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日本版環境金融行動原則起草委員会再開。原発には一切触れず(FGW)

2011-06-13 14:17:12

日本版環境金融行動原則起草委員会が、3カ月ぶりに6月13日、第五回目の会合を開いた。3月11日の東日本大震災と東電福島原発事故の影響で、延期されていた。原則のタイトルは前回、それまでの「環境金融」から「サステナビブル金融」に代えられ議論を呼んだが、今回は「21世紀金融行動原則」へと再変更し、環境を抜いた形になった。気になるのは、原発には一切言及していない点である。

3カ月ぶりに再開した起草委員会では、たたき台となる原則の修正案が示された。これまでの会合での最大の論点だった「タイトル」については、再修正され、「21世紀金融行動原則」~持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則~という案が示された。

原則のタイトルは、そもそもの活動の意味や方向性を決める点でもっとも大事ともいえる。タイトルをめぐる議論は既報http://financegreenwatch.org/jp/?p=1526をお読みいただきたい。「環境金融」から「サステナブル金融」へ変更した際は、金融が新たに取り組むべき課題は環境だけではなくESG(環境、社会、ガバナンス)を含めるべき段階にあるとの説明だった。今回は、持続可能な社会の形成を推進する取り組みとして、金融全体の行動原則という位置づけへと、さらに“昇格”させる形である。

この変更について事務局側は、東日本大震災の発生によって、持続可能性への再考を迫られたことや、地球規模での温暖化や貧困の増大などを指摘している。ESGの扱いをめぐっては、財務面と非財務面の統合化の議論が進んでいることから、方向性として「金融そのものの行動原則」を目指すのはわからないでもないが、果たして、今回の原則が金融機関全体の活動を対象とするとした場合、各金融機関内部で合意ができるのかどうかが、新たな課題として浮上したともいえる。

修正案は、震災の影響を考慮して、新たに600字程度の序文を付け加えた。このため、総論は、序文、前文、原則の三部構成となり、その後に業態別のガイドライン(詳細は今回も示されず)を定める構成になる。序文と前文の関係は、序文については「同時代性への考慮を入れることで普遍性を持たせる」「ただ、その時々に応じて序文の内容は変えていく」(金井司・三井住友トラスト・ホールディングス経営企画部CSR推進室長)との説明だ。

序文の中には、震災への言及はあるが、原発への言及はない。この日の会合でも一切、原発については質問も説明も出なかった。東電福島原発の扱いをめぐっては、日本政策投資銀行や三井住友銀行などの東電向け融資をめぐって、政治との間で債権放棄の是非論が交わされた。また主に欧州の金融機関は、原発向け融資をめぐってNGOなどからNukeBankとして批判され、基本的な投融資姿勢の説明責任を求められている。

3月11日以降の原発をめぐる金融機関の果たすべき役割や説明責任に関して浮上している論点を考えれば、久しぶりに再開した起草委員会の議論は、原則が及ぶ風呂敷(範囲)は目いっぱい拡大したものの、当面の最大課題である原発および電力向け投融資の取り扱いは、その風呂敷の中に入らないように映る。しかし金融人の中にも、西川善文三井住友銀行顧問のように、「脱原発は十分可能と思う」と明確に発言している人もいる。http://financegreenwatch.org/jp/?p=2127 起草委員会ではこうした人の声は考慮しなかったようだ。

作業は6月末から7月中旬に開く総論のワーキンググループ(非公開)で、委員全員の確認を得た上で、8月に第六回起草委員会で総論部分の最終案と各論ガイドラインの報告、9月の第七回起草委員会で原則の採択というスケジュールだという。できれば、被災地、原発被災地での金融のあり方を踏まえるために、今後の起草委員会を、福島や宮城、岩手などで開いてはどうか。

第五回起草委で示された行動原則案(原則部分のみ)

原則

1.自らが果たすべき責任と役割を認識し、予防的アプローチの立場に立ち、それぞれの事業を通じ持続可能な社会の形成に向けた最善の取り組みを推進する。

2.持続可能な社会の形成は地域における取り組みが起点となることを認識し、地域発の「持続可能な産業」の育成や中小企業の環境配慮をサポートするとともに、市民の環境意識の向上やコミュニティ活動を応援する。

3.環境に代表される日本の「持続可能な産業」の発展と競争力の向上に資する金融商品・サービスの開発・提供を通じ、持続可能なグローバル社会の形成に貢献する。

4.持続可能な社会の形成には、様ざまなステークホルダーによる連携が不可欠であることを認識し、そのような取り組みに参画するだけでなく主体的な役割を担うよう努める。

5.環境関連法規の遵守にとどまらす、省エネ・省エネルギー等自らの環境負荷の軽減に積極的に努めるとともに、調達先に対しても取り組みを促す。

6.社会の持続可能性を高める活動が経営的な課題であると認識するとともに、取り組みの情報開示に努める。

7.環境や社会の問題に対する自社の役職員の意識向上を図り、日常業務において積極的な役割を果たすように支援する。