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教師証言メモ、市教委廃棄 石巻・大川小調査 (河北新報)何を隠そうとしているのか?

2011-08-22 12:55:33

 東日本大震災の津波で、全校児童の7割に当たる74人が死亡、行方不明になっている宮城県石巻市大川小をめぐり、市教委が生き残った男性教師ら関係者に震災当時の状況を聴取した際の証言メモを廃棄していたことが20日、分かった。「メモを基にした」という報告書はあるが、証言がどう反映されたかを検証できず、調査の信頼性が問われそうだ。

 河北新報社が情報公開請求で入手した報告書によると、男性教師への聞き取りは3月25日、市教委の男性職員2人が行った。男性教師は当時学校にいた教職員11人の中で唯一助かったが、現在は休職中。現場の状況を知る数少ない大人の一人だ。
 市教委学校教育課によると、聴取は20~30分間行われ、職員は教師の発言をメモ用紙に書き取った。「大川小事故報告並びに聞き取り調査記録」と題した報告書が5月に完成した段階で、メモを全て廃棄したという。

 報告書のうち、男性教師に関わる部分はA4判用紙2枚。「聞き取りの概要」として、「地震発生とともに机の下へもぐる」「津波が来た。男性教師は最後尾におり、『山だ』と叫んだ」などと当時の状況を時系列に並べているが、男性教師の具体的な発言は記されていない。
 

男性教師の話を聞いた市教委の担当者は「詳しい発言内容は記憶にないが、大切だと思った部分は報告書に反映させた。メモはたまるだけなので、保存する理由はない」と説明する。

 市教委は、男性教師のほか児童24人と中学生、当時外出していた大川小の女性職員、周辺で警戒を呼び掛けていた市職員の計27人にも4~5月に聞き取りを実施。それぞれの証言を記したメモも「概要」として報告書にまとめた後、「全て捨てた」(学校教育課)という。

 市教委は6月、男性教師ら関係者の聞き取り調査を基に、保護者に当時の状況を説明していた。

◎「信じられない」憤る遺族、再調査要求も

 石巻市教委が、津波で甚大な被害を受けた大川小の男性教師ら関係者の証言メモを廃棄したことをめぐり、児童の遺族からは「信じられない」という憤りや、再調査を求める声が上がっている。

 「なぜ大事な資料を捨てたのか。市教委は学校管理下で74人もの児童が犠牲になった事実の重さを、理解していないのではないか」。6年生の娘を亡くした両親は言う。

 生き残った男性教師は震災で大きなショックを受け、休職している。男性教師が、親たちの前で当時の状況を語ったのは、震災から約1カ月後の4月9日の説明会だけだ。

 母親は「先生の体調を考えれば、貴重な証言だったはず。それを廃棄するなんて考えられない」と疑問を投げ掛ける。

 「以前からうわべだけの調査だと思っていたが…」と父親は話す。「市教委は『児童の犠牲を教訓にする』と言うが、しっかりした検証なしにはあり得ない。誠意を持って対応してほしい」

 3年生の息子を亡くした父親は「捨てていいメモと重要なメモの区別もつかないのか。市教委には検証を任せられない。市は第三者委員会の設置など、再調査を考えるべきだ」と訴える。

 わが子を失った悲しみに加え、震災後の市教委の対応に不信感を募らせる遺族は少なくない。市教委が当時の状況を説明する場を設けたのは、4月9日が初めて。6月4日の第2回説明会は約1時間半で打ち切られ、「以後は行わない」とされた。

 子ども2人を失った母親は「説明会は2回とも『保護者の要望に応じて開く』とされ、自分たちを正当化する話ばかりだった。メモ廃棄も、そうした姿勢から生じたように思えてならない」と不信感を隠さない。

◎情報公開に反する

<堀部政男一橋大名誉教授(情報法)の話> 大川小児童の犠牲は歴史に残る悲劇と言える。石巻市教委は「メモだから廃棄した」と言うが、生き残った男性教師の言葉は重要な証言。プライバシーに関わる部分を除けば、当然情報公開の対象になる。

 なぜ悲劇が起きたか検証して今後に生かすためには、証言の一言一句を公文書として記録、保管し、音声も録音する必要があった。開示された文書は「概要」というタイトル通りに非常に簡素な内容で、男性教師が実際に何を話したかが分からない。市教委の対応は情報公開の趣旨に反すると言わざるを得ない。
[大川小の被害]3月11日の地震直後、児童はいったん校庭に避難。北上川の橋のたもとにある小高い場所へ移動する途中、川をさかのぼった津波に襲われた。児童108人のうち69人が死亡、1人がDNA鑑定中で、4人の行方が分からない。当時学校にいた教職員11人は10人が死亡・行方不明。校庭などに避難した住民も多くが犠牲になった。

http://www.kahoku.co.jp/news/2011/08/20110821t13010.htm