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東証斉藤、日航稲盛両氏の枝野批判発言も“舌足らず”(FGW)

2011-05-20 02:19:04

枝野官房長官が、東電賠償事故問題で、融資銀行団の債権放棄について発言したことが議論を呼んでいる。東京証券取引所の斉藤惇社長や日本航空の稲盛和夫会長らが、枝野発言を批判しているが、これらの批判もまた“舌足らず”に聞こえる。政府の介入を排除するならば、東電が債務超過で倒産することは常識のある経済人ならば、わかるはずだ。

斉藤東証社長は17日の記者会見で、「東電は株主の会社であって政府の会社ではない」と批判した。また稲盛日航会長は18日、「東電はまだ健全な会社だ。(日航のように)会社更生法が適用された場合は、債権放棄もあり得るが、何もない中で債権放棄というのは問題ではないか」との見解を示した。ともに、枝野官房長官が、東電賠償問題の政府スキームに絡めて、東電に融資をしているメガバンクなどの債権放棄を示唆したことへの反発だ。

だが、少し冷静に考えると、これらの批判はむしろ市場にとってリスキーに聞こえる。斉藤発言の「東証は株主の会社」という主張だと、まず株主責任をとるという至極まともな「東電破たん論」につながってしまう。東電が原発事故の賠償責任を負い、原発廃炉の負担も背負うと債務超過になるのは、常識的な見方ができる人にとっては、ほぼ間違いない。そうなると株主は株主責任を負い、株券は当然、紙くずになる。また社債は電気事業法で株より優先弁済の対象となるが、社債市場全体も致命的な打撃を受けるだろう。

 斉藤発言に基づくと、政府が登場するのは、そうした株主責任が明確になってからになる。東証の社長が株式市場、社債市場の混乱を招いても、株主責任を貫こうというのだから、ある意味で立派ともいえるが、資本市場の打撃は福島原発並みの威力と時間軸になろう。

 稲盛会長発言はもっと“稚拙”に聞こえる。「まだ健全な会社だ」との判断は、経済界にまだまだ存在する稲盛教信者を激減させるに十分な認識だ。政府の賠償支援案などがあってはじめて、東電は2010年度決算を組むことができるという薄氷の上にいる。その政府案を、担保する法律はまだ提案もされていないことから、政府支援の実現性自体に疑問という慎重論もあるぐらいだ。それでも「健全な会社」というならば、いっそ、政府による賠償法案の取り下げを要請すればいい。

 金融界の反発も何やら奥歯に物が挟まった風に聞こえる。総額4兆円規模の融資残高のうち、事故前の約2兆円が債権放棄対象額で、事故後の約2兆円は別、との区分けされているが、実は事故後に融資した約2兆円のほうが問題である。融資時点で原発事故が発生しており、債務超過になる可能性がある中での追加融資とみなさざるを得ない。回収困難になる可能性が予見された融資である。つまり、この追加資金の融資判断は、株主代表訴訟の対象になる公算があるとの見方もできる。


 ただ、枝野長官が言及した債権放棄の対象には、事故後の融資は入ってないという。この点は、実は政府と銀行界で水面下での“約束事”があった可能性がチラつく。明らかなことは、東電は政府支援がないと、自力で賠償責任も、電力供給責任も、維持できないとみるのが経済・経営が分かる人の見立てである。それを否定して株主責任の原則論を振り回す論者は、本当に経済人なのかと、首をかしげざるを得ない。