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2023年の「サステナブルファイナンス・ベストニュース」はTNFDの初開示勧告。2位はISSB気候情報等開示基準。「ワースト」は「電力大手の新電力顧客情報『盗み見』事件」(REIF)

2023-12-31 02:52:49

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 (上図は、アンケートで1位となった、TNFDの自然関連のリスク・オポチュニティ情報開示の発表概要)

 

 2023年は、サステナブルファイナンス関連の課題をめぐる進展、論争、手直し等の動きが内外で起きた。環境金融研究機構(RIEF)のサイトで発信した情報を軸に、この1年の同ファイナンスのベスト・ワーストニュースをRIEFの会員に対するアンケートによって選出した。その結果、「ベスト1」には、「自然関連財務情報開示作業部会(TNFD)」の初の開示勧告が選ばれた。2位は「国際サステナビリティ開示審議会(ISSB)」の気候・サステナビリティ情報開示基準の公表で、サステナビリティ要因把握のための情報開示への関心の高さが際立った。「ワースト1」には、大手電力各社による送配電子会社を通じた新電力の顧客情報「盗み見」事件が選ばれた。

 

 RIEFがこの1年に配信したサステナブルファイナンス、環境金融に関連する内外の情報は800本強だった。毎日2本強、土日を除く平日平均では3本強となった。これらの記事のうちで、社会的、経済的なインパクトがあると思われる記事(36 本)を事務局で抽出し、RIEFの会員にアンケートを実施した。アンケートでは、それぞれの出来事について、「最善」から「最悪」までの評価を10点満点で記載する方式をとった。

 

 有効回答数は39件。この結果、9月に、国連と民間連携によるTNFDによる自然関連リスク・オポチュニティ情報の開示基準となる初の勧告(v1.0)を公表した件が、合計273点で最高点となった。次いで、2位は6月のISSBによる気候・サステナビリティ情報開示基準の公表(259点)、3位がOECDによる企業の社会的責任(CSR)のグローバル基準「OECD企業ガバナンス原則」の改定(254点)となった。

 

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 情報開示のルール化へのRIEF会員の支持は強い。4位の「バーゼル委員会による銀行の自己資本比率規制の『第3の柱』での気候情報開示反映」(252点)、5位の「米カリフォルニア州によるScope3開示義務化を州法改正」(249点)と、「ベスト5」の大半は情報開示関係で占められた。米証券取引委員会(SEC)による気候情報開示ルールの導入案は宙に浮いたまま、年を越すため、今回のアンケートでも23位(172点)と冴えなかった。

 

 一方、もっとも点数が低かったのが、電力各社が送配電子会社が接続契約を結んでいる新電力各社の顧客情報を、同子会社のシステムを通じて不正アクセスをし「盗み見」していた事件(98点)だった。大手電力各社は、関西電力を中心として顧客囲い込みのカルテルを結んでいたことを、公正取引委員会に摘発された事件(150点:ワースト8位)も発覚した。わが国の旧来型の電力行政に守られた大手電力会社の「不正行動の温存構造」が社会の顰蹙を買った年でもあった。

 

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 ワースト2位は、大手損保が共同保険で不正なカルテルを結んでいた事件(105点)。損保業界の寡占体制により、いびつな保険の引き受けが日常化している実態が浮き彫りになった。金融庁の保険行政自体が、そうした業界の寡占体制を前提にした監督対応である問題点も指摘されている。地域寡占の電力大手のカルテル体質を温存してきた監督官庁の経済産業省と、寡占状況の銀行・保険業界を前提とした監督行政の綻びが、そろって露呈した年でもあった。

 

 ワーストの3位と4位は、11月に世界の日平均気温が「2℃突破日」が相次いで出現したニュースと、世界の平均気温が観測史上最高を記録したニュースで占められた。「沸騰する地球」の実感は、日本の年末の「暖かい師走」でも実感させられる。気候変動進展が肌身で感じられるにもかかわらず、国連気候変動条約第28回締約国会議(COP28)は明確な「化石燃料の廃止」を示すことができず、「言葉遊び」に終わった。アンケートでの「COP28」への評価は6位(241点)にとどまった。

 

 サステナビリティ、ESG、気候対応等の課題は、企業やNGO、政策担当者、研究者、生活者等の立場の違いによって、評価は分かれる。ベスト1、2のTCFDとISSBについては、回答者のうち5人が10点満点をつけたほか、全体的に点数が高かった。これに対して、環境NGO等が、JERAの広告をグリーンウォッシュだとして広告審査機構に排除勧告を申し立てたニュースの順位は16位と中くらいの評価だったが、10点満点の回答が9人いた。グリーンウォッシュ問題への関心の高さを示した。

                           (藤井良広)