節電プレミアムローン、エナジーシフト、節電プレミアム預金等を発売しました。融資商品の節電プレミアムローンとエナジーシフトの合計で2015年度~18年度の間で約83億円を実行しました。預金商品の節電プレミアム預金は超低金利の環境下ですが、約8000万円(1月末時点)ほどお預けいただいております。また同預金以外でも、今まで取引がなかった全国の方が、城南信金の脱原発の取り組みに賛同したとして、預金をしてくださっています。

 

 当初は(原発・エネルギー関係の)こうした方針をはっきり打ち出すと、業務に影響があるのではといったご心配される意見もいろんな方からいただきました。しかし、実際には影響どころか、多くの方々にご賛同をいただき、業務面でもご協力を得ているのが実態です。

 

――開発された節電プレミアムローンというのは、どのような商品ですか。

 

 川本氏:個人の顧客が太陽光発電等の省エネルギーや再生エネルギーの設備を導入される場合の融資です。当初一年間は金利がゼロ。2年目以降は1%という低金利でお貸しします。もう一つのエナジーシフトは事業者向けのローンです。貸出金利は1年間は1.4%、2年目以降は2.4%という設定です。環境マネジメント規格のISO14001を取得している事業者等に対しては、さらに金利を優遇するなども行っています。さらに、城南信金が、こうした取り組みをやっていることを、広く個人、事業者の両方の顧客に分かりやすく紹介するための商品でもあります。

 

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――東電からの電力を新電力に切り替えるという決断は、当時はあまり例がなかったのでは。

 

 川本氏:当時は新電力業者自体があまりなく、まだ普及していない状況の中、われわれはエネット社に取引を変えました。実際には、コストも安かった。この段階での新電力の電力内容には石炭火力由来の電力も入っていました。しかし、「原発に頼らないエネルギーを使っている会社」としてのメッセージを世に出すことを優先して決めました。目的は東電から電力を買うことをやめるということだったのです。

 

――金融機関としていち早く再生可能エネルギー100%に転換する国際イニシアティブの「RE100」に署名されたことも受賞理由の一つです。RE100に署名した理由をお聞かせください。

 

 川本氏:電力を再エネに切り替えていこうという思いは、みんな共有していました。それまで新電力への切り替えや節電等への取り組み、再エネ普及の金融商品開発等を行ってきました。その延長線上で、実際に自分たちが使用する電力も見直していかなければ、これらの取り組みに説得力が欠けるとの議論もあって、RE100への加入を決めました。

 

 ですので、金融機関として「RE100」に署名することに対しては、特に内部で反対はありませんでした。再エネ電力の調達コストの面での意見はでましたが、それよりもとにかく推進しようという意見が大半でした。RE100の電力もエネットから調達しました。契約書に再エネを明記できる点を評価して、同社と契約を結んだのです。FITに頼らない「生グリーンの電力」を確保できることを優先しました。

 

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 RE100への加入にあたり再エネ100%と並ぶ大きな目標の1つとして掲げたのが、金融業界の再エネへの意識向上でした。この意識改革を促進するためには、再生エネルギーを単なる事業とみるのではなく、社会的な課題として見ていく必要があると考えました。自分たちの利害関係上の立場を一度別のところに置いて、考えることが必要と考えています。「金融機関=資金」という狭義の枠組みではなく、エネルギー問題を社会的な問題として捉え、公共的使命を果たす金融機関の大きな枠組みで捉えていく必要があると思います。

 

ーー目標達成の方法は?

 

 川本氏:目標の達成には、再エネ電力を買うだけでなく、本支店や事務センターの可能なところに太陽光パネルを設置し、自分たちでも発電をする取り組みをしています。店舗は大半が自前ですが、一部には、賃貸店舗もあります。その電力は自分たちの意思決定だけでは再エネに変えられません。そこで、Jクレジットを購入して補っています。

 

 当時、リース会社等を除くと、預貯金を扱う金融機関としてRE100に署名しているところはありませんでした。RE100の署名自体、日本勢全体でも7番目でした。今は30社になっているようです。署名後、いろいろな会社から最新の情報や問い合わせをもらいました。そして、1年半で再エネ100 %化を実現することができました。

 

――他の金融機関等の反応はどうでしたか。

 

 川本氏:「さすが城南だね」との声をよく聞きました。他の金融機関や銀行協会等からも問い合わせをいただきました。うちができたので、やろうと思えば、当然どこの金融機関でもできると思います。ただ、やはり他の金融機関では、なかなか内部のコンセンサスを得られないのではないかとも思います。行内の同意と、さらには取引先とのコンセンサスも必要です。

 

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――城南信金ではそうした内外のコンセンサスがなぜ短期間でできたのですか。

 

 川本氏:最初の脱原発宣言や、再エネ100%宣言等の活動をやって、何か業務にマイナスの点があったかというと、まったくありません。顧客の中には原発の関係の仕事をしている企業や、東電関連の仕事をしている企業もたくさんおられます。では、そういう取引先が城南信金との取引をやめたかというと、そんなことは一切ありません。それどころか我々の活動に賛同していただいて、どんどん取引が広がっているのが現状です。そう考えると、他の金融機関は少し心配し過ぎな気がします。

 

――城南信金に続続いて、脱原発や、再エネ100%を宣言する金融機関がまだ見当たりません。

 

 川本氏:そうですね。こんなにいいことなのに、どうして他の金融機関はやらないのかと不思議に思います。どこかで損得勘定が働いているような気もします。城南信金は、協同組織の地域金融機関ということで、地域の皆様のためにとことん尽くすという方針でやっています。その方針からすると、答えは自ずと出てきます。なので、社内的混乱も一切なく進めてきました。本当にこうした方針でやってきてよかったと思っています。

 

――協同組織と銀行組織の違いが大きいのかもしれませんね。銀行は株主をみるが、協同組織は組合員が作っており出資者と利用者が一体。この違いは大きい。協同組織の意義を社会的にも改めて見直したほうがいいようにも思います。

 

 川本氏:まったくその通りです。われわれは株主に気を遣うということもない。地域の皆様のための金融機関なのですから。赤字はだめですが、活動をできる程度の利益を確保できれば、あとは地域に、会員に還元するというのが基本的な考え方です。ですから、地域のためには、ある意味では思い切ったこともできます。

 

 我々のネックは規模が小さい点だと、いわれてきました。そこで吉原毅元理事長の時代に他の信金との連携を全国規模で進めました。どの信金も自分の営業地域内では絶対に他の金融機関には負けないという自負があります。これを全国規模で連携することで、他の地域、あるいは全国的課題にも対応できるということを目指した取り組みを始めました。

 

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 当初は、東日本大震災の応援としてスタートしました。連携策の一つとして、年に一回、「“よい仕事おこし”フェア」を東京・有楽町で開催しています。2019年には、全国257ある信金のうち229の信金が参加してもらいました。信金だけでなく、全都道府県や市区町村などからも後援や出店をしてもらっています。ものすごくいい連携が進んでいるのです。一つでは小さいが、みんなで連携すれば、どこにも負けない素晴らしいことができる気がしています。

 

 ――金融機関はこれまで大きいことがリスク対応でも強いとされてきました。しかし、現状は、大きくなりすぎて顧客との距離が遠くなっていないか、という問題が起きています。メガバンク等はどんどんお店を減らし、個人顧客を減らすことを目指しているようです。顧客から遠ざかろうとしているようにも見えます。

 

 川本氏:城南信金は今、金融機関の枠を超えた「お客様応援企業」を目指して活動をしています。単なる金融業務だけでなく、より身近な顧客の課題、お困りごとを解決することを一生懸命やりましょうと、業務のメインにしていこうとしています。ですから、支店を減らしたり、職員を減らすようなことは全く計画をしていません。顧客に「より近い」ところで営業をしていきたいと常に思っています。

 

 ――ESG金融、サステナブルファイナンス等が日本の金融業界でも語られるようになってきました。城南信金のこれまでの活動はまさに、そうした活動を先駆的に取り組んできたように思います。日本の金融がESG金融、サステナブルファイナンスに取り組むうえでの課題やポイントはどのような点にあるとお考えになられますか。

 

 川本氏:金融業界の意識改革を促進するには、先にも述べましたが再エネを単なる事業とみるのではなく、社会的な課題として見ていく必要があります。金融機関の業務の幅は広く、利害関係も様々な所で生まれます。しかし、今日起きている自然災害による被害の大きさから見て分かる通り、環境問題は、どの分野においても大きな影響をもたらす深刻な問題である、ともっと強く認識し、金融業界としても取り組んでいく必要があります。こうした災害から得た教訓を通じて、私たちが何を学び、企業としてどう取り組んでいくべきか、常に考え続け、行動していくことこそ、企業が社会に対して果たしていくべき大きな責務であると考えています。

 

                                                       (聞き手 藤井良広)