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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー③優秀賞、みずほ証券。3年連続で、国内のESG市場での引き受け主幹事のシェア1位を継続(RIEF)

2022-02-10 16:43:35

Mizuho000005キャプチャ

 

  みずほ証券は、国内市場でのグリーンボンド等のESG債の引き受け主幹事業務で、2019年以来、3年連続でシェア1位の座を維持されたことから、優秀賞に選ばれました。2020年のサステナブルファイナンス大賞でも優秀賞になっており、2年連続での受賞となりました。日本のESG債市場拡大のリーダーシップとしての活動を評価しました。同社のサステナビリティ推進部長の森下修氏と、SDGsプライマリーアナリストの香月康伸氏に聞きました。

 

写真は、みずほ証券サステナビリティ推進部のメンバー)

 

――2年連続でのサステナブルファイナンス大賞優秀賞の受賞です。国内ESG債引き受けシェアでは、3年連続でトップの座を維持されています。この1年を振り返って、市場の手応えはどうでしたか。

 

 香月氏  :  この1年間の最大のエポックメーキングな出来事は菅前政権による「ゼロエミ宣言」でした。あれがマーケットを加速させたとの印象を持っています。投資家と発行体両方の背中を押しましたが、われわれの感触としては、投資家の方が相当前向きになったように思います。それが如実に表れているのが、起債ごとの超過需要の倍率ですね。

 

 通常、債券の起債が成功したかどうかは、二つの尺度でみます。一つが超過倍率です。100億円の発行に対してどれくらいの応募があったのかということですが、この倍率が年間を通じて、平均して上昇しました。例えば川崎市が発行したグリーンボンドは14倍でした。これほどの倍率は、あまり見たことがなかったですね。もうひとつの尺度が投資家の裾野の広がりです。われわれは投資表明の件数を毎回カウントしています。昨年12月の段階で1回でも投資表明をした投資家の数が年間累計で1400件に達しました。投資表明の数は2019年が500件、2020年が1000件に、そして21年が1400件と、毎年400~500件も投資家が増えていることになります。

 

香月氏
香月康伸氏

 

 投資家の内訳をみると、半分以上が非金融機関です。事業会社、財団、自治体の基金、学校法人などです。債券市場は、どちらかといえば金融村の世界でしたが、ESG債市場の特徴は全員参加型の市場になっています。そのことを強く感じます。

 

 森下氏  :  一人の投資家がいろんな銘柄のESG債を買っても一人としか数えない。ですので、非常に多くの投資家が参加し、増えていることになります。みずほ証券の中でも、いままで取引口座を開いていなかった新しい顧客が増えています。こういう投資家層の広がりからも、サステナビリティに関する動きの広がりを感じています。

 

――昨年の表彰の際は、サステナブル・ファイナンス室でしたが、この1年で、サステナビリティ推進部に昇格されたようですね。陣容、体制の整備も進められたのですか。

 

 森下氏  :  陣容は全体で20人ほど。サステナビリティ推進部の特徴は二つあります。一つ目は、グリーンボンドの発行支援だけでなく、サステナブルファイナンスが企業のバリュエーションや信用力にどう影響するかを含めて、顧客企業に提案することをやっています。二つ目は、環境コンサルを長くやってきた人材や、エネルギー系のリサーチ専門の人材等に新たに加わってもらったことで、環境コンサルの視点や、エクイティのバリュエーションの視点も含めて、発行体に提案できる体制になっています。

 

――発行体への提案で意識する点はどうですか。

 

森下氏
森下修氏

 

 森下氏:まずは発行体の「サステナ・ストーリー」をどう作っていくかを、発行体と一緒に考えることを重視しています。過去の証券ビジネスでは、ともすればプロダクトを作って販売するところに走りがちだったと思います。われわれは顧客と一緒に、顧客の中にも少しでも入れていただいて、ストーリーを作り、結果としてサステナブルファイナンスを使ってもらうという風に心がけています。

 

――発行体企業へのエンゲージメントですね。

 

 森下氏:エンゲージメントで企業側に変わってもらうというよりも、すでに日本の企業の意識が大きく変わってきています。多かれ少なかれ、自分たちのサステナビリティの考え方を、統合報告書等で表現され始めています。そういう企業の判断を踏まえて提案していきます。したがって「対話」になってきています。

 

 香月氏:これまでグリーンボンドの場合、どのプロジェクトで資金調達をするのかという話でした。今は、プロジェクトの色ではなくて、「あなたの会社は何色なんですか」と問われる状況です。そういう動きが、発行体、投資家の間で起きています。特に投資家の動きが明瞭です。ですので、ファイナンスを成功させるには、一回だけグリーンプロジェクトで資金調達をしたからOKではなく、そもそもこのグリーンプロジェクトは何のためのプロジェクトなのかというところまで深掘りして、ストーリーを組んでいかないと「対話」にならなくなっています。

 

――グリーンボンドは資金使途先のプロジェクトを見ればわかりますが、「会社の色」を見るという場合、その尺度は、言うは易くして困難な部分もあると思いますが。

 

 香月氏:そこは答えがまだあるわけではありません。発行体にサステナビリティの戦略を、立ててもらう必要があります。いい兆候かなと思うのは、日本でもサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)が少しずつ増えている点です。これまで日本でSLBが増えなかった理由は二つありました。一つは企業が設定する重要業績指標(KPI)を達成できなかった場合の「ステップアップ」が、なかなか投資家に認知してもらえなかったという点です。もう一つは発行体のほうでも、自社のKPIを設定できるまでには、社内のサステナビリティ戦略が煮詰められていないという点でした。

 

 それが、ゼロエミ宣言が出て一定の時間が経過し、目標が定まったことから、日本企業も自分たちのサステナビリティ戦略を立てられるようになってきました。そうするとそれに向けた自社のKPIも設定できるようになる、という流れがでてきています。さらに大事なのは「ウォッシュ」を作ってはいけないという点です。われわれも、ESG債等を提案する際、ストラクチャリングエージェントという設計図を作る業務をやりますが、その中で「ウォッシュ」にならないように、われわれの目線でしっかりと確認させてもらっています。そういう意味での対話もしています。

 

――ESGを評価する尺度は、どういうものを使いますか。

 

 森下氏:基本的には、一つの尺度だけに依存することはありません。市場でどこまで受け入れられるかを、われわれなりに手探りしながら、いろんな尺度で検討します。国際資本市場協会(ICMA)の原則は、あまり細かく書いていない場合もあり、日本の政府が作ったガイドライン等も照らし合わせながらも、われわれなりに、端的に言うと悩みながらやっているというのが正直なところですね。

 

――今後の市場の動きはどうなっていきそうですか。

 

 森下氏:発行体の数も増えていくと思いますし、投資家の数も増えていくと思います。潜在的には大きな需要があると考えています。トランジション分野も入ってきます。トランジション分野は、大きな資金需要がありますが、そこに投資家がうまく入ってけるかが重要だと思います。あと、ソーシャル面でも、高齢化の進展や人権課題とかの評価軸が、非常に広がりを見せているので、今後、様々な資金使途を対象としたESG債が増えていく可能性があるとみています。

 

㊨は表彰状を掲げる森下氏㊧は環境金融研究機構の藤井良広
㊨は表彰状を掲げる森下修氏、㊧は環境金融研究機構代表理事の藤井良広

 

 香月氏: 2021年の日本のESG債発行額は世界全体の2.4%でしかありません。海外はグリーン国債を含めて、発行規模の大きいものが出ていますが、日本ではそれを除いても、まだそんなに大きくないと言わざるを得ない。グリーンボンドの市場が大きいということは、それだけその国にグリーンプロジェクトがあるということでもあります。日本のグリーンボンド市場がまだ小さいということは、それだけグリーンのプロジェクトが国内に少ないということです。この市場が大きくなることが望まれます。

 

 ただ、民間のグリーンプロジェクトへの取り組みが弱いかというと、そうでもない。欧米に比べても日本での発行体の数は遜色ない。問題は一回当たりの発行額が日本では小さい点です。これは社債市場自体が小さいということと、一方で間接金融でも資金調達できることもあります。そういう意味では、昨年、NTTファイナンスの3000億円のグリーンボンド発行は、市場全体に相当の勇気を与えたと思います。もう一つ、日本が出遅れているのがSLB。グローバルな同市場で日本のシェアはわずか1.3%。これはもっと拡大の余地があると思います。これらは2022年のわれわれの課題でもあります。

 

――トランジションボンドはどうですか。

 

 森下氏:比喩的に言えば、人類は大きな「夏休みの宿題」を持っているわけです。2050年ネットゼロの期限に向けて、これをどういう風に片づけていくのかという道筋を、きちんと見せなければいけない。実は、投資家も自分たちの投資ポートフォリオを「2050年ゼロ」にもっていくために、GFANZ(ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)として宣言しています。こういう大きな動きの中で、日本も「2050年ゼロ」の手をあげているわけです。大事なことは、債券の償還の間に、どこまでどう進めるかということを、発行体も投資家もお互いにチェックし合えるような仕組みを作っていかねばならないということだと思います。

 

 香月氏:最近のいい事例としては、野村不動産、東急不動産HD、川崎重工業等が今後の調達資金におけるサステナブルファイナンスの割合を、目標として打ち出している点です。海外でも、そうした表明をする企業が増えています。日本のトランジションも、トランジションボンド一本勝負ではなく、企業の2050年脱炭素戦略を踏まえて、ありとあらゆるラベルを使って脱炭素を目指すという戦略を、企業がそろって打ち出してくるのではないかと思っています。その中で、トランジションボンドは、炭素集約型企業・業態のコアの調達手段になるのではないでしょうか。

 

――NTTファイナンスもそうですが、日本のグローバル企業は今後、国内市場でのESG債発行よりも、海外市場での発行を重視することになるではないでしょうか。みずほはそうした動きにどう備えていますか。

 

 森下氏:みずほグループ全体では、海外拠点を含めて「グローバル・チャンピオンシップ」として、内外の関係メンバーが、定期的に一堂に会して、サステナビリティの状況を報告し合うことをやっています。すでにアジア市場でもサステナブルファイナンスの実績で賞をもらっています。第一歩として、海外で資金調達したい企業と、海外で運用したい企業・機関等が、それぞれのエリアでしっかりやるという点では、根っこは変わっていないと思います。

 

――NTT等の大型のESG債等への海外投資家の反応はどうでしたか。

 

 森下氏:欧州の投資家等は、当然ですが日本のグリーンボンドの発行については歓迎してくれます。大型発行になればなるほど、きちんと量も確保できるので、そうした債券への期待は今も昔も変わっていないと思います。

 

 香月氏:われわれが感じているのは、日本銘柄というよりもアセット次第という点です。川崎重工業のサステナビリティボンドの資金使途には、水素サプライチェーン事業が入っていました。その点で海外の投資家の目も引いたようです。欧州だけでなく米国の投資家も同ボンドに反応しました。そういったトランジションを先導するようなプロジェクトへの投資には市場資金が集まるということだと思います。

 

――グリーンのラベルを見た投資から、グリーンの中身を見た投資への転換ですね。国のネットゼロ政策への注文はありますか。

 

 森下氏:基本的には投資家と発行体のコンセンサスをどう作っていくのかということだと思います。市場の活性化というよりは、ESGを意識した、サステナブルな社会にするための社会変革をしていかなければいけないということだと考えています。2050年ネットゼロの大きな宿題は絶対に忘れることなく、ただその時々には柔軟に対応することをやり続けないといけない。そのことを政策当局とも議論しながら進めていかないといけないと思います。

 

㊧が森下氏、右が香月氏
㊧が森下氏、㊨が香月氏

 

 香月氏:国ができることは、物理的にできることよりも、目に見えない力の方が大きいと思います。たとえばグリーンボンドを発行する自治体が増えてきました。長野県と川崎市の場合、起債後に両自治体の首長は、地元の投資家を交えた座談会で、自治体がグリーンボンドを発行する意味を、「脱炭素に向けた機運を醸成する行政からのメッセージだ」と説明されました。同様に、国もメッセージを出すべきだと思っています。ESG金融についてもどんどんメッセージを出してもらいたいと思います。

 

――2022年も日本企業のESGシフトは続くと思いますか。

 

 森下氏:若干の波はあるでしょうが、大きなトレンドとしては伸びていくと方向感にあると思います。ただ、一方向の動きというよりも、エネルギー価格の高騰とかも続いている中で、見つめ直していくタイミングもあるかもしれません。

 

 夏休みの宿題は、最初はできるものから手掛け、だんだん、中盤に差し掛かってくると難題が見え始め、だんだん本気を出さないと対応しきれなくなりますよね。まさにこれから皆が本気になってくる年だと思います。少しずつ顔が引きつってくるかもしれません。市場は市場で、いろんなプロダクトの横の広がりや多様性も出てくるでしょうが、その中でも、より本質的な重要な課題にも本格的にチャレンジしていかねばならない。2030年の目標をどこまで果たせるかというせめぎ合いも起こり始めるのではないかと思います。

 

                           (聞き手は 藤井良広)