HOME10.電力・エネルギー |ミャンマーでのガス田開発から欧米エネルギー大手、相次ぎ撤退表明。豪ウッドサイド、英蘭のシェルも、トタル、シェブロンに続く。権益継承先とみられるアジア企業の行動に焦点(RIEF) |

ミャンマーでのガス田開発から欧米エネルギー大手、相次ぎ撤退表明。豪ウッドサイド、英蘭のシェルも、トタル、シェブロンに続く。権益継承先とみられるアジア企業の行動に焦点(RIEF)

2022-01-28 22:20:45

A6キャプチャ

 

  オーストラリアのエネルギー大手のウッドサイド石油(Woodside Petroleum)は、ミャンマーで展開していたガス田開発からの撤退を決めた。 開発対象のガス田はベンガル湾の超深海部で、同社は先に別のガス田開発からの撤退を発表した仏トタルエナジーや英蘭シェル等と共同開発してきた。欧米企業の相次ぐ撤退の一方で、国軍系企業は返上されるガス田権益を、タイや韓国等のアジア勢が引き継ぐことで、利権の維持を図っているという。

 

 (写真は、ウッドサイドが開発してきたミャンマーのA-6地区の海底ガス田開発)

 

 ウッドサイドは2013年からミャンマーでのガス田開発に取り組んできた。しかし、昨年2月に発生したミャンマーでの軍事クーデター以降、国軍が関与する同国での開発事業の全面見直しをしていた。今回、撤退を決めたガス田は、ミャンマー西部のベンガル湾ラカイン盆地の各地で展開している深海エネルギー開発事業。https://rief-jp.org/ct10/121777?ctid=72

 

  同海域のA-7地区で同社は、英蘭のシェルとともに、ガス田開発を進めてきた。シェルもウッドサイドと同様に開発免許を返上するとしている。同地区での開発権益は生産量に応じて利益を配分するPSO方式で、ウッドサイドは昨年11月に国軍の影響下にあるミャンマー石油ガス公社(MOGE)との間で契約を結んでいた。ウッドサイドは、契約の停止とともに、ミャンマーでの開発ライセンスの残余期間分をすべて放棄するとしている。

 

 A-7同地区以外の海底開発の AD-1 とAD-8や、それにトタル、MOGEと共同開発してきたA-6地区も撤退対象となる。これらの海底ガス田開発は、水深50m~2500mに及ぶ海域で、主に2300~2400mの深度部分に多数の井戸を構築して天然ガスを開発している。ミャンマーでのガス田事業からの撤退により、ウッドサイドは約2億900万㌦の費用を計上するという。

 

 相次ぐ欧米エネルギー大手のミャンマーからの撤退表明の背景には、今週に入って、米国がミャンマーで事業展開をする世界中の企業に向け、人権侵害が続く同国での事業の継続は、自社の評判リスクだけでなく、金融リスク、訴訟リスク等にさらされる可能性がある、と警告したことが大きい。

 

 米国の警告は、エネルギー事業だけでなく、宝石、希少金属、不動産、建設事業、武器ビジネス等と広範囲に及んでいる。このうちガス開発事業は、毎年10億㌦の売り上げをあげており、国軍にとって有力な資金源の一つになっているとされる。

 

 相次ぐエネルギー大手企業のミャンマーからの撤退は、国軍企業の収益にも影響を及ぼす可能性は大きい。ただ、先行してガス田開発からの撤退を表明したトタルとシェブロンの権益は、共同開発事業者のタイの国営電力会社PTTの子会社 PTTEP が引き継ぐ見通しとされる。そうなると国軍企業が組むパートナーが、入れ替わるだけにもなり、ガス田事業は継続される。

 

 トタルの事業の場合、開発したガスの多くはタイに輸出されている。ガス田開発利権の継承は、PTTにとっても自国が引き取るガス量の安定を図ることにもつながる。したがって、一時的な混乱はあったとしても、国軍企業の収益の大半は維持される見通しだ。

 

 撤退を表明した欧米企業においては、国軍が手続きを遅らせたりするなどの影響を受け、実際の撤退に時間を要するところも少なくない。ノルウェーの電力会社Telenorは昨年7月に撤退を発表したが、軍部によって撤退がストップさせられているという。

 

 ようやく撤退が認められた場合でも、保有資産の売却先が決まることが条件になると、国軍の資金源を断つ形にはなりにくく、制裁圧力の意味は半減することにもなる。現在、欧米企業の撤退利権の買い取り先としては、PTTや韓国の鉄鋼大手POSCO等の名があがっている。

 

 オーストラリアの人権NGO「Human Rights Watch」のElaine Pearson氏は「一社ずつではなく、連携した緊急行動と目標を定めた経済制裁が必要だ」と指摘。アジア企業を含めた制裁活動の足並みを整える必要性を強調している。

https://www.woodside.com.au/docs/default-source/asx-announcements/2022/woodside-to-withdraw-from-myanmar.pdf

https://www.theguardian.com/world/2022/jan/27/woodside-petroleum-to-pull-out-of-myanmar-one-year-on-from-military-coup?utm_source=CP+Daily&utm_campaign=449b21958c-CPdaily27012022&utm_medium=email&utm_term=0_a9d8834f72-449b21958c-110248541