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全国銀行協会、EUの「タクソノミー案」に意見表明。EU域外国のグリーンボンド等に例外規定設定を要請。企業の非財務情報開示義務化も求める。国内企業にも同様の要請をする布石か(RIEF)

2019-10-19 09:40:25

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 全国銀行協会が、EUのサステナブルファイナンス行動計画に盛り込まれた、グリーンプロジェクトを分類するタクソノミーについて、EU側に意見表明していたことがわかった。EU域外国が、EUのタクソノミーに合致しないグリーンボンド等に例外規定の設けるよう要請したほか、途上国や新興国の現状を改善する活動も幅広くタクソノミーに含め、先進国と同等の水準を求めるべきではない等を提案している。

 

 全銀協の意見は、「サステナブルファイナンス推進のため、タクソノミーを策定することは有効であり、上手く機能させることは有意義」と、タクソノミーの基本的な考えには一応の評価を与えている。

 

 そのうえで、「タクソノミーは、それに合致した案件をサポートすることに活用されるべきであり、それに合致しない案件へのファイナンスが規制されるような形では活用されるべきではない」と指摘している。これは、タクソノミーにリストアップされたプロジェクトだけが「善」で、その他は「悪」とされてファイナンスができなくなるのでは、と懸念する産業界への配慮のようだ。

 

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  この点は、タクソノミーがあくまでもサステナブルファイナンス(現状のEU案は気候変動対応に限定)に資する投融資に限定しており、それ以外の一般的な債券発行や融資は従来通りの投融資のルールで運営される前提を理解していないことから生じる誤解といえる。先日の経団連の意見書にも共通する。

 

 また、グリーンあるいはサステナブルな要因による金融上のリスクについては、「現時点では十分 なデータが蓄積されていない。このため、市場参加者にディスクロージャーを超える規制を課す場合(例えば、EUタクソノミーに基づいたリスクウェイト調整を行う場合)には、十分なデータの蓄積と分析を踏まえて慎重な検討を行うべき」とも述べている。

 

 これは、EU内部でグリーン&サステナブルな資産について、銀行の自己資本比率規制上のリスクウエイト評価で優遇すべきとの議論があることへのけん制とみられる。グリーン資産の多い金融機関が自己資本比率の算定上優位になると、石炭火力向け投融資が相対的に多い日本の3メガバンク等は不利になる、との指摘もある。

 

 EUがタクソノミーを制定するのは、EUの判断なので、全銀協がそれを差し止めることはできない。したがって全銀協は、EU以外の地域でグリーンボンド等を発行する場合の基準が、EUの基準より緩くて、EUのタクソノミーに合致しなくても、「各国の経済・産業等の状況を踏まえた削減基準に準拠していれば、グリーンボンドとして認める旨の例外規定を策定すべき」と要望している。

 

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 日本などの域外国が「EUタクソノミー未達」の緩めのグリーンボンドを発行する際、EU側に「例外」として認めるよう求めたわけだ。だが、この要望にも、素朴な疑問が生じる。どうしてEUは、EU市場以外の他の国の発行条件を担保する規定を設けねばならないのだろうか。

 

 全銀協の要望はさらにエスカレートしている。「開示プラットフォームで、EU域外グリーンボンドが EUタクソノミーで定める例外規定を準拠していることが判別できるような金融機関向け開示を実施すべき」。本来は、EUにこうした例外規定を求めるのではなく、日本の金融庁にしっかりとした「原則」の制定を求めるべきではないか。

 

 興味深い指摘もある。EU市場において「外銀」と位置付けられる日本の金融機関として、EUが定める非財務情報開示指令にもとづく開示義務(法 定義務)に対応するためには、「資金の受け手(投融資先企業)の開示の充実が図られる必要がある」と指摘している点だ。

 

 特に、コーポレート融資に際して、「金融機関に対する開示義務と同時に、投融資先に対する資金使途関連情報の提供義務を課すことが必要」と具体的に要求している。TCFD提言もそうした方向性を示している。全銀協が投融資先企業の資金使途関連情報の提供義務をEUに提案した点は、日本の国内市場でも同様の情報開示を企業に求めていく決意と受け取ることができる。

 

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 またEUタクソノミーの影響について、EU市場だけにとどまらず、グローバルな影響があることを懸念として表明している。「(タクソノミーの)直接影響を受ける欧州系金融機関の投融資行動の変化を通じてグローバルな投資・貸出資産のプライシングに影響を及ぼす可能性がある。このような観点を踏まえた検討・制度設計が重要」との指摘だ。

 

 まさにEUの狙いは、「グローバルなプライシングに影響を与える」点にあるとみられる。既存の化石燃料中心のエネルギー体制や、それに依拠した経済システムを続けている限り、パリ協定が目指す目標の達成は難しい。したがって、グリーン&サステナブルなファイナンスの流れを強めて、EU以外でも低炭素経済社会への移行をスピードアップさせようというのが真の狙いではないか。

 

 ところが、全銀協の理解は“真逆”だ。「タクソノミーが、国・法域レベルで大きく異なり一貫性に欠けると、これに依拠する規制・制度が分断される可能性がある」「タクソノミーが過度に厳格で『One size fits all』だと、パリ合意の達成、低炭素社会への移行に向けた各国・法域での柔軟な政策実行を妨げる可能性がある」

 

 サステナブルファイナンスについて、「グリーンな経済活動だけでなく、低炭素経済への移行を目指す経済活動を支援するものであるべき」との指摘や、「タクソノミーを過度に詳細かつ prescriptive なものにすると、逆にイノベ ーションを阻害することになりかねない」との指摘は、経団連意見と共通する。

 

 前者は、サステナビリティの一般概念と、サステナブルファイナンスの概念を取り違えた誤解であり、後者はBAT(Best Available Technology)を技術評価の基本に据えるEUのスタンスを無視した誤解と言わざるを得ない。

 

 もう一つ興味を引くのが「先進国、新興国問わず、グローバルレベルでプリンシプルを共有し、その うえで、可能な限り調和のとられた『国・地域レベルでのタクソノミー』 が運用されるフレームワーク」を提唱した点だ。

 

 日本には現在、グリーン&サステナブルファイナンスのタクソノミーは不在。だが、全銀協が提案するフレームワークを完成させるためには、日本のタクソノミーが必要になる。バランスがとれ、パリ協定達成にも資する「日本版タクソノミー」を全銀協は用意しているに違いない。

 

                     (藤井良広)

https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/opinion/opinion310933.pdf

 

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