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福島原発事故東電最終報告 自己弁護に被災者憤り(河北新報)

2012-06-21 07:45:18

報告書会見中に答弁で相談する東電の山崎雅男副社長と、石田昌幸原子力品質監査部長=朝日新聞から転載
 

報告書会見中に答弁で相談する東電の山崎雅男副社長と、石田昌幸原子力品質監査部長=朝日新聞から転載


 大掛かりな自己弁護の場だったのか。東京電力が20日に報告書をまとめた福島第1原発事故の社内調査。事故原因は巨大津波にかぶせ、国の対策指示もなかったと言い張る。責任回避とも受け取れる姿勢に、古里を放射能に汚された福島県の被災者は怒りを向けた。
 「正当性を主張しているだけ。国や自然災害のせいにし、とんでもない話だ」。原発事故で避難区域に指定された福島県浪江町の馬場有町長は不快感を示した。役場機能は福島県二本松市に移り、町民は45都道府県に避難している。

 町は原発でトラブルが発生したら連絡を受ける協定を東電と結んでいたが、事故当日、町に連絡はなかった。
 報告書は「連絡を試みたが、結果として連絡が取れなかった」と釈明。「オフサイトセンターが機能しなかった」「当社からの連絡方法を決めておくだけでは限界がある」と、責任転嫁の印象を与える記述もある。

 馬場町長は「ファクス、電話が通じないなら歩いてでも連絡に来るべきだ」と切り捨てた。

 二本松市の仮設住宅に避難する同町の無職渡部幸江さん(71)は原発の立地する双葉、大熊両町には連絡があったことを挙げ、「なぜ浪江だけに知らせなかったのか。謝罪も補償もない。報告書でも反省がなく、許せない」と憤る。

 報告書は資料と合わせて約1100ページ。概要版も70ページと分厚い。

 「賠償請求の分厚い説明書と同じ。長々と書き連ね、本質をぼかして逃げ道をつくる。いかにも東電流だ」と語るのは、旧警戒区域の田村市都路地区でペンションを経営していた呑田理美子さん(70)。営業再開できる日が来るのを信じ、約30キロ離れた避難先から開店準備に毎日通う。

 「報告書はわれわれが事故以来、厳しい生活環境で暮らさなければならなくなったことに触れておらず、大事故を起こした自覚がない」。井戸川克隆双葉町長は仮役場のある埼玉県加須市でそう批判した。

◎「なぜ」の発想皆無/甘い想定への検証不十分

 東京電力が20日に公表した社内事故調査委員会の最終報告書は、津波想定の甘さを事故の原因と認定したが、甘い想定で原発を動かし続けた理由や背景にはほとんど触れなかった。事故に至った経緯を十分に検証しないまま調査を終えては、福島県民をはじめ国民の理解を得られない。

 事故後の情報提供の在り方をめぐる問題でも、報告書は安全協定を結ぶ福島県浪江町に通報しなかったことに関し、「通信手段が不調で連絡が取れなかった」と説明する。だが、連絡役の社員を2日間派遣しなかった理由の言及はなかった。

 報告書は「想定を超える津波は発想できなかった。津波への備えが至らず事故を防げなかった」と認めたが、「なぜ、発想できなかったか」には踏み込んでいない。

 東電は、津波を含めた原発の安全対策は国の指針や基準に沿っていたとの立場で、「そのときどきの状況でできることはやった」と強調する。

 原子炉等規制法のなど下、「原発の運転は箸の上げ下ろしまで国に報告する」(東電関係者)といった実態はあったにせよ、国の安全審査指針などの策定には、東電を中心に電力会社が深く関与してきた。

 原発の安全確保に事業者の論理を持ち込んでおきながら、事故で明らかになった安全対策の不備をすべて国に責任転嫁しているように映る。

 事故前の安全対策と事故後の対応がどういう判断でなされたか。その背景にはどんな考えがあったのか。十分な分析をしない最終報告書は東電が依然、失敗の本質を理解していないことを浮き彫りにした。(解説=報道部・末永智弘)

http://www.kahoku.co.jp/news/2012/06/20120621t61017.htm