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2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー③地域金融賞は大分県信用組合。県民の「健康寿命日本一」を目指し、金融商品開発(RIEF)

2019-02-26 15:00:43

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 2018年(第4回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞は、大分県信用組合(大分市)を選びました。同信組は地元の大分県と連携し、県民の「健康寿命」を延ばして、日本一にする活動に取り組み、特定健康診断の受診率向上に資する新たな金融商品を開発しています。また、「健康」をキーワードとした地域の資金循環システム創造に取り組んでいます。吉野一彦大分県信用組合理事長にお聞きしました。

 

――「健康」をキーワードとした金融商品を開発するようになったきっかけを教えてください。

 

 吉野氏:大分県が2017年から、「健康寿命日本一」を目指す取り組みを始めました。大分県の平均寿命は男女ともかなり高い。一方の「健康寿命」(健康上に問題なく日常生活を送ることができる期間)は、女性は全国12位でまずまずですが、男性は全国36位と低い(2016年)。そこで県は条例も制定して、健康寿命を延ばすため特定検診の受診率を高める活動を全県で取り組み事になったのです。

 

 私どもはその「健康寿命日本一おうえん企業」第一号となり、大分県庁をはじめとする県内のすべての市町村、県職員、県警、公立学校の教職員などと連携し、健康寿命日本一にチャレンジしています。医療費の伸び率と、特定健診の受診率とは関係があります。医療費は重篤な病気になると一気に医療費が増えます。すると、国民皆保険なので医療費増が財政上行政の負担になり、最終的には住民の負担になります。医療介護に税収のほとんどを消費していると、新しい事業がほとんどできなくなります。したがって、医療費増加の伸び率削減は非常に大きな意味があります。財政面だけでなく、住民一人ひとりにとっても健康を維持することは、すべての原点ですよね。

 

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――健康維持の増進を目指す金融商品を作られたようです。どのような仕組みですか。

 

 吉野氏:私どもは「地方創生は県民の健康から」というコンセプトで取り組んでいます。そのコンセプトの中で一つは、まず各市町村と包括連携協定を結びました。この協定に基づいて、健康定期を開発しました。県民が健康診断を受診すると、通常の預金よりも金利を優遇した定期預金に預け入れができます。優遇金利は当初、0.2%の上乗せをしました。今は、超低金利が続いているため、少し下げて0.15%にしています。

 

――健康定期の手応えはどうですか。

 

 吉野氏:毎月4~500件の新規預け入れがあります。預金金額にすると、月に数億円ずつ増えています。すでに同定期預金の預け入れ者は累計で1万7000人ほどになっています。受け入れ預金総額は270億円強になっています。

 

――預金者は金利優遇を受けるわけですが、信組はその資金をどう運用するのですか。

 

 吉野氏:預金者が特定健診を受診するために私どもが連携している医療機関に行くと、医療機関を通じて預金特典を知らせることができます。私どもは預かった資金は、通常の融資ファンドの資金として使います。一つは、大分県と私どもが一緒に立ち上げた「健康寿命日本一おうえん融資ファンド」です。

 

 これは医療・介護機関が、検診の精度を上げるために必要と思われる設備投資に融資ファンドとして資金を出すものです。例えば、検査用のMRIやCT、レントゲン、血液分析器などの設備投資資金をファイナンスします。医療機関そのものへの融資は別です。病院の待合室の改装費用なども含みます。健康診断だけに限定した資金へのファンドです。一件当たりの資金額はそれほど大きくないですが、資金需要は増えています。

 

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――健康診断、受診の効率化が進んで、受診率もアップするということですね。

 

 吉野氏:もう一つは、「受動喫煙防止対策融資ファンド(まろっと健康)」です。これは、大分大学と提携して商品開発したものです。「まろっと」というのは大分の方言で「まるっきり」と言ったような意味です。「丸ごと健康」ですね。これは大分大学の学長が命名してくれました。ファンドは、受動喫煙を防止する対策として、レストランや飲食店、会社などで、受動喫煙を防ぐための分煙の部屋や仕切り等を作るなどの改装資金に絞って提供するものです。これもそう大きな金額ではありませんが、現代社会の流れの中で大変、重要なことなので取り組んでいます。

 

 最近、米国に行きましたが、向こうでは、建物の庇の下でもタバコは吸えなくなっていました。建物から離れないと吸えません。受動喫煙に対する規制は日本よりもものすごく厳しい。日本も、2020年を目標にして、そうした社会になろうとしています。それを私どもも応援し、健康を「まろっと」高めたいと思っています。

 

――改装資金を融資する場合の貸出金利は通常より低いのですか。

 

 吉野氏:そうです。金利は低いです。実際の借り入れはまだそれほどありませんが、今後増えてくると思います。これは社会の変化に伴うニーズですので、徐々に現われると思います。「健康寿命日本一おうえん融資ファンド」の方も金利優遇があります。

 

 社会環境が変化する中での、サステナビリティの中での地域金融機関としての取り組みですので、儲けとか、取引の拡大ということは二の次です。根本は県民の健康の増進ということが、大分の地方創生の柱ですから。

 

――現在は、定期預金と二つの融資ファンドが中心ですか。

 

 吉野氏:大分大学医学部の先生方と連携して、県民の健康についての健康セミナーを毎月各地でやっています。通常のセミナーとは違い、毎月、県内の一つの自治体でやります。一巡するとまた一からやります。健康寿命日本一への挑戦なので、一度やれば良いというものではありませんから。先生方も通り一遍のお話ではなく、それぞれが専門領域での大量の症例を踏まえたお話なので、大変、中身が濃いセミナーです。これを私どもは、社会の理解を得るまでやるつもりです。

 

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 地域金融機関がそこまでやることなのか、という疑問があるかもしれません。しかし、私どもは県との協力、大学とも協力し、県の保健所も総動員してシステム的に動いています。そうすることで、私どもは社会の中で役に立つのです。信用組合は、儲けごとがあるから、東京で儲けようとか、香港で外銀を相手に手数料稼ぎのビジネスをやろうとか、ということではないのです。

 

 あくまでも地域のために、大分県民の生活者のための金融です。中小企業者のための金融です。それ以上でもそれ以下でもない。役割はそこです。基本的に地域が持続可能であれば私どもも持続可能になると思っています。だから、持続可能という一点に絞った経営方針というのが、今の健康寿命日本一の応援につながるのです。

 

――地域社会のニーズは、健康のほかにも地域の安全等いろいろあります。グローバルには「国連の持続可能な開発目標(SDGs)」なども求められています。多様なニーズに地域金融としてどう取り組みますか。

 

 吉野氏:健康寿命を延ばして生涯現役で過ごせる街づくりを豊かにするうえで、私どもはいくつかの金融商品を提供しています。若い世代を支援するため、出産・子育て支援の「子育て応援定期預金」があります。これも優遇金利を加えて生活を支援するものです。また都会からの若者等の地方移住を促す「ふるさと元気ローン」や、地方の潜在ビジネスである観光業を応援する民泊・農泊応援ローンの「温交知心」なども開発しています。

 

――いずれの取り組みも連携が大事ということですね。

 

 吉野氏:そうです。実は、今、国東半島全体の歴史・観光資源を広域連携でアピールし、国内外にその魅力を発信するプロジェクトを進めています。国東半島は2000年前に、神武天皇が日本国を行幸する時に瀬戸内海から、「彼に見えるは国の先ならむ」と言ったことに由来して、国東半島と呼ばれるようになったとの言い伝えがあります。1300年前には九州最大の仏教文化が栄えました。歴史としては京都よりも古いのです。

 

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 1000年前に88の神社仏閣がありました。現在は31に減っています。しかし、野辺には約90カ所、400体の磨崖仏等が点在しているとされます。こうした歴史資源を活用して、日本航空をはじめとした多くの大企業と私どもが連携して、「宇佐国東半島観光・地域振興広域連携プロジェクト』を立ち上げました。

 

 大分への海外からのインバウンド客は今180万人です。これを300万人に持っていこうという計画です。大分には立命館アジア太平洋大学もあり、そことも連携していますが、同大学には世界88カ国から学生が学びに来ています。6000人強の学生のうち3000人が外国からの留学生。彼らにSNSでの大分の情報発信をしてもらうことにもなっています。別府にはインターコンチネンタルホテルも7月にオープンする予定です。健康と観光をキーワードにして、世界中の人を呼び込んで、地域の活性化、発展を目指す考えです。

 

――地域が直接世界とつながるのですね。それを信組が仕掛けている。

 

 吉野氏:大分県の定住人口はどんどん減っています。ですから交流人口を増やす必要があると思っています。交流人口によって経済の活性化をすることが、結果として定住人口の増加にもつながるというのが私どもの狙いです。地域金融機関は、地域で交流人口を増やすための市民、住民の取り組みの環境整備のための金融をやらないといけない。国東だけで100くらいの小さな振興プロジェクトがあります。しかしほとんどが通常の融資にはなじみません。ですから、私どもが資金を供給する必要があるのです。

 

 信組として、地域金融機関として、やらなければならないことは、地域の住民とともに生きるということだと思っています。地域がなくなれば、私どもも必要なくなります。地域が元気になれば、私どもも元気になり、持続可能性が高まるということです。そのためのサステナブルなファイナンスを続けたいと考えています。

                                                                            (聞き手は、藤井良広)