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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑩森ビル・街ぐるみのグリーン化開発で2年連続でグリーンボンド発行。「グリーンボンド賞」(RIEF)

2021-02-16 13:19:41

mori001キャプチャ

 

   グリーンボンド賞には、2023年3月末の完成を目指して東京のど真ん中で開発中の「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の保留床取得資金に充当するグリーンボンドを、2年連続で発行した森ビルを選びました。建物のグリーン化だけではなく、街全体のグリーン化と健康的な生活(ウェルネス)を追求する点が評価されました。同社の執行役員財務部長の瀬川幸二郎氏と財務部課長の川村良彦氏にお聞きしました。

 

上写真は、瀬川幸二郎氏㊨と、藤井良広環境金融研究機構代表理事㊧)

 

――まず、虎ノ門・麻布台プロジェクトの概要をお教えください。

 

  瀬川氏:森ビルはこれまでも、「都市の本質は、そこに生きる人にある」との考えで取り組んできました。こうした視点に立って、われわれの街づくりのコンセプトは3つあります。一つは、災害に強い安全・安心な街を作りたい。二つ目は環境・緑を生かすということ。三つ目は、文化芸術をぜひ街づくりに取り入れたい点です。これが、われわれの昔からのコンセプトです。

 

 街づくりのコンセプトとして、故森稔前会長が言っていたのは、ヴァーティカルガーデンシティ(垂直の緑園都市)です。街を作る時に、小さいビルをたくさん作ると、密集して殺伐とした街になってしまう。そうではなく、建物を高層化して、オフィスや住居はそこに集約し、空いたスペースに広場を設け、そこを緑化していく。また、必ずしも自然光を必要としない鉄道や道路などのインフラや、コンサートホール、ライブラリーは地下に配置する。そうすることで地上に空間を設けるというのが、垂直緑園都市の基本的な考え方です。これを実現するために、上記の3つのコンセプトを取り入れます。

 

 グリーンボンドは実は、われわれのこうした街づくりのコンセプトの一つの柱(環境・緑)を、資金調達の面で活用、アピールできるものとして位置付けています。われわれとしては、われわれが街づくりで取り組みたいことを、資金調達を通じて広く関係者の皆様に知って頂く良い機会になるのではないかと思って、グリーンボンドを発行しています。

 

瀬川氏
瀬川氏

 

 ――2019年の最初のグリーンボンドの発行と、20年10月のボンドの発行を比較して、市場の反応に違いはありましたか。

 

 川村氏:19年は普通社債としてグリーンボンドを発行しました。発行額は150億円。われわれにとって初めてのグリーンボンド発行なので、事前のIRをしっかりやりました。投資家の応募倍率は1.13倍でした。われわれとしては、必要最低限の資金需要を確保したと思っています。グリーンボンドということで、投資表明をいただいた投資家は17件。それまで普通社債を購入していただいていない投資家にも購入していただきました。

 

 次に、昨年10月のボンドは「公募ハイブリッド型グリーンボンド」ということで、劣後特約付き社債(劣後債)での発行を決めました。劣後債の発行は当社として2回目になるということと、劣後債なので利回りは投資家に魅力があることなどから、投資家からはかなり旺盛な需要を集めることができました。発行額450億円に対して、応募倍率は3.53倍になりました。投資表明件数は国内ESG債史上最多の111件、獲得することができました。中央、地方の幅広い投資家から投資表明をいただけたことで、これまで取り組んできた方針が間違っていなかったと安心しました。

 

―――投資家の反応が、前回に比べて、より良かったのは、IRの浸透に加え、劣後債としたことが投資家の関心を呼んだのでしょうか。

 

 川村氏:両方ですね。劣後債の発行も、われわれにとって2回目でした。グリーンボンドの発行も2回目。いずれも前回の発行からの流れを引き継ぎ、投資家からは安心感を持って投資していただいたと理解しています。劣後債はシニアの投資家により安心感を持ってもらえるような商品となり、グリーンボンドはESGを重視する投資家の開拓につながったと思います。その他、以前には超長期債の起債を行ったりもしており、様々な商品ラインナップを広げることにより、投資家層を着実に広げて来れていると考えています。


――森ビルは非上場企業ですが、グリーンボンドの発行に際して、不利な点は無かったですか。

 

 川村氏:確かにわれわれは非上場企業ですが、既に26回の起債実績がありますので、グリーンボンドを発行するにあたって非上場企業故の不利な点はありませんでした。社債市場と向き合う中で非上場企業として意識していることは、いかに安定的に社債市場から資金を調達できる状態を維持するかということです。そのために重要なポイントは安定的に投資頂ける投資家層の広がりです。日頃から地道にIRを継続しているのも投資家層の広がりを意識してのことです。

 

川村氏
川村氏

 

 ――森ビルの街づくりに、グリーンボンドはフィットすると。

 

 瀬川氏:われわれが進めてきた街づくりと、グリーンボンドには、親和性が高いというところがあると思います。グリーンボンドは、そこをうまくアピールできる商品かなと思っています。その意味で広い投資家にアピールすることができたと思います。われわれが脈々と受け継いでいる森ビルのDNAである垂直緑園都市の実現であり、加えて、虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、街全体で「RE100(Renewable Energy 100%)」に対応する再生可能エネルギーの電力を100%供給し、「WELL認証」や「LEED-ND認証」の取得も目指しています。

 

 虎ノ門・麻布台プロジェクトでは、全体で8haのエリアのうち、2.4ha分を緑化します。屋上緑化も含めてです。まさにグリーンボンドの資金使途としては最適ではないかと考えています。グリーンボンドを発行するにあたって、われわれが工夫したというよりも、まさにプロジェクトそのものがグリーンなのです。同ボンドを発行することで、虎ノ門・麻布台プロジェクトがグリーン&ウェルネスとして進めているプロジェクトであることを、より多くの方に知ってもらう機会になったと考えています。

 


――同プロジェクトの竣工は2023年ということです。そうすると、来年もグリーンボンドを出すことになりそうですか。

 

 川村氏:検討対象にはなると思います。

 

――建設・不動産分野にもTCFD等のESG情報開示が求められる時代です。気候変動対応ではどのように対応されていますか。

 

 瀬川氏:TCFD等については、今、社内で議論をしています。不動産業にもかなり浸透し始めたということは認識しています。現在、検討中という段階です。気候変動問題とともに、われわれが重視しているのは、都市の機能の維持です。元々、六本木ヒルズを作った時に、きっかけになったのは阪神淡路大震災ですが、「都市の弱さ」を、何とかして克服しなけれならないということで、六本木ヒルズにコジェネシステムを導入しました。

 

瀬川氏㊧と川村氏㊨
瀬川氏㊧と川村氏㊨

 

  電力は災害で途絶える可能性があるためです。コジェネにより、ガスで電力を作り、昼間はオフィスの需要を、夜は住宅の需要に供給することで非常に効率のいいシステムができました。それは、街として電力が途切れないようにするというのがスタートでした。実際、東日本大震災の際も、計画停電下でも、六本木ヒルズは電気を止めることなく、むしろ発電した電力を東京電力に供給したりしました。われわれとしては、街づくりにとって何が一番大事かを常に考えているつもりです。

 

――街の中でエネルギーが循環できる仕組みですね。

 

 瀬川氏:そうですね。われわれとしてはそういう街づくりに沿って何が一番求められるかを常に求めています。今はそこに、新たに「カーボンニュートラル」という目標が加わってきました。今後の街づくりに、それをどういう風に織り込んでいくかが求められていると受け止めています。なかなか現状の街の中に、新たに再エネ発電所を入れるというのは現実的には難しいので、街がどのようにして再エネを使えるような仕組みに変われるか、ということに取り組んでいます。

 

                            (聞き手は 藤井良広)