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COP28「勝者」はロシア。天然ガス想定の「移行燃料」確保を合意に盛り込み成功。EUも暗黙の了承か。「化石燃料段階的廃止」論議は「目くらまし」(?)(藤井良広)

2023-12-22 23:55:04

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写真は、ロシアの気候問題担当者アブバカル・エデルゲリエフ氏㊨と、背中姿はグテレス国連事務総長=CHNより)

 

  先に幕を閉じた国連気候変動枠組み条約第28回締約会議(COP28)の成果文書に「化石燃料からの脱却」を盛り込んだことは「目くらまし」で、今回のCOPの最大の勝者はロシアだったとの見方が浮上している。会議全体の焦点は、「化石燃料の段階的廃止(phase-out of fossil fuels)」の文言を盛り込むかどうかの綱引きだったとされる。だが、実は同文言をめぐる綱引きはある意味で想定された「出来レース」で、同文言の取り扱いに関係者がヒートアップしている隙を縫うようにして、「移行燃料(Transitonal fuels)」の文言が入った。移行燃料は天然ガスを前提にしており、最初の発案者はロシアというから驚く。しかも同文言の盛り込みをEUが陰で支援したらしい。

 

 <歴史的合意か、抜け穴だらけか>

 

年末までわずかとなった現時点で、各国の環境NGOや企業、研究機関等は、今回のCOP28の総括、成果評価等を行っている。COPを成功と讃える向きは「化石燃料の脱却」に合意したことは歴史的成果だ、と強調する。同合意の対象となる「化石燃料」は「fuels」と複数形で記載されているので石炭だけでなく、石油・ガスも含まれる、と解説する「識者」もいる。

 

 懸念を示す向きは「脱却」と「廃止」の違いが不明で、「廃止」の表現を退けて「脱却」の表現に代えたのだから、化石燃料全体の廃止につながるものではなく、化石燃料だけに依存する構造からは脱却するが、同燃料の使用を否定するものではない、との解釈を示す。その依存と脱却の程度は、国によって異なることになる。では、今と、どれくらい変わるのだろか。

 

成果文書の採択を評価するCOP28の最終日
成果文書の採択を評価するCOP28の最終日

 

 スウェーデンの環境活動家のグレタ・ツゥーンベリさんは「成果文書は『歴史的な合意』なんかではなく、抜け穴だらけの極めて曖昧で水増しされた文書の新たな一例でしかない。1.5℃目標を維持し、気候正義を確保するのに十分とは到底、言えない。化石燃料の段階的廃止は最低限必要なこと」とバッサリ切って捨てるコメントをSNSで発信した。https://twitter.com/GretaThunberg/status/1735630500595732879

 

 議論が集中するのが、最後の取りまとめでもめたとされる「パラグラフ28」の文言だ。各国に対してグローバルな努力(貢献)を求める8つの項目を列挙している。2030年までに再生可能エネルギー発電能力を3倍増、省エネ改善を倍増する合意も盛り込まれている。ここに盛り込む項目とその項目の文言をめぐって各国代表たちが激しくやり合ったわけだ。

 

 だが「28」をめぐる議論の錯そうの間に、次の「パラグラフ29」の扱いが不自然な動きをしていたという。同パラグラフは「移行のための燃料(transitional fuels)は、エネルギー安全保障を確保するとともに、エネルギー移行(energy transition)を促進する役割を果たしうることを認識する」という表現だ。英メディアClimate Home News(CHN)の検証によると、「移行燃料」という表現は、ロシアが2月の段階に国連に提唱した新たな文言とされる。

 

<天然ガスをめぐるロシアとEUの微妙な関係>

 

 世界第二位の天然ガス産出国のロシアは、EUに対しても、ガスの供給を通じてEUのロシアのエネルギー依存度増大を高めてきた。ロシアのウクライナ侵攻で、ロシアのガス依存率の高いEUの国々、特にドイツ等は、対ロ経済制裁としてロシアからのガスの輸入停止を盛り込む一方で、代替エネルギーの確保に苦吟し、グローバルなエネルギー価格上昇の大きな要因にもなった。

 

ロシアの天然ガス生産基地
ロシアの天然ガス生産基地

 

 長引くロシア・ウクライナ戦争の現時点においても、EUはロシアからのガスの直接輸入の停止は継続するものの、ロシア産LNGの輸入は制裁対象から外している。LNGも制裁対象にすると、EU自体のエネルギー逼迫の悪化につながる懸念があるためだ。ロシアのLNGに依存しつつ、形ばかりの経済制裁を続けながら、一方でウクライナに軍事支援を続けるEUーー。https://rief-jp.org/ct4/137663?ctid=

 

 ロシアは、EUへの実質的なガス供給の継続にとどまらず、COP28を睨み、天然ガスをネットゼロへの「移行燃料」としての国際的な評価を得るための画策を続けてきたとされる。その成果は、10月にCOPの技術専門家チームがまとめた技術サマリーに「天然ガスの効果的な移行燃料としての役割を理解する(recognise role of natural gas as an efficient transitional fuel)」との表現が入る等の形で浸透していった。

 

 天然ガスを、同じ化石燃料の、石炭、石油とは別扱いにしようとのスタンスは、EU自体にも強くある。2022年のサステナブルファイナンス・タクソノミーの「委任法案」の制定に際して、大騒動を展開した結果、原発とともにガスを「移行事業」に位置付けた。ロシアに対する経済制裁を実施しながら(LNGの抜け穴はあるが)、EU自体のネットゼロ実現に向けたエネルギー戦略上の帳尻合わせも必要との判断だったようだ。https://rief-jp.org/ct5/126425?ctid=

 

 そうした「現実対応」をとるEUの立場は、ロシアにも見透かされていたといえる。あるいは、両者の間で、何らかの調整があった可能性も考えられる。少なくとも、EUは天然ガスを前提とした「移行燃料」の概念をCOPの場で認知させようとするロシアの動きに、暗黙の支持を与えてきたといえる。

 

 「移行燃料」支持派は、EUだけでもなかったようだ。COP28の最後の各国間調整において、カリブ海の島嶼部諸国アンティグア・バーブータの代表、Diann Black-Layne氏は「『移行燃料』の言葉は危険な抜け穴だ。ガスだけでなく、石炭、石油もすべての化石燃料が含まれる可能性がある。われわれはすべての化石燃料から脱却しなければならない」と指摘、「移行燃料」の文言を入れることに反対を表明した。

 

 一方で、同じカリブ海のバルバドスの気候大使の Avinash Persaud氏は「電力網の移行化を考えれば、ネットゼロの電力網ができるまで、既存の電力網を途中段階まで使わざるを得ない」と理解を示したうえで、メディアに対して「『移行燃料』の表現については、少なからぬ国々が支持した。ロシアだけではない」と明かしている。

 

<一時的に、抜け落ちた「29項目」>

 

 Cop28の各国交渉の終盤の局面で、ロシアの代表は改めて「天然ガスのような低炭素のフットプリントを有する燃料の役割を強調したい。それらは『移行燃料』であり、温室効果ガスの効率的な削減を可能にする」とアピールした。これらの議論を受けて、議長国のアラブ首長国連邦(UAE)は当初の議長案に「天然ガス」の言葉を抜いた形で、「移行燃料」に言及した案を盛り込んだとされる。ただ、その3日後の議長案バージョンでは、文言はすっぽり抜け落ちていたという。

 

COP28にはこれまで最高のエネルギー業界のロビイストが参集した=PPJCより
COP28にはこれまで最高のエネルギー業界のロビイストが参集した=PPJCより

 

 参加国の関心は最終日を目指して、「化石燃料の段階的廃止」を盛り込むかどうかに集中した議論となっていた。だが、その議論に「移行燃料」の扱いを絡めた議論はなかった。なぜなら、議長案からその文言が一時的に消えたためだ。交渉団もメディアもNGO等のステークホルダーも、移行燃料を想定しないまま、12日の最終日に臨んだ。ところが、最終案の調整の中で、同日午後8時段階の文書案に「パラグラフ29」が、再び、そっと差し込まれたという。多くの交渉担当者は、疲労の中、「29」の再登場に気づかないまま、議論を続け、翌日午前7時に最終文書が発行されて初めて気づいた関係者も少なくなかったようだ。

 

 「移行燃料」の議論を避けたのか、あるいは「段階的廃止」の議論に参加者を集中させようとしたのか。その意図はわからない。ただ、ロシアが主導し、EUも暗黙の了解を与え、島嶼部諸国を含めた「現実論者」の「やむを得ない」との判断も入り混じる中で、「移行燃料は、エネルギー安全保障を確保するとともに、エネルギー移行を促進する役割を果たしうることを認識する」(パラグラフ29)で合意したという経緯は、ほぼ上述のようだ。

 

 移行燃料の表現から天然ガスの言葉は消えた。だが、ガス以外の石炭、石油を「移行燃料」扱いにする国はまず、いない。日本政府だけが石炭火力をアンモニア混焼やCCUS等で移行手段として維持しようとしているぐらいだろう。移行燃料の評価について、エネルギー安全保障とエネルギー移行の促進、という二つの要因をあげたが、両要因は、エネルギー多産出国以外のすべての国に該当する。そう考えると、天然ガスのネットゼロまでの延命はほぼ決まったともいえる。

 

 考えてみれば、産油国のUAEにおいてCOPを開催すること自体が、リスクの高いことでもあった。国連の気候会議を産油国が肩を並べる中東で開くことで、UAEだけでなく、サウジアラビア等の化石燃料大国がそれなりに、気候変動対策を真剣に考えて、自国の石油・ガスエネルギーを「封印」する決意をする可能性があると、国連が見なしていたとすれば、歴史的にも、地政学的にも「甘い見通し」ということになるのではないか。

 

ドイツの気候担当相
ドイツ外相のAnnalena Baerbrock氏

 

 非OPECの産油国として、サウジ等のOPEC諸国と利害共通の立場にあるロシアが、天然ガスを前提とした「移行燃料」容認の提案を主導したとすれば、OPECの各国とも水面下で連携していたと考えるほうが自然だ。さらにエネルギーをロシア・中東に頼るEU、独自のエネルギー大国である米国、カナダ等も「移行燃料」を否定する立場にはない。日本政府もそうだろう。こうした力関係を計ったうえで、国連はUAEでのCOP開催を決めたのだろうか。まさか、国連がそうした力関係や各国事情を知らないはずもない。

 

 こうした合意を「歴史的合意」といえるかどうか。ドイツの外相のAnnalena Baerbock氏は、COP28の最終文書を踏まえた会見で、「EUとしては最終テキストを十分に吟味する時間はなかったが、このパラグラフは正直なパラグラフ(honest paragraph)だ」と述べたという。EUは前回のCOP27で自らは天然ガスを使いながら、他の国には再エネにシフトするよう要請する『偽善者』だ、との批判を受けた。それに比べると、今回は自らもガス使用を移行燃料として認める合意に賛同したことで、「正直」に本音を述べたということかもしれない。

 

 そのうえで、同氏は「こうしたこと(移行燃料の使用)は次から次に起きることではなく、ゆっくり起きることだ。ガスは移行のための『橋』のようなもの。すべての橋には渡り終えた先があるように、移行を終えれば役割は終わる」と「正直」に語った。移行を終えればだが、化石燃料を国家安全保障上の理由やエネルギー移行を条件として使用し続けていると、いくら歩いても橋を渡り切れず、移行の途中で気候変動の激化によって行き詰まるリスクに遭遇する場合には、どのように備えるつもりなのだろうか。「正直」に語ってもらいたい。

https://unfccc.int/sites/default/files/resource/GST_1_0.pdf

https://unfccc.int/sites/default/files/resource/SYR_Views%20on%20%20Elements%20for%20CoO.pdf

 

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藤井良広

藤井 良広(ふじい よしひろ) 一般社団法人環境金融研究機構代表理事。元上智大学地球環境学研究科教授、元日本経済新聞経済部編集委員、ISOサステナブルファイナンス専門委員、CBIアドバイザー等を兼任。神戸市出身。