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第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑥地域金融賞は群馬銀行。国内地方銀行初のグリーンボンド発行。グリーンへの貢献と自己資本増強(RIEF)

2020-02-19 16:25:52

gunma11キャプチャ

 

写真は、群馬銀行の内堀剛夫氏㊧、西村和徳氏㊨)

 

 第5回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞は、地方銀行として初めてグリー ンボンドを出した群馬銀行が選ばれました。同行は第 3 回の大賞選定でも、小水力発 電事業に PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)方式での開発を提案、地域 金融賞に輝いています。常務執行役員総合企画部長の内堀剛夫氏と、総合企画部 経営管理室長の西村和徳氏にお聞きしました。


――昨年 11 月に、地銀第一号のグリーンボンドを発行されました。発行額は 100 億 円で期間 10 年(期限前償還条項付)。資金使途は、再生可能エネルギー事業や省エ ネ、環境配慮型私募債等の投融資資金等ということですが、グリーンボンドでの資金 調達をしようと考えたきっかけはどういう点ですか。

 

 内堀氏:群馬銀行グループとして、昨年2月に、国連の持続可能な開発目標(SDGs) の達成に向けた取り組みを推進するための「群馬銀行グループ SDGs 宣言」を制定し ています。その中で、重点課題として、「地域経済の持続的発展」「地球環境の保全と 創造」など 4 課題を提言しています。



 このうちの「地球環境課題」は、世界的にもそうですが、当行の「マザーマーケット」 である群馬県にとっても、重要なテーマです。我々の SDGs のへの取り組みを、幅広く ステークホルダーの皆様に周知していただくことも想定して、グリーンボンドの発行を 決めました。

 

総合企画部長の内堀剛夫氏
総合企画部長の内堀剛夫氏

 

 また、グリーンボンドを劣後債として発行することで、バーゼル規制上の国際基準行 である当行にとって、自己資本の充実に貢献するという側面もあります。劣後債はバ ーゼル規制上、自己資本とみなされるためです。自己資本増強策として、劣後債 500 億円(発行登録枠)を調達する計画の中で、400 億円は既に調達済みですが、残りの 100 億円を今般グリーンボンドという形で発行しました。

 

――グリーンボンドは環境に配慮した事業に資金使途を限定する必要があります ね。群馬県は太陽光発電等のグリーンプロジェクトが多いという利点もありますか。

 

 内堀氏:確かに群馬県内は太陽光事業が元々多いです。年間の快晴日数が全国 で 2 位、日照時間の長さでは全国 6 位という好条件が整っています。このため、従来 から太陽光発電事業への融資が多いという背景があります。それから水力発電事業 への取り組みは県内だけでなく、富山県の事業にも融資しています。さらにバイオマ ス発電等も有望です。こうした資金使途先がベースにあります。我々が取り扱ってき た太陽光発電融資は現在、件数で約 1000 件ほど、融資残高で約 1000 億円ありま す。



――実際にグリーンボンドを発行してみて、投資家の反応はどうでしたか。



 内堀氏:学校法人や地方の投資家のニーズは非常に高くありました。債券のスプレ ッドなど条件面をみる機関投資家に対して、学校法人等は、グリーンボンドを活用し た我々の「資金循環」の仕組みに賛同して投資してくれました。県外からも、系列校が 群馬県にあるとか、学生に群馬県出身が多いなどの、群馬県にゆかりがあるといった 東京の学校法人などの投資が集まりました。地元の企業も、弊行の社債であり、なお かつグリーンボンドであることで、好感を持って買っていただきました。

 

――今後、毎年、発行していきますか。

 

 内堀氏:今の段階では、毎年出すということは考えていません。我々の社債発行の 必要性等を踏まえて都度検討して行きます。自己資本調達という面では、当初の予 定額は積上げた形です。

 

経営管理室長の西村和徳氏
経営管理室長の西村和徳氏



 西村氏:仮に、次にグリーンボンドを出すタイミングがあれば、たとえば、もっと小口 化して、個人向けのものを出すことも考えられますね。それはグリーンボンドに限らず、 ソーシャルボンドにすることも、資金使途を何に結びつけるかで、いろいろ検討できる と思っています。


――SDGs 宣言に沿った他の活動はどうですか。中長期的に、銀行の事業全体の中 で ESG は柱になっていくのでしょうか。一般的な銀行業務の中に、ESG 評価を盛り込 んでいくことを求める動きも出ています。


 西村氏:SDGs 宣言に沿って、弊行の役員報酬の一環として、SDGs への貢献を評 価項目とするパフォーマンス・シェアを導入し、役員の報酬の一部に貢献度を連動さ せる仕組みを取り入れました。社内で目標を決めて、その KPI の達成度に応じて、評 価が上下します。

 

 それらの評価については、行内に、社外取締役も入れた報酬諮問委員会を設けて おり、そこで客観的に判断して、報酬を決めることにしています。社外の役員を含めて 各取締役は SDGs を相当意識していますので、そうした意識は、自ずと我々の営業活 動にも反映していくと考えています。


――金融機関に我々が期待するのは、顧客企業に環境・社会配慮の意識や取り組 みを広めるという点です。たとえば、銀行が顧客企業の CO2 排出量の削減度を評価し、支援するような活動を期待しています。金融機関に、顧客企業の環境・社会要因 を見る「目」をもって対応してもらいたいのです。

 

 内堀氏:そうですね。我々は環境だけでなく、SDGs 私募債も出しています。これは SDGs に貢献する活動に取り組む企業の私募債を銀行が引き受ける仕組みです。現 在、約 130 件、残高 100 億円程度になっています。顧客企業の SDGs 活動の中身を 我々が確認しながらファイナンスをすることで、顧客企業の SDGs 意識を広く醸成して いる点もあります。取引によっては、顧客企業のCO2の削減努力等を、融資のコベナ ンツの指標の一つにするということもあるでしょう。

 

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――超低金利の長期化で、地銀の経営の厳しさが指摘されています。その中で、 SDGs や ESG 分野は新たな成長の可能性のある新しい分野です。ぜひ、がんばって 取り組んでもらいたいですね。


 内堀氏:SDGs の取り組みとして人材育成・確保という点もあります。ただ、人材確保 という点では、群馬県は東京に近いので、県内の優秀な人材が東京に出て行ってし まう問題があります。そういう中で、さきほどグリーンボンドに対する学校法人の投資 の需要が多かった点は、SDGsや ESGの活動をすることが、自分たちの仕事がどうい う風に社会に役立っているかを非常にわかり易く示す具体的な例でもあると思います。 そういう点でも積極的に取り組んでいかなければと思っています。



 西村氏:SDGs 意識を継続するため、行員の研修とか行内プログラムにも、SDGs 関 連のテーマを取り入れていこうともしています。また行員による地域の金融教育の活 動にも力を入れています。銀行の社会的な役割を高校生たちに説明する中で、SDG の考え方と、それとの紐づけをわかり易く伝えることで、SDG に目を向けてもらうよう な取り組みもしています。

 

――石炭火力発電向け等の融資案件はありますか。


 内堀氏:個別融資ではありませんが、シンジケートローンなどではあります。まだ 我々はクレジットポリシーで、石炭火力等に対する対処方針を明記するまでには至っ ていません。ただ、案件ごとに、発電のタイプが超々臨界圧火力発電などか、あるい は周辺に健康被害を及ぼさないかといったことを、個々にみて判断しています。

 

                      (聞き手は 藤井良広)