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「原発銀座」の福井県 原発から離れた内陸部の市町村で小水力発電での町興し 広がる(スマート・ジャパン)

2014-08-26 21:53:44

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福井県のエネルギー政策は現在でも原子力が中心だが、内陸部を中心に再生可能エネルギーで地域を活性化する取り組みが広がりを見せている。特に小水力発電の開発が活発で、農業用水路や砂防ダムに導入する計画が動き出した。太陽光やバイオマスも加えてエネルギーの地産地消を目指す。[石田雅也,スマートジャパン]

政府が推進する国家戦略特区の1つとして、福井県は「エネルギー成長戦略特区」の設置を提案している。国内に分散する原子力の研究機関を若狭湾岸に集約する一方で、LNG(液化天然ガス)のパイプラインを日本海沿岸に整備して、国内における一大エネルギー拠点を形成する構想だ。福井県の優位性をアピールした内容だが、再生可能エネルギーは組み込まれていない。

しかし現実には再生可能エネルギーを導入する動きが着実に広がり始めている。福井県を含む北陸地方は年間の降水量が全国で最も多く、豊富な水量を生かした小水力発電が有望だ。稲作を中心に農業が盛んなことから、内陸部を中心に農業用水路がはりめぐらされている。

県の中部に位置する越前市を流れる農業用水路では、新しい小水力発電所が2014年6月に運転を開始した。総距離が170キロメートルに及ぶ「日野川(ひのがわ)用水」の分岐点に設けられた37メートルの落差を利用して発電する(図1)。この分岐点を流れる毎秒0.6立方メートル前後の水流を生かして、最大141kWの電力を供給することが可能だ。


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hinogawa3.jpg 図1 「日野川用水発電所」の位置と発電設備。出典:日野川用水土地改良区



水流の落差が十分にあることから、発電機には水力発電で最も多く使われる横軸フランシス水車を採用した(図2)。年間の発電量は102万kWhで、一般家庭280世帯分の電力使用量に相当する。年間を通じて水量が安定しているため、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は83%と極めて高い。年間の売電収入は約3500万円になり、地域の負担が大きい農業用水路の維持管理費を低減することに役立てる。


hinogawa1.jpg 図2 「日野川用水発電所」の建屋と水車発電機。出典:日野川用水土地改良区



小水力発電を導入する取り組みは県内の各地で始まっている。2012年度に開始した「1市町1エネおこしプロジェクト」が代表的なもので、8つの市と町が地域の自然を利用した再生可能エネルギーの導入を推進中だ(図3)。8つのプロジェクトのうち太陽光が2カ所、バイオマスが1カ所、雪氷熱が1カ所、残りの4カ所は小水力である。


1shichou1ene.jpg 図3 「1市町1エネおこしプロジェクト」の進捗状況(2013年11月時点。画像をクリックすると拡大)。出典:福井県安全環境部



小水力のプロジェクトでは砂防用のダムや川を利用する例が多く見られる。県北部のあわら市にある「清滝砂防ダム」が候補の1つになっている(図4)。ダムの高さは21メートルで、そこから700メートル下流にある北陸電力との連系地点まで配管を敷設して発電機を設置する計画だ。ダムの水位や流量をもとに推定したところ、15~20kW程度の発電設備を導入できる見込みである。


kiyodakigawa1.jpg 図4 あわら市で小水力発電を導入予定の「清滝砂防ダム」。出典:清滝川小水力発電利用推進協議会



さらに内陸にある鯖江市でも、砂防ダムや農業用水路を対象にした小水力発電の導入計画が具体的に進んでいる。市内の3つの地区を候補に選定して、複数の設置パターンをもとに発電設備の設計や採算性の評価を実施中だ(図5)。


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sabae_shousuiryoku2.jpg 図5 鯖江市の小水力発電の候補地点(上)、「金谷地点」における設置案(下)。出典:鯖江型持続可能エネルギー利活用推進協議会



あわら市と鯖江市のプロジェクトは地域の推進協議会で検討を進めながら、2014年度中に最終判断を下す見込みである。実際に発電設備の建設に着手することになれば、同じような砂防ダムや農業用水路がある他の地域にも展開できる可能性は大きい。

福井県の再生可能エネルギーの導入量は全国でも低い水準にとどまっている。固定価格買取制度の認定設備の規模では47都道府県の中で最下位にある(図6)。県を挙げて原子力の復活を推進する一方で、小水力を中心に太陽光やバイオマスを加えた再生可能エネルギーをどこまで拡大できるのか。日本のエネルギーの未来を示唆するような状況になってきた。


ranking2014_fukui.jpg 図6 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)