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政府発表の「放射線リスクコミュニケーション政策」 安全神話の押し付けの懸念 まず帰還ありき 子どもや個人の感受性無視 国民への情報操作優先の疑い (FOE)

2014-02-19 17:10:37

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rskinformationimg_1402192月18日、復興庁など関連省庁は、「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」 (※1)を発表。早期帰還促進に向け、住民の放射能に対する不安をやわらげるため、きめ細かな情報発信を図っていくとしました。このため、2014年度予算案に数十億円を計上しています。
また、あわせて、リスク・コミュニケーションを行う際のツールとして、「放射線に関する最新の知見をわかりやすく盛り込んだ」とする「放射線リスクに対する基礎的情報」を発表しました。

 
しかし、この「施策パッケージ」および「放射線リスクに対する基礎的情報」には下記のように大きな問題があります。


 

1.「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」

①「帰還」を前提としたものであることはおかしい。避難し続ける選択肢も尊重されるべきであり、どちらを選択しても、住民への経済的・社会的支援が保障されるべき 。(※2)

 

②「不安払しょく」を目的としている情報発信が主体。放射線リスクに不確実性が伴うことが国際的な通説であるのに、低線量被ばくのリスクはない、もしくは気にする必要がないという考え方を押しつけていることは問題である。

 

③被ばく管理の責任を個人に負わせるべきではない。「個人線量計」配布自体は有意義であるが、そのことにより「帰還」を促進すべきではない。個人の行動は千差万別であり、放射線に対する感受性もさまざまであることに留意すべきである。

 

「場の線量」は依然として重要であり、「場の線量」が下がるまで帰還を促進すべきではない。国連人権理事会の特別報告者アナンド・グローバー氏は、「「健康に対する負の影響の可能性に鑑みて、避難者は可能な限り、年1mSvを下回ってから帰還が推奨されるべき。避難者が、帰還するか留まるか自ら判断できるように、政府は賠償および支援を供与し続けるべきである」(※3) という勧告を行っているが、これを重く受け止めるべき。

 
  2.冊子「放射線リスクに対する基礎的情報」

 
①以下を含む、放射線被ばくのリスクに関する多くの重要な情報が記載されていない、もしくは無視されている。

・子どもの放射線の感受性の高さ。

・個人により感受性が違うこと。

・従来の放射線防護の政策と規制。例えば、放射線管理区域(3か月で1.3mSv)における規制の内容とその意味。

 

②放射線リスクを示唆する情報が、掲載されていない。

たとえば、p.10でWHOの「2011年東日本大震災後の原発事故に関する予備的被ばく線量推計に基づく健康リスクアセスメント」を紹介しているが、同報告において、「最も汚染が高い地域」「その次に汚染が高い地域」における癌のリスク増加を数値評価しているが、これについてはまったく触れていない 。(※4)

 

③根拠が公開されていないUNSCEARレポートを前面に出している。

2013年10年に国連に提出されたUNSCEARレポートの「将来にも被ばくによる健康影響の増加が認められる見込みはない」とする結論のみが紹介されているが、このレポートの根拠となるデータは公開されていない 。(※5)

 

④医療被ばくとの比較、生活習慣や飲酒などとのがんリスクと比較しているが、非常にミスリーディングである。そもそも個人でコントロールできる習慣と、現在、住民が置かれている、個人には何のメリットも生み出さない、強いられた被ばくを比較することはおかしい。

 

⑤チェルノブイリ原発事故の影響については、小児甲状腺癌の影響以外について、UNSCEARやIAEAは「放射線被曝を起因とする公衆衛生上の大きな影響があったという証拠はない」としているが、基本的にはこの見解を単純化してくれかえしている。

しかし、UNSCEAR等のこの見解に対しては、ベラルーシとウクライナからは、「UNSCAERは当事国の科学者のロシア語やウクライナ語による膨大な報告を無視したり、解釈を歪曲したりしている」というUNSCEARの報告書に対する強い批判がなされた 。(※6)

チェルノブイリ原発事故後、甲状腺がん以外にも、甲状腺機能低下、白内障、心臓や血管の疾患、免疫・内分泌の障害、糖尿病など、子どもたちの疾患が増加し、現場の医師たちから警告の声が発し、またウクライナ政府が公式に報告書を発表するなど、多くの研究や報告がある。

 

本冊子ではこのような状況をまったく無視している。


 

3.結論

政府は、被ばくリスクに関する安全神話を押し付けるべきではなく、現在、避難を継続している住民の方々および帰還を選択された住民双方に対して、「原発事故・子ども被災者支援法」に基づく十分な支援を行うべきである。
以 上

 

※1)復興庁 帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ(2014年2月18日発表)

※2)現在のところ、避難区域解除後、一定期間後に賠償は打ち切られ、避難継続への支援は主として帰還困難区域のみなど限定的である。

※3) 「到達可能な最高水準の身体、及び精神の健康を享受する権利に関する調査報告書」(2013年5月、国連人権理事会に報告)

※4)最も汚染が高い地域」で固形ガン全体では小児期に被曝した女性ではリスクが約4%増加、「次に汚染が高い地域」ではリスク増加はその半分等と評価している。

※5)国連科学委員会(UNSCEAR)に対する声明(2013年10月24 日):「日本の市民社会は、国連科学委員会の福島報告の見直しを求める」ヒューマンライツ・ナウ、 FoE Japan など。 http://hrn.or.jp/activity/topic/post-235/

※6)吉田由布子「チェルノブイリの文献紹介と解説~『チェルノブイリ-今も続く惨事』(国連人道問題調整事務所、2000年)~」 2014 年 1 月「『市民研通信』 第 22 号」

 

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