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【坂本龍一 いま、僕が思うこと】ほんとうに言いたかったことは

2012-09-23 22:38:35

今夏は演奏活動などで約2カ月国内に滞在した坂本龍一さん。23日からヨーロッパツアーが始まる
今夏は演奏活動などで約2カ月国内に滞在した坂本龍一さん。23日からヨーロッパツアーが始まる


ぼくがなぜ「たかが電気」と言ったか。「たかが」という単語にひっかかって、感情的に反応している人が多かったようですが、ぼくは人間の生命、健康、生活と対比させて、電気を「たかが」と言ったのです。つまり命と電気と、どちらが大切か、と問うたのです。そう聞かれて、ほとんどの方は「命」と答えるのではないでしょうか。人間の命に比べれば電気などは「たかが」といっていいでしょう。そもそも命がなければ電気も必要ないのですから。

 人は水がなければ生きていけません。その意味で水はわれわれにとって必須のものです。一方電気は、それ自体というよりも、われわれはその利便性、つまりそこから得られる動力、熱、光などを生活のなかにいかしているに過ぎません。もちろんぼくもそのような電気の利便性の恩恵にあずかっていますし、それを否定したことはありません。

 しかしそのような利便性のために、なぜ16万人もの方が依然避難し、故郷、家、職を失い、家族がばらばらになったうえ、これから長い間、健康被害におびえながら暮らしていかなければいけないのでしょうか?

 これほどの災厄を起こしてまで原子力による発電が必要でしょうか。他にたくさんの発電の方法があるのに、わざわざリスクをかかえた発電方法を選ばなくてはならないのでしょうか。火力や水力、また再生可能エネルギーなどと同列の発電方法の一つとして考えるのには無理があると思うのはぼくだけでしょうか。

原発はエネルギー問題という言い方がなされますが、常々ぼくは違和感を覚えていました。というのは、日本国の最終エネルギー消費のなかの電力の占める割合は24%(2010年度、資源エネルギー庁)、大震災前の原子力による発電はそのなかの25.9%ですから、原発は全体の6%に過ぎないからです。

 電力不足という脅し文句で再稼働された大飯原発ですが、再稼働がなくても電力は足りるということは事前にも言われていたことですが、夏が終わった今証明されてしまいました。

 ともかく、真のエネルギー問題は6%の原子力発電の問題ではなく、94%の方なのです。節電をさらに効率的に進めるのは当然として、まだまだ膨大に捨てられている熱利用も進めなければなりません。地域の気候・風土に合った各種の再生可能エネルギーを組み合わせ、それをスマートグリッド(次世代送電網)により融通し合う構想は既に常識だと思いますが、さらに電気だけでなく各種エネルギーを効率的に組み合わせ、それをネットワークを通じて融通し合う仕組みこそ待望されます。

 そして産地が限られている石油依存から脱却し、日本近隣からも算出されるため、経済的でしかもセキュリティー上のリスクも少ない天然ガスや、低コスト化が待たれる燃料電池の普及は大きな追い風になります。

 現在の経済や生活水準を維持しながら、日本を、さらには地球共同体をどう低炭素社会にもっていくか、これこそが真の課題のはずです。

 大震災前でさえたかだか6%しか供給を担っていなかった原発のために、人類史上最悪の事故を起こしてしまい、その事故処理、補償、除染、さらには廃炉というハードルなど大きなマイナスを作り上げてしまいました。これはどうしても放り出すことのできない課題です。その総コストはどれだけのものになるのでしょう。これが日本の経済に突き刺さった大きな「棘」だということは、政治や経済に関わる者だけでなく、日本人全員が覚悟しなければなりません。原発がなければ経済が成り立たないのではなく、原発があるから経済が成り立たないのです。

 最後に、美しい日本の国土、さらには地球環境を汚し、人類の未来である子供たちの命を危険にさらす原子力発電は、許容することはできません。