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原発避難の子ども達 続く苦しみ(NHK)

2012-02-22 19:03:13

原発事故の影響で2万人余りの全住民が避難を余儀なくされている福島県浪江町は、避難区域の対象となっている県内の自治体としては初めて、町内の小中学校に通っていた子どもたちを対象にアンケートを実施しました。
震災と原発事故からまもなく1年がたちますが、その結果からは、原発事故が今も子どもたちを苦しめている実態が明らかになりました。福島放送局の仲沢啓記者が解説します。

思いもよらない「言葉」


北関東のある街で、浪江町からの避難生活を続けている中学1年生の女子生徒が取材に応じてくれました。
原発事故のあと、一家は避難先を転々としました。
さらに父親の勤務先も警戒区域にあったため、仕事場が無くなりました。
父親の新たな職場が見つかった北関東の街で、8月から家族6人で生活しています。
避難先の学校に通い出して間もなく、彼女はクラスメイトから思いもよらない「言葉」を突きつけられました。

「放射線があるから近よらないで」
その日以来、彼女は学校に通えなくなりました。
1日中泣き続け、4か月もの間、部屋に独り閉じこもっていました。
母親は「あぜんとして頭の中が真っ白になりました。この憤りをどこにぶつけていいのかも分からず、2人で泣いてました」と話しています。

原発事故の影響で、浪江町は、全住民が福島県内のほか44の都道府県にばらばらに避難しています。
町では、仮役場を設置している県内の避難先の自治体に、町内にあった2つの小中学校を再開していますが、そこに戻ってきた子どもは全体の5%にとどまっています。
このため、浪江町では先月、避難生活を続ける約1700人の子どもを対象にアンケートを実施し、70%以上の約1200人から回答を得ました。

このうち、「今の生活で困っていること」を複数回答で尋ねたところ、▽「浪江の友だちと会えなくなった」が78%と、多くの子どもが避難先で以前の友だちと会えなくなってしまったことに寂しさを感じている実態が分かりました。
さらに、▽「学校が変わって、勉強についていくのが大変」が20%、▽「新しい学校になじめない」が10%でした。新しい環境に溶け込むことが難しい現状が浮き彫りになりました。
そして、アンケートの自由記述欄には、避難生活での苦しみや、戻りたいけど戻ることのできないふるさとへの思いが切々とつづられていました。
「友達がいなくて学校が楽しくない」
「浪江町と言っただけで、放射能がついているとか、被ばくしてると言われる」
「防護服でもなんでもきるので、1回くらい、私達を入れてください」
「早く浪江に帰らせてください」

アンケート結果を受けて、浪江町では、避難先で新しい学校に通っている子どもたちのためにどういった支援ができるのか検討していくことにしています。
ただ、各都道府県に別れている子どもたちに、どういう手をさしのべることができるのか、きめ細かい対応は町単独では難しいのが実情です。

“浪江の友”が支えに


子どもたちは、ふるさとへの思いを強めています。
北関東のある街で、家に閉じこもってしまった中学1年生の女子生徒は、原発事故前、活発でスポーツが大好きでした。
浪江町に住んでいたときは、ミニバスケットボールのチームに所属し、レギュラーとして活躍していました。
彼女は、最近になってようやく週に1度ほど近くの公園に外出できるようになりました。
しかし、同じ学校の生徒と顔を合わせたくないため、出かけるのは平日の昼間だけです。
彼女の言葉です。

「浪江のこと思い出すと帰りたいという気持ちが強い。浪江の友達とやっぱり会いたいなって思いますね。帰りたいです」
彼女を勇気づけているのは、浪江の友達からの手紙です。
同じように避難先で悩みながら生活していることが書かれています。
「自分だけではない」と友達の励ましに彼女は支えられています。
学校に通えなくなってから半年。
彼女は友達の励ましもあって、新学期から学校に通うことを決めました。
今は遅れを取り戻そうと、参考書を買って自分で勉強を始めています。
彼女は「浪江町に戻りたいけど、原発事故で戻れないかもしれないから、そこは気持ちの区切りをつけたい。

新学期からは友達を作って、一緒にバスケをしたり、勉強を教えてもらったりしたい」と話しました。
母親も「毎日泣いてたから、勉強どころじゃなかったので、自分からやってくれるとかそういう気持ちになってくれただけうれしい」と話しました。
今回、彼女と母親は「福島出身の親子で、自分たちと同じ苦しみを味わっている人はきっとほかにもいるはずです。そこから次の一歩を踏み出せない人たちのために、少しでも力になれたらと思います」と話し、取材に応じてくれました。
震災・原発事故からまもなく1年。
避難を続ける子どもたちは、いまだに大きな負担を強いられています。
そして、放射線の影響や子どもたちが置かれている状況や心情への周囲の理解のなさが、子どもたちをさらに追い詰めていると感じます。
ふるさとを離れ、友だちとも別れて避難を続ける子どもたちの姿を正しく理解し、支援していく必要があると思います。

浪江町が子どもを対象に行ったアンケートの結果は、
以下のリンクからご覧になれます(PDFファイル)
http://www.town.namie.fukushima.jp/wp-content/uploads/2012/02/2-2.pdf
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http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/0221.html