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第10回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦地域金融賞。京都銀行。サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)に7つの事前目標設定。公的な外部認証も導入(RIEF)

2025-02-19 20:15:17

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写真は、表彰状を掲げる京銀の余吾氏㊧と船留氏㊨)

 

  京都銀行は融資先企業のサステナビリティを高めるための「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」の提供に際して、独自の工夫を凝らしたことを評価されて、第10回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞に選ばれました。その工夫は、企業が取り組むサステナビリティ目標の対象となるテーマを、銀行が事前に7分野を選んで設定し、それらのテーマへの企業の取り組み評価も、公的な外部認定等を活用して共通評価が可能な金融商品とした点です。同行の法人総合コンサルティング部部長の余吾太士(よご・たいじ)氏と、同部部長代理の船留剛(ふなとめ・たけし)氏に、取り組みの経緯等を聞きました。

 

――SLLに独自の工夫を加えようと判断したきっかけを教えてください。

 

 余吾氏   :   「京銀サステナビリティ・リンク・ローン~Seven Targets~」通称「セブンターゲット」を始めるきっかけは、京都府が2023年1月に脱炭素を進めるために構築した「京都ゼロカーボン・フレームワーク」です。京都銀行も、同フレームワークに基づいて、「サステナビリティ・リンク・ローン京都版(SLL京都版)」の商品開発を行いました。このSLL京都版を支援する中で、顧客企業にとっての課題は、脱炭素だけでなく様々で、それ以外にも多様であることが浮き彫りになってきました。

 

  そのことを踏まえ、KPI(重要業績評価指標)として、気候変動に加え、労働、ダイバーシティ、人権等の7テーマに分けて、顧客企業がこれらのテーマを自ら選んでその具体的な目標となるサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を設定できるようにしました。これが「セブンターゲット」です。同時に、それら目標の達成を確実にするため、当該企業を後押しする伴走支援企業による協力体制の構築や、フレームワーク自体に外部評価を取得するといった仕組みを、商品設計に盛り込みました。

 

 企業が選ぶテーマについては、内部での議論に加え、第三者評価機関の日本格付研究所(JCR)とも何度も議論を重ねました。こうした検討の結果、最終的にSPTsとして7つのテーマを設定しました。それらは「中小企業向けSBTの取得」などです(図表参照)。これらの認定等を取得することで、サステナビリティテーマごとの各社の水準の向上が確認できるほか、テーマ分野の改善度も評価できるようになります。

 

京銀が設定したSLLの「セブンターゲット」
京銀が設定したSLL「セブンターゲット」のSPTs

 

 ――7つのテーマの設定では、どのような点を配慮されましたか?

 

  船留氏   :   特に意識したのは、①顧客の企業価値向上につながること、②あらかじめ定められたSPTsを顧客企業自身が選択できること、③社会的に認知されている明確で公平な基準であること、④外部の提携企業等と伴走支援する体制を構築できること――という4点を重点ポイントとしてテーマを選びました。

 

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  このうち、③の評価基準については、ダイバーシティや労働等のテーマでは、子育てサポート企業として厚生労働大臣から認定を受ける「くるみん認定」や、障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する「もにす認定」、一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況が優良である等の一定の要件を満たした場合に認定を受けることができる「えるぼし認定」など、公的な認定の取得を目標に盛り込みました。④の伴走支援では、その分野の専門性を有する伴走支援企業や各都府県労働局等の協力、京都フィナンシャルグループのコンサルティング会社を事前に定めることで、金融面とコンサル面の両方から、中小企業のサステナビリティ経営の支援を実践できる体制をとることに配慮したフレームワークとしています。

 

 伴走支援企業には、たとえば健康経営優良法人認定であれば、明治安田生命保険に協力してもらっているほか、DX認定ではオムロンの協力を得ています。京都フィナンシャルグループの京都総研コンサルティングも伴走に参加します。専門知識を持つ企業の伴走支援によって、企業は自らのサステナビリティ向上を確実に高めることが出来、われわれも融資効果を高めることが出来ます。

 

 ――京都府や、伴走支援企業などは、京都銀行の「ステークホルダー」に相当します。これらのステークホルダーとの連携で、SLLスキームの機能性も高まることになりますね。個々の取引先企業が自ら第三者評価の認証を得る代わりに、フレームワーク自体に外部評価を得るという発想は、どういう経緯で商品設計に盛り込まれたのですか。

 

 余吾氏   :   われわれは、すでに「SLL京都版」というフレームワークを作っていましたので、フレームワークを策定できれば、顧客企業の中小企業の個別のコスト負担なしに融資できることが分かっていました。そのフレームワークについては、われわれが商品開発として全額負担をしたうえで、JCRにも協力してもらって、一緒にフレームワークを作り上げました。

 

 一般的に、中小企業にとっては、サステナビリティに取り組むメリットがわからないとか、仮に取り組む場合においても人手や情報が不足していたり、取り組みの方向性や目標の設定方法が分からないといった現状があります。そのため「わかり易く、負担も少なく、伴走もしてもらえる」ということが、中小企業のサステナビリティ活動を促進するうえで、非常に重要になるのではないかと考え、今回のフレームワークに盛り込みました。

 

余吾氏
余吾氏

 

 ――対象企業のサステナビリティ取り組みにおいて、「京都の企業らしさ」といった特徴はありますか。

 

 船留氏 : 当初は7つのテーマ以外に、地域ごとの認定も掲げようと考えたりしました。しかし、京都銀行は京都だけでなく、大阪や滋賀、奈良、兵庫の周辺府県や、名古屋、東京にもネットワークがあります。したがって、地域性を強調すると、どうしても「京都より」になってしまうので、地域ごとの取り扱いは、のちのちに考えることとして、知名度のある公的な認定を7つ選ぶことにしました。

 

 ―一般的なSLLの場合、資金使途は通常のローンと同じく一般的に使用できます。京銀の「セブンターゲット」の場合、テーマに応じたサステナビリティの改善が図られるので、ある意味でテーマ分野の資金使途がターゲットになる格好にもみえます。手応えはどうですか。

 

 余吾氏   :    想定していた以上に実は好評です。「セブンターゲット」は昨年4月の取り扱い開始から今年1月末までの10カ月間で89社に対して支援を行いました。さらに直近の昨年10~12月(第三四半期)の実行件数では、サステナ関連の融資39件のうち、35件がこのセブンターゲットです。すでにサステナ関連融資の中心商品になっているのです。

 

  7つのテーマのうち、企業がSPTsに最も多く選んだのは、「健康経営優良法人の認定」でした。59社で全体の約6割になっています。次いで、中小企業向けSBT(11社)、えるぼし認定(11社)、くるみん認定(4社)、再エネ100宣言RE Action(2社)、DX認定(1社)、もにす認定(1社)と続きます。結果的に、7つのテーマ全てが企業によって選ばれています。

 

 同商品をこれからESG融資の中心に据えてやっていくことになります。現時点では、7つのテーマのSPTs以外に、別のテーマの目標設定を求める声は聞いていませんが、社会情勢の変化に応じて、時代のニーズに合った新たな認定制度を設定していきたいと考えています。

 

 ――資金調達面では、資金使途を環境・社会的分野に限定した「京銀サステナブル預金」を展開していますね。サステナブル預金は他の金融機関でも取り扱いが増えてきていますが、京銀の場合、手応えはどうですか。また金利が復活する中で、顧客のサステナビリティへの関心に変化はありますか。

 

 余吾氏    :    サステナブル預金は、円建てで100億円、外貨建てで3000万米㌦、ざっくり合わせて150億円を集めようということで、2024年9月から始めました。開始早々、大きな反響をいただき、外貨建ては6000万米㌦への募集総額引上げを行いました。2月末でいったん募集期間は終わります。1月末時点では合計約140億円の預け入れとなっており、おそらく2月末には180億から200億円ぐらいになるとみています。

 

 大変、好評で、多くの顧客がサステナビリティに関する預金に興味があることがわかりました。法人顧客だけではなく、個人顧客の預金もかなり多く、個人顧客もサステナビリティという付加価値に魅力を感じる方々が地域にたくさんいることがわかりました。現在の預金は2月で募集は終わりますが、次の預金商品として、サステナビリティのほか、社会情勢の変化に応じて、時代のニーズに合った、取引先の課題解決となるような、第二弾の「サステナブル関連預金」を作ることを目指しています。

 

 ――同預金の預金者の法人対個人の比率はどうですか。

 余吾氏   :   概算になりますが、法人の預金が85%、個人が15%程度です。個人の場合、件数はかなり多いです。当初は法人預金が多いと思っていましたが、実際にフタを開けてみると、個人も1~2割を占めています。個人預金は、富裕層に限らず、少額のものも多いです。円建てについては、特に金利は上乗せしておらず、サステナブルに価値をおく方々が預金をしていただいています。次に作る新商品では少し金利面でもプラスアルファをしていかないといけないかと考えています。顧客は金利に対する意識が高くなっていますので、サステナビリティの付加価値の部分と、金利としての付加価値も若干乗せながら、検討していこうかと考えています。

 

 ――京銀の顧客企業のサステナビリティ関連での取り組みに何か特徴はありますか。

 

船留氏
船留氏

 

 船留氏   :   特に京都に限って、というのはないのですが、「脱炭素だけじゃない」というのは、京都の企業にはあるかもしれません。たとえば、自動車メーカーが立地する地域の企業は、脱炭素の意識のほうが高いように感じます。その点で、京都の企業のサステナビリティ関連のニーズには、脱炭素以外のニーズ、課題というのがあるのかもしれません。企業のニーズも多様化していて、脱炭素も当然ですが、人権もそうですし、様々な課題に応じた金融商品を開発していく必要があります。

 

  ――脱炭素だと、今は、トランジションファイナンスに関心が移っているように思います。京銀はトラジションにはどう取り組んでいますか。


 船留氏   :   現在、われわれでもトランジションローンの取扱いはあります。ただ、顧客のフレームワーク策定を支援した実績はまだありません。トランジションファイナンスは、地方銀行にとっては、なかなかハードルが高いと感じるローンの一つです。

 

 余吾氏   :   サステナブルファイナンスについては、今後も、銀行にとっての中心的なものとして取り組んでいくつもりです。通常の融資は通常の融資として引き続きやります。ですが、サステナビリティの分野は、サステナブル預金を見てもそうですが、地域の企業・個人の両方の興味はかなり強いものがあります。金融機関としては、そうした需要に適した金融商品を作っていかないといけませんし、われわれもスコープ3の排出量を投融資の部分で99%を抱えていますので、その部分を測るだけでなく、投融資先企業と一緒に削減する努力をしていく商品をこれからも広げていく必要があります。CO2削減、脱炭素の推進を、地域のリーダーとして推進していきたいと考えています。

 

  ――サステナブルファイナンスの取り組みを進める上での、京銀の今後の展開についての考え方を教えてください。

 

 余吾氏   :   サステナブルファイナンス活動の拡大に向けた今後の展開としては、ひとつはさらなる「裾野の広がり」を目指すつもりです。SLL京都版やセブンターゲットなどは、同ファイナンスの一例で、これらについてはSDGsの入口段階から地道にサポートを継続してきた顧客企業から多くの相談を受けています。

 

 当社グループではサステナブルファイナンスを「環境・社会・経済的課題の解決に『ポジティブな影響の増大・創出』や『ネガティブな影響の低減・回避』に資するファイナンス」と定義しており、環境問題の解決に向けた支援や、SDGs・ESG経営の普及に向けた支援などを対象としています。これらの取り組みは大企業が先行して取り組むケースが多いですが、地域社会の多数を占める中堅・中小企業とともに取り組むことが地域金融機関にとって重要であると考えています。今後も、セブンターゲットを開発した経緯と同様に、顧客のニーズが多様化している背景を踏まえ、顧客のニーズに即した商品ラインナップを展開することで、裾野拡大に向けた取り組みの強化に取り組んでいきます。

 

 もう一つは「ソリューションの深掘り」です。SLLの場合、SPTsを設定し、達成に向けて活動していただくことになりますが、当該企業が自らの目標を達成したり、経営方針を変更したりすると、必ず新たに次の目標が見えてくると考えられます。サステナブルファイナンスを通じて、顧客企業の新たな目標や課題を洗い出し、企業のサステナビリティ経営の後押しを、金融面とコンサル面の両方からサポートできるよう、「ソリューションの深掘り」に取り組む考えです。

                                                                                             (聞き手は 藤井良広)