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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦サステナブル・イノベーション賞、新生銀行。国内初のサステナブルレポ取引の開発と展開(RIEF)

2022-02-25 13:20:20

shinsei005キャプチャ

 

  新生銀行は、サステナブルファイナンスの資金調達で、国内金融機関として初めてサステナブルレポ取引を手がけたことから、第7回サステナブルファイナンス大賞でサステナブル・イノベーション賞に選ばれました。同行のグループ企画財務担当シニアオフィサー、吉田孝弘氏、グループトレジャリー部シニアマネージャー、藤本和弘氏、サステナブルインパクト評価室長、平田みずほ氏の3氏に聞きました。

 

写真は、㊧から平田氏、吉田氏、藤本氏)

 

――サステナブルレポ取引に取り組む判断をされたきっかけは何でしたか。

 

 吉田氏:新生銀行グループではサステナビリティ経営を掲げており、グループトレジャリー部においても資金調達にサステナビリティの視点を取り入れたビジネス展開を目指しています。昨年3月頃に、国際的にサステナブルファイナンスの取引で実績のあるBNPパリバから、サステナブルレポ取引の提案を受けました。ちょうどその頃、当行初のサステナビリティボンドを発行したタイミングであり、同ボンド発行と軌を一にする内容でしたので、サステナブルファイナンスへのさらなる取り組みとして、サステナブルレポ取引の実現にチャレンジすることにしました。

 

――レポ取引の手応えはありましたか。

 

 藤本氏  :  第一号のレポ取引は、昨年11月に実施しました。初めてのことでしたので、レポ取引の契約書の作成や、タームシートのチェック等の準備にそれなりに時間はかかりました。数十億円規模の取引で、当行が保有する債券をBNPパリバに貸し出し、受け取った現金(外貨)を市場で円等に換えて融資に充てました。 想定以上の手応えがありました。レポを使わずに市場から直接調達する場合よりも、安く資金調達できるメリットもあります。

 

㊧が吉田氏、㊨は藤本氏
㊧が吉田氏、㊨は藤本氏

 

――サステナブルレポ取引は通常のレポとどう違いますか。

 

 藤本氏:通常のレポ取引は、債券などを売り戻しあるいは買い戻し条件付きで売買する取引を指します。当行が資金の出し手に手持ちの債券を貸し出し、その代わりに受け取った現金を当行の融資等に使います。サステナブルレポ取引の場合には、融資先の資金使途をサステナビリティ性のある貸出資産に限定してファイナンスする点が特徴です。

 

 BNPパリバには、当行のサステナビリティに関する開示情報等を通じて、新生銀行グループのサステナブルファイナンスへの取り組みについても理解していただいていました。こうした取引関係も踏まえて「新生銀行となら一緒に取り組むことができる」と思っていただけたようです。

 

――新生銀行が保有する債券を提供して見返りに得た資金で、再生可能エネルギー事業等に融資するということですが、グリーンボンド等とはどこが違いますか。

 

 藤本氏  :  グリーンボンド等のESG債の場合は、参加者も多く、経済条件等を決めるうえでも手間がかかるのですが、レポ取引は相対取引であり、資金の出し手のニーズにも合わせられます。また、期日や金利等について、その時々の市場レートを反映して機動的に設定することもできます。柔軟にスピード感を持って対応できるところが一番の魅力です。

 

――サステナブルレポ取引を日本で実施するうえで工夫した点はありますか。

 

 吉田氏  :  当行は、昨年3月に「サステナビリティファイナンス・フレームワーク」を設定しており、同フレームワークに沿ってレポでの資金も管理し、情報公開を行っています。今回のレポ取引を同フレームワークで位置付ける点については、外部の評価会社の協力も得ています。

 

㊧が平田氏、右が吉田氏
㊧が平田氏、㊨が吉田氏

 

 平田氏  :  同フレームワークでは、ESG債等の債券発行の場合の発行体としてのフレームワークとともに、「(資金の)貸し手としてのフレームワーク」も設定しています。両方のフレームワークに基づきサステナブルファイナンスを展開しています。

 

 ローンの場合の資金使途先としては、再生可能エネルギーやグリーンビルディング等のグリーン事業だけではなく、ソーシャル性の高い事業も含めています。当行の場合、病院や介護施設向けといったヘルスケアファイナンスの貸出に力を入れています。今回のレポ取引の資金使途先にも、「貸し手としてのフレームワーク」に基づいた再エネ事業やヘルスケア事業等が含まれています。

 

――レポ資金の管理、使途先へのエンゲージメントについてはどうしていますか。

 

 吉田氏  : エンゲージメントについては、今後レポの市場が拡大していく中で声も高まってくるでしょう。今は始まったばかりですが、当然のことながら、市場規模が拡大してそういうスキームがあるということが借入先にもエンゲージメントで周知されてくると、サステナブルな事業を展開しようとする借入企業等は資金調達面も意識することになると思います。

 

 平田氏  :  現在のところ、借り手は一般的に、資金の出し手がどのような資金調達をしているかという点にまでは、あまり関心はないと感じています。仮に借り手の意識が「サステナブルファイナンスとして調達された資金を借りたい」といった風に変わるパラダイムシフトが起これば、市場拡大を後押しするかもしれません。今のところは、借り手には「調達資金もサステナビリティ調達です」と必ずしも説明していないので、借り手の側から資金の上流は通常、見えていません。

 

 ただ、当社でのサステナブルレポによる資金は、各ローンに振られている管理番号を元に、社内で定期的に管理しています。ただ、貸出先の企業に対しては、レポ資金の使途先である旨を伝えていないことや、レポ調達期間が半年等短いこともあり、現在は、特別なエンゲージメントはしていません。しかし、サステナビリティボンドでも同じですが、充当資産として選定した貸出資産の事業が期待通りのインパクトを生み出しているか、環境・社会面でネガティブな事象が起きていないか等は丁寧にモニタリングすることを心掛けています。

 

㊧が吉田氏、㊨が環境金融研究機構代表理事の藤井
㊧が吉田氏、㊨が環境金融研究機構代表理事の藤井

 

――資金調達の「手軽さ」を考えると、もっとひんぱんにできそうですが課題はありますか。

 

 吉田氏 : 市場が拡大していくには、より多くの市場関係者の参加が必要だと思います。すでに同業他社からの照会が相応に来ているため、期待感を含めて、市場規模が拡大する可能性は秘めており、今後、件数を増やしていく余地はあると考えています。

 

 レポ取引は1年未満の取引ですが、もちろん相対で合意できれば借り換えもできます。ですので、借り換え等をどのように行っていくかもこれからの課題です。当行が昨年発行したサステナビリティボンドは、3年債と相応に長めの資金を調達しました。レポ取引の場合は、運用サイドのローン期間に見合ったサステナブルな資産を確保し、調達と運用をマッチングさせることが必要になります。取り扱いの体制はほぼ整えており、今後さらに向上させていくことを目指します。

 

 サステナビリティボンドによる長期の調達と、レポ取引による臨機応変な調達とを組み合わせて、柔軟なサステナブルファイナンスの資金調達を実現できれば、それだけ取引規模を拡大できると思っています。レポ取引はボンドとの合わせ技的な意味合いがあると考えています。

 

――新生銀行のグループとしてのサステナブルファイナンスの推進体制はどうなっていますか。

 

 平田氏  :  発行体としてのサステナブルファイナンスはグループトレジャリー部が主管し、貸し手としてのサステナブルファイナンスは、2020年に設立したサステナブルインパクト推進部が主に担っています。サステナブルインパクト推進部は法人ビジネスの一つの部署として、部長以下10人で運営しています。

 

  サステナブルインパクト推進部は、サステナブルファイナンスの企画や法人営業担当での営業推進をサポートするほか、部内にサステナブルインパクト評価室を設け、サステナブルファイナンス評価や取引先のESG対応の評価を自ら行っていることが特徴です。評価担当は5人が専門的に行っています。

 

 グループ全体のサステナビリティ経営はグループ経営企画部内室のサステナビリティ企画室が、個人ビジネス分野でもサステナビリティを担当するサステナビリティ推進室が、あります。グループ傘下の新生企業では、国内銀行初となるインパクト投資ファンド(2件)を設立・運営しています。経済的なリターンと社会的なリターンの両立を目指す投資活動によって、社会課題解決型ベンチャー企業の成長支援を展開しています。

 

――今後のサステナブルファイナンスをどう展望していますか。

 

吉田氏
吉田氏

 

 吉田氏  :  資金調達の観点では、サステナビリティボンドを定期発行したいと考えています。そのためには、資金の借り手、債券への投資家等を両方、拡大していかなければなりません。サステナブルレポ取引も、今後の市場規模を見ながら検討を進めていきますが、比較的容易に資金調達ができる取引であり、今後も有効活用しない手はないです。

 

 平田氏  :  新生銀行グループが今後、どういった取引先や事業に投融資をして、それがどのようなインパクトに繋がっているのかを可視化していくことが、より重要になってきます。実務的な問題も一つひとつ整理していく必要があります。レポ取引は既に述べたように、期間が短いものでは数カ月の取引もできます。こうした短期間のインパクトをどう捉えるか、期中でのインパクトを日割りで計算するのかといった技術的問題もあります。インパクトを創出する主体である資金の借り手側の理解や協力も得る形で、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。

 

                            (聞き手は 藤井良広)