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自衛隊の軍事訓練を受けたミャンマー軍人が、少数民族地域での人権侵害活動に関与の疑い。ミャンマー国軍の残虐行為に日本政府が加担する形。ヒューマン・ライツ・ウォッチが指摘(RIEF)

2022-08-16 00:02:09

MYanmar002キャプチャ

 

 人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチは、日本の陸上自衛隊で軍事訓練を受けたミャンマー陸軍の准将が、少数民族地域で深刻な人権侵害に関与したとされる司令部に所属していたことを明らかにした。同団体は日本政府に対して、「ミャンマー国軍の軍事訓練を直ちに止め、訓練参加者が国軍による戦時国際法違反に関与しているかどうかを調査すべき」と要請した。

 

 自衛隊の訓練を受けていたのはティン・ソウ准将。同団体によると、全国防衛協会連合会と防衛省の資料から、当時大佐だった同氏は2016年8月から2017年3月の間に陸上自衛隊幹部学校で訓練を受けた。また、関係筋やミャンマーの国営メディアによると、同氏は2019年から2021年に在日ミャンマー大使館で武官を務めている。

 

 同氏は2021年2月1日の軍事クーデター後、日本からミャンマーに帰国して准将に昇進。その後、2021年8月から今年7月まで、シャン州南部やカレンニー州(カヤ州)での軍事活動を管轄する東部陸軍司令部(Eastern Command)に所属した。同司令部が管轄する部隊は、市民の虐殺などに関与した、とされる。同氏は7月にはミャンマー首都ネピドーに異動したという。

 

国軍に抗議する住民たち
国軍に抗議する住民たち

 

 同氏が所属した東部陸軍司令部は、14の地域軍司令部の1つ。クーデター以降戦闘が激しくなっているシャン州南部やカレンニー州で活動する40以上の歩兵大隊を指揮している。2021年5月以降、国軍は同地域での軍事活動を活発化。国連や人権団体、独立系メディア等によると、東部陸軍司令部の指揮下の部隊による超法規殺人、拷問、恣意的逮捕、略奪、放火、市民を標的にした軍事作戦や無差別攻撃、地雷の使用等が記録されている。

 

 同団体によると、ミャンマーの治安部隊は、2021年12月24日にカレンニー州Hpruso郡で4人の子どもと国際支援団体セーブ・ザ・チルドレンのスタッフ2人を含む39人を即決処刑した。同団体に証言した目撃者らによると、被害者らは縛られ、口を塞がれ、拷問や生きたまま燃やされた痕跡があった。「私が経験した中で、最高レベルにショッキングで気の滅入ることだ」と被害者の死亡解剖を行った医者は語った、としている。

 

 EUは今年2月、戦争犯罪の疑いから東部陸軍司令部の司令官で、ティン・ソウ氏の上司でもあるNi Lin Aung准将に対して、「カヤー州にいる部隊を直接的に指揮しており、虐殺をした部隊も含まれる」ため制裁を科した。EUは同司令部を指揮する第二特殊作戦局の司令官のAung Zaw Aye中将にも制裁を科している。

 

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 こうした状況から、ヒューマン・ライツ・ウォッチは日本政府に対して、「ミャンマー国軍の軍事訓練を直ちに止め、他の訓練参加者が国軍による戦時国際法違反に関与しているか調査すべきだ」と要請した。同団体のアジア局プログラム・オフィサーの笠井哲平氏は「日本で軍事訓練を受けたミャンマーの軍人らは、国軍による人権侵害が著しい紛争地域で軍事活動を行っている。日本政府は火遊びを止めて、直ちにミャンマー国軍の支援を停止すべきだ」と指摘している。

 

 東部陸軍司令部の指揮下にある第531軽歩兵大隊は、2021年12月24日の虐殺に関与したとされる。同第66軽歩兵大隊も関与したとされており、同隊の司令官は国際人権団体アムネスティ・インターナショナルに対し、カレンニー州すべての地上作戦は東部陸軍司令部の管轄にあると証言したとしている。

 

 これ以外にも、アムネスティ・インターナショナルは今年5月、東部陸軍司令部が管轄する軍事作戦で、「違法な攻撃、村の焼き討ち、略奪、強制失踪、拷問や他の虐待、そしてカレンニー族の迫害」などがあったと報告している。カレンニー州の人権団体カレンニー・ヒューマン・ライツ・グループによると、2021年6月以降、国軍が敷設した地雷により少なくとも20人が殺害あるいは重傷を負った。

 

 シャン人権基金も今年5月に、東部陸軍司令部の指揮下にある4つの歩兵大隊がシャン州南部Ywangan郡での人権侵害に関与していることを報告。この中には、4月半ばに起きた9人の村人の殺害事件も含んでいる。

 

 日本政府は2015年以降、外国籍の軍人の教育や訓練を認める自衛隊法第100条の2の規定に基づき、ミャンマー国軍の士官候補生及び士官を受け入れてきた。訓練は防衛大臣の承認の上、防衛省管轄の防衛大学校や自衛隊施設で実施されている。防衛省は2021年のクーデター後、2名の士官候補生と2名の士官を受け入れ、2022年には、再度2名の士官候補生と2名の士官を受け入れたとしている。

 

 自衛隊での軍事訓練にはティン・ソウ氏以外にも、ミャンマー空軍のラン・モウ中佐が参加している。同氏は、マグウェイ地域で住民を巻き込んだ無差別空爆の可能性のある攻撃に関与したとされるマグウェイ空軍基地に所属していた。同軍は同地域で即刻処刑、放火や他の人権侵害を犯したと批判されている。

 

 ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでも、2021年12月に、日本の自衛隊でのミャンマー軍人に対する軍事訓練の継続は、結果的にミャンマー国軍の残虐行為に日本政府が加担する危険性があるとして、軍事訓練の停止を防衛省に要求している。

 

 2022年4月26日の衆院安全保障委員会で防衛省の担当者は「(軍事訓練参加者が帰国後)今どういうポストについているか」に関して「一定程度把握をしている」としたうえで、「相手国との関係」を理由に詳細の開示を拒んだ。しかし、岸信夫防衛相は、6月22日に開いたASEAN防衛相会合で、自衛隊で訓練したミャンマー軍の幹部が「帰国後に市民への弾圧に加担するようであれば、受け入れの継続は困難になる」との認識を示した。

 

 ミャンマー国軍は数十年にわたって、民族武装集団との間で武力紛争を続け、その中で戦争犯罪や、ラカイン州の少数民族ロヒンギャへの人道に対する罪、大量虐殺に当たる行為を犯してきた。クーデター発生以来、日本政府は暴力行為の停止と、アウンサンスーチー氏ら民政高官の釈放を求めている。

 

 防衛省も2021年3月28日、山崎幸二統合幕僚長の名で11カ国との共同声明で、ミャンマー国軍による「非武装の民間人」への軍事力の行使を非難した。日本政府は2021年初頭に、人道支援以外の政府開発援助(ODA)の新規計画を中断する一方で、既存の援助計画の継続は認めている。ミャンマー国軍への軍事訓練も継続されている。

 

 ヒューマン・ライツ・ウォッチの笠井氏は「日本政府によるミャンマー国軍の訓練が続く限り、日本政府の国際的な評判を下げるとともに、ミャンマーの人びとの命を危険に晒すことになる。人権外交を掲げる国として認識されたいのであれば、国軍と防衛関係を断ちミャンマーの人びとの人権のために行動すべきだ」と指摘している。

https://www.hrw.org/ja/news/2022/08/10/myanmar-japan-trained-general-linked-abusive-forces