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ボルヴィックの「1ℓ for 10ℓ」プログラム、今月末で「10年間」のキャンペーンを終了。商品を通じた社会貢献の成果は、日本の消費者と企業に、どう定着したか(藤井良広)

2016-08-23 18:20:21

volvicキャプチャ

 

   ミネラルウェーターのボルヴィックが毎年展開してきた「1ℓ for 10ℓ(ワンリッター フォー テンリッター)」プログラムが、今月末で終了する。ボルヴィックを1ℓ購入すると、ユニセフ(国連児童基金)との連携で、アフリカに住む人々に10ℓの清潔で安全な水が供給される、というキャンペーンは、商品購入を通じて消費者も社会に貢献できる仕組みを、日本でも定着させたといえる。

 

 ボルヴィックはフランスのダノングループの製品。日本ではキリンビバレッジが販売している。「1ℓ for 10ℓ」プログラムは、2007年に開始された。ボルヴィックとユニセフの連携は2005年から行なっており、まずドイツで開始、翌06年にフランス、そして07年日本という経緯をたどった。それ以外でも、米国、カナダ、イギリス、オーストリア、スイス、ルクセンブルクで実施してきた。

 

 日本では毎年、5月から8月末までの間に実施してきた。これまでに日本が協力するアフリカのマリ共和国で新設・修復された井戸(水場)は277基で、昨年までに日本の売り上げ支援によって開発した水の総量は約47.3億㍑に達している。これまでの累計支援金は約2億8400万円。

 

 生活に欠かせない水を安全で清潔な形で供給することで、住民の健康管理が向上、特に5歳未満の子どもの早期死亡率の改善が進んだ。また設置した井戸は現地の人々が自ら維持管理できるよう、作業のトレーニングなども提供してきた。当初から10年計画でのプログラムなので、予定通りの成果をあげて幕を閉じることになる。

 

 販売を担当するキリンビバレッジでは、現地の住民に対する維持管理のトレーニングと水と衛生に関するこれまでの啓発活動の成果で、プログラム終了後も10年以上にわたって、開発した井戸は維持・管理・運営されていくと、期待している。10年目の今年の活動成果については、プログラム終了後に公表する予定。

 

 同プログラムの成果は、マリ共和国の住民にプラスになっただけではない。日本をはじめ、ボルヴィックを飲む先進国の消費者は、ミネラル・ウォーター購入という行為を通して、手軽に社会貢献できるという手段を手にできた。マーケティング論では、商品の購入を通じて社会貢献できる魅力を消費者に提供する方法をCRM(Cause Related marketing)という。

 

 社会貢献や大義・理想などのCauseを、消費活動を通じて実現するようマーケティングとして取り組む手法だ。1983年に米カード会社のAmexがニューヨークの「自由の女神」の修復資金の寄付キャンペーンとして、Amexカードの利用者がカードを利用するたびに、Amex社が1㌣を修復資金として寄付するキャンペーンを行なったのが最初とされる。

 

 Amexにとっては寄付分はコスト増になる。だが、キャンペーンの趣旨に賛同する消費者が増え、同社のカードの新規会員の増加と、カード利用回数の増加で、結果的に収益増につながったと評価されている。似たようなCRMマーケティングは、アップル、グッチ、マイクロソフトなども展開してきた。

 

 ボルヴィックの場合、プログラム初年度2007年の売り上げ箱数は約1523万ケースだったのに対し、2015年は約720万ケースと出荷量が9年で半減した。このことをとらえ、CRMとしては失敗だったと指摘する向きもある。しかし、単価の安いミネラルウォーターをフランスから輸入して日本市場に投入、引き続き年間700万ケースを売り上げているのは、むしろ健闘してきたとみるべきではないだろうか。

 

 CRMの成功は、必ず売り上げに反映するわけではない。市場での競争は多様な要因によって左右される。日本のミネラルウォーター市場は、ボルヴィックやエビアンなどの輸入品が開拓し、その後、国内の清涼飲料メーカが競って参入した。価格競争となり、コスト高の輸入品のシェアが低下するのは、むしろ自然だろう。

 

 しかし、ボルヴィックを買うと「10㍑」の社会貢献ができるという日本の消費者へのアピールは、同製品の「ブランド」となって残った。同プログラムによって、一人ひとりの個人がアフリカへの貢献ができるという経験を、多くの日本の消費者が味わったことは間違いない。問題は、そうした社会的コーズを提供する商品・サービスが日本市場ではまだまだ少ない点ではないだろうか。

 

 ミネラルウォーターや清涼飲料水関連の市場をみても、ボルヴィック以外に、「社会貢献」価値を消費者に提供できる飲料ボトルは、結局、この10年間出てこなかった。国内では東電福島原発事故や、熊本地震などの被災者、海外ではシリア内戦の被害者、米欧のテロ被害者など、「見過ごしにはできない人々」がたくさんいるのに、である。

 

 「1ℓ for 10ℓ」プログラムが、日本市場でそれなりの成果をあげ、消費者を育てたとすれば、本来は、「1社(ボルヴィック)for 10社」という形で、ボルヴィックを見習って、自社製品・サービスのマーケティングに社会貢献を加える企業が10倍増えてほしかった。

 

 キリンビバレッジは「今後、同様の社会貢献活動をする予定は、現在のところない」(お客様相談室)と回答している。タネを撒いたボルヴィックに続くべきなのは、あまたの日本企業ではないだろうか。      (藤井良広)

http://www.kirin.co.jp/company/news/2016/0407_03.html