安倍元首相暗殺事件:ドイツメディアの分析。犯人を蝕んだ「日本社会の同調圧力と自己責任論」。「元首相を殺したのは、日本人の社会への関心の弱さ、弱者への救済の少なさだ」(各紙)
2022-07-18 02:11:56

この点については日本のメディアでも同様の動機を掲載している。ハン記者の視点は、何が彼をそのような行動にかき立てたのか、という問題提起から発する。そのうえで「彼が殺人犯になったのは、その不安定な人生がどうなるのか、誰も疑問にせず、気にかけなかったからだ」と推察している。
記事では山上容疑者の行動を「(社会の)制度に馴染めず、挫折した独身男性が、その不満をどうしたらいいかわからず、他人を攻撃する」という近年相次ぐ殺傷事件と類似するとしている。2016年の相模原障害者施設殺傷事件、2019年の京都アニメーション放火殺人事件、2021年の京王線殺傷事件などがその例だ。この点も日本のメディアでも報じられている。
日本のメディアは、そうした過去の事件との類似性を指摘するが、同紙はさらに一歩踏み込んで、このような事件を引き起こす根底にあるのは、日本の社会のなかで、孤立してしまう人がおり、彼らを救済する仕組みがあまりないことだ、と見る。この点は、国内メディアではあまり指摘されない点である。民主主義と人権意識が強調される欧州の視点との基本的な違いともいえる。同紙は別の記事で次のようにも指摘している。
「集団社会である日本では、皆が社会に奉仕する自分の仕事をすることで、全体がうまくいき、誰も邪魔をしない。そこでは比較的、スムーズに生活ができる。だが、人と違ったり、成功しなかったり、ルールやヒエラルキーに適応できない人は、このシステムのなかですぐ孤立する。個人的な苦労や悩みを相談できる場もあまりない」
実家が破産していた山上容疑者は、壮絶な人生を過ごしたことが想像できる。職も転々としていたことから社会にうまく馴染めていなかったようだが、フォークリフトの運転手として働いた最後の職場でも、人と違う考え方をし、違うやり方に固執していたとされる。
宗教に傾倒したという山上容疑者の母親についても、「夫を失い、建設会社を継ぎ、3人の子供を養わなければならなかった。一人で働く親への支援が少ない社会の中で、彼女は明らかに何らかの支援を求めていたのだろう」とみている。統一教会に惹かれた背景には孤独があったはずだ、と。
「我慢するように育てられる日本人は、生計を立てるために多くを我慢して暮らし、不満を言わない。しかし、ある一線を超えると人々は非常に感情的になる」と記事は指摘する。「その孤独のなかで破壊的な計画を立てる者もいるかもしれない」。孤立し、我慢続きだった山上容疑者は、破壊的衝動を次第に高めていったに違いない、と。
7月8日、奈良で応援演説中に殺害される直前の安倍元首相 Photo by TAKENOBU NAKAJIMA via REUTERS
記事は、日本は多くの美しさを持つ一方、狭苦しくてモノトーンで、「都市は商業に支配され、無表情だ」とも書いている。都市は「同じような家屋に埋め尽くされ、集団社会による全体の構造への同調圧力があり、問題は自分と家族で解決することが期待される」
無機質な中で、人の助けも充分には得られない都会。そこでは人と同じようにやることが求められ、一方でシステムから外れて問題を抱えると、自分達で解決しなくてはならず、困窮しがちなのだ。