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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー②優秀賞:みずほ証券。国内のグリーンボンド等のESG債の引き受け主幹事で4年連続首位(RIEF)

2023-02-10 13:42:18

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 みずほ証券は国内市場でのグリーンボンド等のESG債の引き受け主幹事業務で、2019年以来、4年連続でシェア1位の座を維持されたことから、優秀賞に選ばれました。2020年、21年のサステナブルファイナンス大賞でも優秀賞になっており、3年連続での受賞です。日本のESG債市場拡大のリーダーシップとしての活動を評価しました。同社のサステナビリティ推進部長の森下修氏と、同部サステナビリティ戦略開発室の方々にお聞きしました。

 

――今回で、4年連続で国内ESG債の引き受け市場で首位の座を維持しました。大賞は3年連続での受賞です。長くESG債市場を牽引している立場として、22年の日本市場の手応えはどうでしたか。

 

 森下氏   :   現状は、国内の事業会社の約3割が、債券での資金調達に際して、グリーンボンド等のESG債での発行を行う段階になっています。常に大きな転換点で、マーケティング論でいう「キャズム(Chasm)」を超えたという感じです。キャズムは製品・サービスを普及させるために超えるべき障害(溝)を言いますが、そうしたクリティカルポイントを超えて、「ファーストムーバー(先行して行動する市場参加者)だけではなく、様々な方が一気に参入してきているイメージでとらえています。

 

森下修氏
森下修氏

 

――なぜそうした大きな転換点が起こっているのでしょうか。森下さんの言われる「キャズム」を超えたきっかけは何なのでしょうか。

 

 森下氏   :   それがなぜ起きたのかという検証は、すごく難しい。われわれの感覚からすると、単純に資金調達ということではなく、資金調達の意味合い自体が大きく変わり始めているような気がします。GFANZ(グラスゴー金融同盟)に代表される投資家サイドからは投融資をする際に、相手の事業会社の事業内容、事業戦略まで、しっかりみていくという大きな潮流ができており、それを受けて、投資家と発行体となる事業会社との間で、ファイナンスを使った対話のようなものが始まっているという認識を持っています。

 

――それが国内市場でも2022年に顕著になったということですか。

 

 森下氏    :   元々そうした流れはあったのですが、特に22年度に、その潮流が顕著になっていると思います。

 

――みずほ証券は、そうした市場での引き受けシェアで4年連続トップですが、その中で潮流の変化を感じているわけですね。そうした市場の動きの中で、みずほが特に心掛けているということはありますか。

 

 森下氏  :   ESG債の引き受け量が増えてくるというだけではなくて、債券の中身が変わってきていると思います。今回のサステナブルファイナンス大賞で表彰されたマルハニチロ社のブルーボンド発行は、まさに脱炭素課題の次のステージである自然資本を対象としており、さらに地方自治体によるESG債の発行でも、「地方発のサステナブルストーリー作り」といったものが非常に増えてきています。

 

井上正大氏
井上正大氏

 

 井上正大氏(サステナビリティ戦略開発室長) : 官民一体の中で、ESG市場の成熟が進んで、新しい債券が出てきています。その中で、ブルーボンドのように、新しい切り口のESG債を発行しどうマーケットを広げていくか、というのはわれわれの課題です。「単純にラベルをつければ良い」という話ではなくて、取引先が抱えている悩みを、もう一歩深いところでの議論をするためのツールがラベルだと思っています。マルハニチロ社のブルーボンドは、かなりの問合せを他の発行体、マスコミ等からもらいました。ESG債の認知度がさらにあがり、23年度に向けて新しい広がりがあるではないかと思っています。

 

――ブルーボンド発行は確かにすごいと思いました。ですので、新たに「ブルーボンド賞」を設けて、発行体のマルハニチロ社を表彰しました。発行体自身が今の地球の中での漁業のあり方を踏まえて、自ら陸上養殖を手掛け、その資金を市場から調達するという時代になってきたわけですね。

 

 五十田昇吾氏(同室アシスタントヴァイスプレジデント) : マルハニチロ社も、自らが海洋資源を持続的に守っていかねば、という危機感・必要性を改めてご認識され、ブルーボンドを発行されました。これまでのESG債市場では「他社がサステナファイナンスで資金調達を行ったから、自分達も」といった動きも多少ありましたが、今はサステナビリティに真剣に取り組まないと、自分たちの事業遂行にとってのリスクが高まるという認識がすごく強まっています。その点は、日々のご発行体との会話で感じています。

 

五十田昇吾氏
五十田昇吾氏

 

 みずほ証券としては、「発行体に寄り添う」という点が一番の大事なポイントと思っています。ESG債発行の案件数は今増えていますが、これがコモディティ化されるのは好ましくないと思います。発行体それぞれのストーリー(事業展開)を理解した上で、発行スキームを提案することが発行体に喜ばれます。そしてその点が、最終的に評価・支持を頂いている理由であると考えています。

 

――投資家への働きかけはどうですか。投資家の側にも変化は出ていますか。

 

   森下氏   :   GFANZのように投資家の大きな連合も組まれてきています。全員が全員同じではないですが、投資家の意識合わせのような場ができつつあるという状況だと思います。われわれもよく投資家と個別にIRを行ったり、あるいはセミナー等の場で、投資家との交流の場を持ったりもしていますが、投資家サイドの意識の変化に驚いております。

 

  和田正嗣氏(同室アシスタントヴァイスプレジデント): 確かに、かなり変化しています。GFANZ傘下の各団体ではネットゼロに向けた目標を定めることが求められ、その目標達成のために自分たちの投融資ポートフォリオの脱炭素化を進める投資家が増えています。そうした中で、発行体側も、ネットゼロ等の目標を掲げる投資家からダイベストメント(投資資金の引き揚げ)をされないためにも、脱炭素への取り組み意識が高まっているという風にも感じられます。

 

和田正嗣氏
和田正嗣氏

 

 みずほ証券としても、発行体と投資家双方が参加するセミナー等の場を設けて、投資家がESG債に投資する際にはどのような点を見ているのか、発行体はESGの取り組みとして何を心がけているのかということを、エンゲージメントの場として提供することでいい循環が起きるように工夫をしています。

 

――地方自治体によるESG債発行も増えています。

 

   西尾典子氏(同室ディレクター):   自治体のESG債は、地元企業や地元住民に対する行政からのメッセージだと考えています。行政自体がどのようにサステナビリティに取り組んでいるかという点を、ESG債を通じて発信することで、地元企業等が、自治体発行のESG債に投資したい、応援したい、と思えるようなボンドの組成を目指しています。

 

――個人向けの自治体のESG債もありますね

 

   西尾氏  :   21年度では北九州市が個人向けのサステナビリティボンドを出しています。22年は三重県もグリーンボンドを個人向けに販売しました。これまで自治体が発行するグリーンボンドは機関投資家向けですが、地元の個人投資家からも関心があるという話も聞いています。

 

西尾氏
西尾氏

 

――欧州に比べると、日本では投資家サイドの動きが受け身、保守的な面があるようです。もちろん長期運用、長期保有は大事ですが、もっと発行体を後押しするような、アクティビストタイプの投資家が出てきてもいいと思いますが。

 

  森下氏  :   国内の機関投資家の方々は実は、ものすごく先頭を走っています。長期的にサステナブルなビジネスでないと投資できないと、皆さん異口同音に言われます。今後は、この裾野がどう広がっていくのか、という点が重要なポイントになると思っています。われわれの計測では、地方自治体発行のESG債への投資表明でも、国内全体では2500件近くの投資表明が出ています。つまりネットで2500の投資家がこのマーケットに参加しているということです。

 

  五十田氏  :   自治体のESG債発行では、愛知県や大阪府等がESG債を発行すると、当該自治体の中の事業法人が賛同して新しく買ってくれるという流れが出来てきていることを、よく感じます。延べで言うと何万という投資家が投資表明をしていることになります。

 

  森下氏   :   後は個人の投資家の方々がこの分野にも、全員参加というか、いろんな形で参加していくような市場になっていくだろうと思っています。

 

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――22年のESG債発行額は、日本では増大しましたが、グローバル市場全体では減少しています。この対比をどうみておられますか。


  森下氏  :   まずはマーケット全体が利上げ相場で、資本市場全体が荒れている感じですね。ESG債だけでなく、債券全体の発行額は内外市場の両方とも減っています。資本市場には逆風が吹いている中で、ただ、国内のESG債等のサステナブルファイナンスの世界は、むしろものすごく力強い成長を遂げているという状態です。

 

――その要因は、先ほど言われた発行体の意識が変わってきたということですか。

 

  森下氏   :   私見になりますが、今の日本のマーケットはESGに、目覚めたという状況かと思っています。グローバルにみると、日本のESG債市場は遅れていたともいえます。しかし、日本は着実にグローバル市場の後をフォローしてきました。「追いつけ追い越せ」とまでは、まだいかないのですが、少しでも「追いつくべく」とのトレンドが、明確に日本に生まれてきていると思っています。

 

 井上氏  :    昨年のグローバル市場での減少要因には、マーケットの混乱とあわせてコロナ関係のボンド発行が減少したことも影響しているという認識です。国内マーケットも、落ち着いている状況で、社債市場全体では活況とは言えない一方で、22年度もESG債は発行額も件数も大きく増えています。先に述べた通り、事業会社の中で、自分たちもやらなければならない、やる必要があるのだ、と言った目覚めの動きが盛り上がる中で、これまであまり債券で資金調達をされたことのない企業様等が、「自分たちのSDGsストーリー」をどのようにステークホルダーに伝えていくのかという思いを強めた結果ということだと思います。こうした動きは他にも波及します。こうした波及が、ここ数年の加速度的なESG債発行の拡大につながっていると思います。

 

――すると今年(23年)も国内市場の発行規模は減速しないということですか。

 

  森下氏   :   しないと思います。

 

井上氏   :   自治体等からの発行に関する問い合わせは増えています。さらに既存の発行体の追加発行も期待できることから、さらに広がるだろうと思っています。政府の「グリーン・トランスフォーメーション(GX)移行債」も出てくる予定です。

 

――ソブリンのESG債は他の国も増やしています。GX移行国債の資金使途は、国や自治体がやるべき適応事業等のファイナンスとしては望ましいと思いますが、高炭素集約企業への「補助金」の原資となるだけで、脱炭素、グリーン化をしっかり担保できるかが、不明です。

 

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 森下氏   :   おっしゃる通りで、トランジションについて真剣な議論になっています。GXは競争であり、サバイバルの時代にも入るとの指摘もあります。資金調達にラベルを貼り、「わっしょい、わっしょい」と、お祭りのような感じではだんだん、なくなってきています。

 

――グリーンボンドの場合でも、事業のグリーン性だけでなく、経済性も見極めないと、「グリーン事業で行き詰る」というリスクもあり得ます。

 

  森下氏  :   そうですね。かつての太陽光発電で起きたようなことが起こってもおかしくないし、それをどう超えていけるか。ここは大きなテーマだと思っています。国内だけでなく、世界に目を広げることは大きなテーマだと思っています。「サステナ」は日本だけのストーリーではなく、グローバルなストーリーですので、われわれも何らかの形でグローバルな取り組みにチャレンジし続けたいと思っています。

 

                                                           (聞き手は 藤井良広)