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枝野発言で揺れる金融界。だが債権放棄は免れられない公算(FGW)

2011-05-13 22:24:54

 枝野幸男官房長官が13日の閣議後の記者会見で、東京電力に融資している金融機関の債権放棄などを公的資金注入の前提にする可能性に言及したことで、同日の金融株は下落した。金融界からは戸惑いと反発の声があがっているが、東電の損害賠償(補償)を支援する枠組みを実現するうえで、金融界が巻き込まれるのは避けがたいと言わざるを得ない。

金融界での批判は、東電の最終責任を負う株主を、東電支援ということで守る一方で、企業債務の返済においては株式よりも優先順位にある貸出債権の放棄を金融界に求めるのは、筋が違うという意見などだ。東電を100%減資した上で、日航のように企業再生のために応分の債権放棄を求めるというプロセスならばまだしも、金融機関にとっては、いきなり自らに矛先を向けられた憤りを隠せない。

だが、東電の場合、原発廃炉と地域住民への賠償、農産物、水産物への賠償、工場操業や生活困難への賠償を、上積みすると、債務超過になるのは確実。政府の支援策がないと金融機関の債権回収自体が困難になるのは自明の理でもある。さらに、メガバンクなどは原発事故後に約2兆円の追加融資を実施している。枝野長官は「事故後の融資分は別扱い」とのニュアンスを出しているが、本来ならば、すでに債務超過の可能性が生じている企業に、十分な担保や保証を付けずに貸し込んだ債権は、不良債権とみなすのが当然でもある。

事故後融資のあいまいさは以下の記事を参照 http://financegreenwatch.org/jp/?p=884

                             http://financegreenwatch.org/jp/?p=676

 メガバンク等はこれまでも、親密取引先企業などに対しては、株主責任を問う前に、債権放棄や金利減免などで再建支援を実施したきた事実もある。また実際はそうした形で企業を支援することで、その後、当該企業が息を吹き返し、残存債権が正常化したり、追加融資が出てきたりする。もちろん、再建に失敗して金融機関自体が危機に直面した事例も、1997~8年前後の金融危機時にはいくつか発生した。

 今回の東電救済案は、東電を公的資金で支援、賠償資力を継続的に確保するためには、結果として、公的資金での下支えだけでは不十分で、最終的に電力料金の引き上げで東電の負担分を国民にツケ回しすることを避けられない。となると、東電の労使を救い、株主を救い、社債権者、債権者も救い、ツケだけを国民に回すシナリオになってしまう。これは政治的に受け入れがたいというのが素直な解釈だろう。

 また政府は、被災地の中小企業に対しては、地元金融機関に対して既存債権の放棄を求めた上で、新たな資金の提供を促している。金融機関は本来、融資に際して担保や引当金を計上してリスク対応をとっているはずだ。回収が困難な先には、リスクに見合った金利を要求し、あるいは政府や自治体、親会社の保証を求める。中小企業向け融資では、こうした要求が苛斂誅求に行われている。東電という“かつての大企業”に対しても、同様にリスク管理対応ができておれば、仮に今回のような政府の要求が生じても、損失は最小限に抑えることができるはずだ。

 よもや、無担保、無引当、無保証で、低利融資を継続してきたわけではないはずだが、どうか。仮に債権放棄が負担になって金融機関の経営が揺らぐ場合は、預金者はそれほど心配はいらない。1000万円までの預金の元利金は預金保険で保証されるし、金融機関自体の破たんのリスクが生じれば、公的資金注入の制度が整っているからだ。

東電への金融機関の融資状況(2010年3月末決算) http://financegreenwatch.org/jp/?p=533