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英ロンドン、排ガス規制に適合しない自動車への通行料(ULEZ)適用拡大で、ロンドン市民反発。抗議行動も。物価高騰下では「環境にいい政策」も支持されない格好(RIEF)

2023-08-31 14:33:54

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写真は、ロンドン市内で表示されている「ULEZ」の交通標識=This is Moneyサイトより)

 

 英ロンドンで、大気汚染改善のために排ガス基準に適合しない自動車に通行料を課す「超低排出ゾーン(ULEZ)」の適用範囲が拡大され、ロンドン市民の反発が高まっている。英各紙が伝えるところによると、同規制は窒素酸化物(NOX)や粒子状物質(PM)等の汚染物質の排出量が多いガソリン車やディーゼル車の同市内での走行について1日当たり12.5ポンド(約2300円)を通行料として課す内容。制度は2019年に導入されており、今回は適用範囲を周辺部に拡大したもので、対象車は倍以上に増えた。このため、物価高騰の中での負担増に直面するロンドンっ子の反発が高まった形だ。

 

 ULEZは保守党のジョンソン元首相が同市長時代に提唱したアイデアを、後任の市長に就任した労働党の現職市長カーン氏が19年に導入した。ロンドン市内ではすでに渋滞税(CC)が導入されており、当初は同じ市内の中心エリアに乗り入れる自動車に対しての上乗せ規制とした。その後、2021年10月に、対象範囲を市内の外環を走る北環状道路と南管状道路の内側エリア全体に拡大、さらに今回、その外側の「ボロー」と呼ぶ郊外の自治区に広げた。

 

今回拡大されたのは「薄緑」の地区
今回拡大されたのは「薄緑」の地区

 

 その結果、ULEZの対象地区の人口はそれまでの400万人から倍以上の900万人に膨れ上がった。特に、郊外の住民は公共交通機関を利用しにくく、自動車での通勤、移動をする人が多い。このため日常生活への影響も大きいことから、不満が爆発した格好となった。規制が始まった29日には、市内中心部の首相官邸や中央官庁が並ぶロンドンのホワイトホールで市民らによる抗議活動が行われたほか、新たに規制対象となった周辺部ではナンバープレートを読み取るカメラの損壊が相次いだと報道されている。

 

 電気自動車(EV)等の電動車はCO2を排出しないだけでなく、化石燃料を使わないので、NOXもPMも出さない。このためULEZの対象外だ。政策的にはULEZはEV乗り換え推進策ともいえる。対象外となるのは、ガソリン車の場合、欧州排出ガス規制のユーロ4に、ディーゼル車の場合はユーロ6に適合する性能である必要がある。ULEZは1日24時間、1年365日適用され、自動車だけでなく、オートバイ、商用車、その他の特殊車両、ゾーン内に居住している自動車保有者をすべて対象とする。

 

 ただし、エリア内でも、駐車状態にあり、一日中運転しない場合は、支払いが免除される。料金の12.5ポンドは、従来の渋滞税に上乗せされる。渋滞税は、ULEZとは適用時間帯が異なり、クリスマスを除いて毎日午前7時から午後10時の間に適用され、1日15ポンド(約2400円)を支払わねばならない。

 

ロンドン市内を走る自動車は、渋滞税とULEZの両方を支払わねばならない
ロンドン市内を走る自動車は、渋滞税(上の標識)とULEZの通行料(下)の両方を支払わねばならない

 

 試算によると、指定の排出ガス規制に適合していない自動車の場合、平日のロンドン市内を通勤通学等で移動すると、渋滞税とULEZ料金を合わせて年間約5760ポンド(約92万5000円)を支払わねばならない可能性があるとしている。ULEZ料金を課せられた場合、翌日の夕方までに支払わないと、対象者はペナルティを課せられる。

 

 今回、ロンドン市内で対象地域を拡大したが、英国の他の都市も同制度導入で追随する方針とされる。バーミンガム、エディンバラ、マンチェスター、オックスフォードなどの主要都市が予定しているという。

 

 ロンドン市当局は、同制度導入の効果として、19年の導入以来、市内全体でのNOX濃度は23%削減されたとする。ヨーク大学の分析でも、渋滞税とその後の大気汚染政策で、ロンドン市民の長期的な健康状態の確率は22.5%改善し、他の健康状態も29.8%、病気による欠勤も17.7 %、それぞれ減ったとの分析をしている。こうした健康改善効果により、同市の交通局は、NHS(国民医療サービス)の社会コストは50億ポンド改善したとする。もしこうした対策を取らなかった場合、大気汚染による健康、社会的コストは現在より104億ポンド増えていたとしている。

 

 ロンドン市当局は、同制度の導入に合わせて、自動車の買い替え促進を支援するため、今年1月30日から、交通局が新しい廃車支援制度(スクラップ・スキーム)を稼働している。排出ガス規制に満たないクルマを廃車するか、規制を満たすように改造するための補助金制度も始めている。

 

 同制度では低所得者や障害者向け給付金を受給しているドライバーを対象に、最大5000ポンド(約80万円)を支給する。一般車の場合は最大2000ポンド(約32万円)、バイクの場合は廃車に限り最大1000ポンド(約16万円)が支給される。商用車やミニバスも対象で、ロンドンに拠点を置く個人事業主、登録慈善団体、零細企業(従業員10人以下)には、5000ポンドから9500ポンド(約152万円)の補助金が支払われる。

 

 こうしたULEZのマクロ的な社会的・健康的効果や、自動車買い替え特例の提供等にもかかわらず、対象拡大地域の住民らが反発したのは、物価高騰の中での追加負担である点だ。新たに適用対象となる地区では、現在、保有される自動車の約1割が制度の対象となり、家計への追加負担となるほか、限られた公共交通機関への乗り換え等による道路や交通機関の混雑、コスト増等が家計を直撃することになる。

 

 家計への「環境・エネルギー」分野での増税に市民、国民が強く反発する例としては、近年では、2018年後半から、フランス政府が導入を予定した燃料税に反発した地方の自動車保有の農家や住民たちが、各地の道路を閉鎖するなどの抗議行動を展開し、大きな騒ぎとなった「イエローベスト運動」が知られる。日本政府が立ち上げたGX政策でも石油・ガス税の引き上げが想定されている。https://rief-jp.org/ct4/84694?ctid=

https://www.thisismoney.co.uk/money/cars/article-10577263/Sadiq-Khan-unveils-plan-expand-Ultra-Low-Emission-Zone-London.html

https://www.theguardian.com/environment/2023/aug/27/london-ulez-residents-offered-100-a-month-for-use-of-parking-spaces-to-avoid-fee

 

 

https://www.autocar.jp/post/903077