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東電賠償負担で各案浮上。スーパーファンド型、電力分担型、新旧分離型など(FGW)

2011-04-13 17:38:07

東京電力福島第一原子力発電所の制御は依然、難航しているが、被害の長期化による損害賠償問題が各方面で論じられている。FGWでも論点を整理してみた。

原子力事業者による損害賠償を定めている原子力損害賠償法(原賠法)では、通常の商業規模の原子炉の場合の賠償額は1200億円となっている。この賠償額を超える損害が生じ、原子力事業者が自らの財力では全額賠償できない等の事態が生じた場合、国が原子力事業者に必要な援助を行い、被害者救済に支障が生じないようにするとしている。視点は被害者救済である。

また同法の例外規定によると、「異常に巨大な天災や社会的動乱」が原因の場合は、例外扱いとして電力会社の代わりに国が賠償する規定がある。ただ、政府は今回の事故後、この規定は「隕石(いんせき)の落下や戦争などを想定したもの」(文部科学省幹部)であり、今回のケースには当てはまらないとしている。



 

こうした法律の想定や例外規定についての政府見解から判断すると、東電が「目いっぱい負担」をした後、負担しきれない分は国が被害者救済の視点で対応するという風に読むのが妥当だろう。東電の目いっぱいの負担とは、自己資本(約2兆5  000億円)をすべて吐き出して対応する(つまり東電を整理する)ことを意味する。それでも足りない被害者への賠償金について、一つの案として米国で1980年に土壌汚染対策で設立されたスーパーファンド法のような、特別の基金を設置、そこが被害者救済を行う方式が浮上している。

 

ファンド方式は被害者救済を優先する案だが、その救済資金が、東電の資産を活用しても足りない場合の補填問題が生じる。全額、国が負担するのか、他の電力会社の共同負担とするのか、あるいは電力以外の経済界全体で負担するのか、という選択が出てくる。米スーパーファンド法は原因者負担を原則としつつ、原因者が破たん等で資力がない場合は、石油消費税、化学原料消費税など、汚染に関連のある企業からの税金徴収とした。

 

電力の場合、負担者イコール受益者と考えて、国民全体とみると全額税負担となる。そうではなく発電事業の恩恵をもっとも受けてきた企業中心だとみると、経済界からの税徴収案が出てくる。いや、電力業界全体の共同責任とみれば、各電力での分担案となる。いずれの案の前提にも、東電を会社整理して目いっぱい賠償をした残りの不足分を、どう分担するかの議論である。

 負担の論点は、賠償額だけではない。東電は廃炉コストを背負っている。FGWの試算では、福島第一原発だけで7兆円規模、同原発から10kmほどしか離れていない第二原発についても、チェルノブイリ型の立ち入り禁止区域を設定するとすると、20~30年間、操業停止となることから、廃炉の可能性も出てくる。その場合は、10兆円規模に膨らむ。この費用も東電はカバーしきれない可能性が強い。そうなると、その場合も、税金負担か、業界負担か等の議論が必要だ。http://financegreenwatch.org/jp/?p=881

 

一方で、仮に東電を破たん整理したとしても、首都圏を中心とする電力供給サービスを止めてしまうわけにはいかない。新旧東電分離案は、こうした東電の持つ公益サービスの持続性を担保するために論じられている。負担となる賠償責任については旧東電が一貫して責任を負うことにし、電力サービスを提供する公益性と収益性の高い事業については、新東電に必要設備や人材を移管して、サービス提供を続けるというものだ。水俣病を引き起こしたチッソが、今年初めに、賠償金支払いのための旧チッソと、新規事業に専念する新会社(JNC)とに分離して再スタートした経緯にならって、「チッソ方式」と呼ぶ。

 

 首都圏への電力サービスの提供のためには、従来のように東電に限定する必要がないかもしれない。東北電力あるいは中部電力に事業拡大してもらい、東電整理後に国が抱える発電設備を、希望の電力会社に入札で売却することも考えられる。あるいはこの競争入札には、電力事業に新規参入したい他の企業や外資も想定される。一番札の企業に落札させることで、東電だけではまかないきれない賠償、費用負担分を減額できる。

 そういう方向に展開すると、単に東電の処理に留まらず、日本の電力事業全体の改革を視野に入れる必要が出てくるだろう。今回の事故は、長く続いた9電力の独占体制がもたらした弊害も背景には存在する。時代はそうした旧体制全体の転換を求めているともいえる。