HOME |論文:建築分野におけるカーボン・トレーディング導入の道筋・意義(東京大学生産技術研究所教授 野城智也) |

論文:建築分野におけるカーボン・トレーディング導入の道筋・意義(東京大学生産技術研究所教授 野城智也)

2021-09-14 13:29:32

yashiroキャプチャ

 

 建築の運用に伴うCO2 排出量について許容上限量(capping)を設定し、いわゆるキャップ&トレード(cap and trade)の仕組みで、炭素クレジットを市場で売買するカーボン・トレーディングが導入されれば、建築における省エネルギー活動は、光熱費の削減だけでなく、炭素クレジットという資産も形成する手段となることから、低炭素社会実現に向けての経済的動機づけを生むことができる。

 

 「建築版カーボン・トレーディング」の動機づけにより、普及が期待されるIoTによるエネルギー運用改善システムは、市場成立の要件であるMeasurable、Reportable、Verifiableの原則を資産計測の物差しが満たすことや、制約なき再生可能エネルギー導入するための能動的需要調整にも寄与することが期待される。

 

 EUをはじめ、すでに世界規模で様々なカーボン・トレーディング制度が始まっている。しかし建築については、そのサプライチェーンや、オペレーションプロセスの複雑さから、UNEP-FI等がその導入を提唱しているものの、本格導入している国・地域はない。

 

 その一つの阻害要因は、キャップ&トレードで、温室効果ガスを大量に排出している組織は支払いを強いられる、という暗黙の忌避感情が支配しているところにあると想像される。そこで、キャップを超えてクレジットの購入をせざるを得ない企業・組織も、自らが投資をしてクレジットを生成すれば、最小のコストでオフセットができる可能性、さらには生成したクレジットを他に売却する可能性が開かれると考えられる。

 

 野城智也(やしろ・ともなり)

東京大学生産技術研究所教授、東大生産技術研究所所長、副学長等を歴任。工学博士。http://yashirolab.iis.u-tokyo.ac.jp/

詳しく見る