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「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑦ 地域金融賞の滋賀銀行。「環境格付を組み込んだCSR私募債で地域社会貢献活動を支援」(RIEF)

2017-02-25 00:36:43

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 滋賀銀行は、早くから「環境」に照準を合わせた環境配慮型の金融商品を開発・提供してきた環境金融の「先進銀行」として知られる。今回は「環境格付を組み込んだCSR私募債で地域社会貢献活動を支援」する取り組みで、サステナブルファイナンス大賞の「地域金融賞」を受賞した。同行総合企画部CSR室長の辰巳勝則氏に聞いた。

 

――CSR私募債「つながり」は、私募債を発行した企業とともに、私募債を引き受けた銀行が、当該企業のCSR活動として地域の学校等に寄贈品を寄付する仕組みですが、滋賀銀行が取り組まれたのはいつごろからですか。

 

辰巳:2014年の11月から取り扱いを始めました。最初はCSR部門と営業推進部門が一緒になって企画する中で、この目的が、社会のためにもなり、われわれの新たな収益源にもなるという環境と経済の両立を目指す点にありましたが、その点の見極めが難しく、なかなか進展しませんでした。苦悩の中、とりあえず「1年の期限を切ってやってみよう」という期間限定の商品としてまずはスタートしたのです。

 

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 CSR部門としては、あくまで「社会」起点を大事にした商品企画にしたかったのです。では、今、地域の「社会的課題」は何なのかということで、地域の学校や教育委員会などにヒアリングに行きました。すると、「学校は年間の予算がどんどん減り、かつ、地域の子供たちの数も少なくなっている。そのため、必要なものの補充もままならない」ことがわかりました。「その課題に何か、寄付等していただけると本当にありがたい」との声をたくさん聞きました。そこでこうした社会的課題への取り組みと、われわれが培ってきた取引先への事業評価としての「環境格付」の仕組みを、従来とは少し違った形で広げられるのではないか、と考えました。

 

 もうひとつは、やはり滋賀県民に継承されている近江商人の知恵ですね。「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の理念は有名です。この「世間よし」は「地方よし」とも考えられています。近江商人は各地方に行って、そこの場所を活性化することで商売の土台をつくり、自分たちもそこの地で商売を成り立たたせるという考え方を持っていました。その考えでわれわれも地域へ貢献がしたいという思いもありました。これら「社会」と「三方よし」の精神をミックスできないかということで考え出したのです。

 

――CSR債は他の地銀もやっていますよね。

 

辰巳:最初は、おそらく新潟の第四銀行さんだと思います。そこで、営業推進部門の担当者が第四銀行さんに行っていろいろと教えてもらいました。当時は、まだ東海地方から関西地方にかけては、どの銀行もCSR私募債のような商品を手掛けているところはありませんでした。それで第四銀行さんのご了解も得て始めることになったのです。ただ、先ほどの当初の商品企画でも述べましたが、滋賀銀行としてのCSRの特徴を加味したく、われわれが長く手掛けている「環境格付」を活用した高い評価の企業をターゲットにできないかということでした。

 

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 もう一つの特徴は、零細企業ではなく、中小・中堅企業に的を絞った点です。私募債発行には適債基準が必要ですので、実質的に中堅クラスの企業でないと発行はできません。ところが、そうした中小・中堅企業は、今、将来的な安定成長のために内部留保を厚くしています。できるだけ負債をなくし健全経営を計ることが、今の基本的な経営スタンスです。その中小・中堅への領域の資金ニーズを発掘したいという思いもありました。

 

――最初の手応えはどうでしたか。

 

辰巳:予想以上に大きかったです。企業へのヒアリング等で分かったのですが、多くの企業は、本当は学校等に貢献(寄付)したい気持ちを持っておられたのです。しかし、寄付となると、何か恥ずかしい、目立つのはどうか等、遠慮されていました。そこで、銀行が一緒にやって貢献するのであればどうですか、という話をし、かつ企業の名前も前面に出して寄付ことにすると説明すると、「では一度やってみようか」となったのです。あまり資金ニーズのない企業も自ら資金調達してみようという風になったのです。企業側もCSR的な活動をやりたいがどうしたらいいかわからない、という状況下もあったと思います。

 

――基本は「環境格付」で一定水準の企業が対象ということですね。

 

辰巳:そうです。「しがぎん琵琶湖原則(PLB)」の考えに基づく「環境格付(PLB格付け)」と、債券発行の「適債基準」の両方のバーをクリアできる企業が対象となります。中小・中堅企業にはCSR的な活動に取り組みたいニーズは結構多く、これまで「PLB格付はいらない」と言っておられた企業も「この際、CSR私募債を発行してみるか」となって、結果的に環境格付の取得のも増えた面もあります。

 

 最初の年は右肩上がりで伸び、2年目(2016年12月まで)で合計176件の取り扱いとなりました。発行総額は158億円。学校等への寄贈品金額は約3200万円。対象の学校は約140校に及びます。主な寄贈品はiPadやプロジェクターなど、生徒たちが授業で使うIT機器や図書関連等が多いですね。特に最近では、小中学生が授業でITを活用したプレゼンテーションをする機会が増えていると聞きます。教室の黒板も電子版になっているので、それらを使った授業となっています。しかし、学校の予算では、iPadの活用台数は少なく、少しでもたくさんあると共用で使える利便性があります。また、他にはスポーツ用品や楽器なども多いですね。寄贈する際は、学校に寄贈品の希望を聞いています。できる限り学校の欲しいものを寄贈したいのです。

 

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――CSR私募債のほか、新しい取り組みはどうですか。

 

辰巳:ほかにもCSRに視点を置いた「CSR医療機関債」があります。病院等の医療機関や介護・福祉の施設も、実は十分にお金がないところが少なくありません。この取り組みは昨年6月から開始しています。こちらは厚生労働省の厳しい発行基準を満たすことが必要です。病院等の医療法人が発行した債券を銀行が引き受け、発行金額の一部から養護学校や福祉施設に寄付する仕組みです。これまでに2件取り扱いました。最近ですと、リハビリに使う和太鼓を養護学校に送りましたね。

 

――今後はどのように展開していくか、お考えを聞かせてください。

 

辰巳:これまでから環境格付先のデータ(非財務データ)を積み上げてきています。環境格付(BLP格付)を通じて、新たな環境対応型・CSR型の金融商品やサービスを開発・提供していきたいと考えています。つまり、これだけまとまった形で中小・中堅企業の環境関連のデータが集まっている事例はあまりないと聞いていますので、これらのデータを活かして、たとえば、格付先の「デフォルト率分析」とか「環境優良企業の評価分析」、「リスク予防」等、新たな展開ができないかと考えています。

                                                                                             (聞き手は藤井良広)