書評 : 「実践 建設カーボンニュートラル~コンクリートから生まれる45兆円の新ビジネス~」 春日昭夫著(日経BP)
2024-07-18 23:40:08
本書は世界のGDP(国内総生産)の13%を占める最大級の産業である建設業、中でも日本の建設業のカーボンニュートラルへの処方箋を描いたものである。本来は専門家向けの難しい分野だが、そうした堅苦しさをほとんど感じさせない。セメントを使わない「ゼロセメントコンクリート」や、鉄の代わりにFRP(繊維強化プラスチック)を補強材にした「ノンメタル橋」など専門知識がなくても興味津々の内容が盛りだくさん紹介されている。まるでカーボンニュートラルをきっかけに、100年先を見据えた建設業の壮大な再生物語を読んでいるようだ。専門的な内容なのに、いつのまにか読み切ってしまう不思議な魅力が詰まった本でもある。
建設に関連するものをすべて合計したCO₂排出量は世界全体の15~20%を占め、建設業が世界のCO₂削減の鍵を握っているとされる。本書の副題は「コンクリートから生まれる45兆円の新ビジネス」。「カーボンニュートラル」というと、CO2排出削減を求められる産業や企業にとっては、ネガティブなイメージで受け取られる場合もあるが、本書によれば建設業の「挑戦」によって世界中で年間45兆円もの巨大市場が生まれる。
CO₂削減は「リスク」ではなく「チャンス」、というのが著者のメッセージだ。その道のりを製造、建設、共用、共用終了、新たなサイクルの5段階に分け、詳細なデータと世界の最新の取り組み事例を、分かり易い写真や図表付きで説明している。例えば、製造業に比べて劣るとされる建設業の生産性を超大型機械やICT(情報通信技術)の導入などで大幅に引き上げる。さらにメンテナンスフリーの超高耐久財の使用や、災害に備えた強靱化事業への民間資金の活用についても、独自の取り組みを踏まえて提唱している。
カーボンニュートラルに必要な技術が建設業のイノベーションを起こし、省資源かつ循環型で、高い生産性を誇る次世代産業に生まれ変わらせることへの著者の期待と決意が、的確なデータ収集と分析によって具体化された、好著といえよう。
本書の構成は次のようになっている。
第1章 日本のカーボンニュートラルの現在地
第2章 建設分野のサプライチェーンにおけるCO2排出量
第3章 材料製造と建設の段階で使える低炭素技術
第4章 供用段階で使える低炭素技術
第5章 解体段階や新しいライフサイクル段階で使える低炭素技術
第6章 LCAの最適化
第7章 低炭素技術の国際展開
第8章 カーボンニュートラルと経営戦略
第9章 今後の建設カーボンニュートラル
著者紹介:
春日 昭夫(かすが・あきお) 三井住友建設エグゼクティブフェロー。東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻上席研究員。三井住友建設の技術本部長、副社長を経て、2024年4月から現職。取得した特許は100件以上。博士(工学)、技術士。