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環境NGOのWWF。世界の水と淡水生態系の経済価値、年間58兆㌦(約8687兆円)と推計。日本のGDPの15倍。生活や産業利用の直接的価値より、水と淡水生態系の間接的価値が7倍(RIEF)

2023-10-18 00:29:04

WWF004キャプチャ

 

   環境NGOのWWFは16日、世界食料デーに合わせて、水と淡水生態系の経済的価値を定量化した報告書を公表した。それによると、世界中の水と淡水生態系の経済的価値は、年間58兆㌦(約8687兆7000億円)と推計した。世界のGDPの約60%に相当する。このうち、家計や農業、エネルギー、産業等に使用される水の直接的価値は7.5兆㌦。一方、社会、経済、生態系を支える河川、湖沼、湿地帯等の自然プロセスによる間接的価値は、直接的価値の7倍の51兆㌦にのぼる。間接的価値を構成する湿地は過去50年間に3分の1消失するなど、危機に直面している。

 

 公表された報告書は「安価だけど高価な水 (High Cost of Cheap Water)」。分析では、水の価値ついて、①使用価値②未使用価値③オプション価値、に3分類した。このうち①について、直接的価値と間接的価値に分けて推計した。

 

 ①の直接的価値は、淡水エコシステムを活用して、生活の中で水を利用する消費や、農業、産業、レクリエーション、淡水漁業、水力発電等の異なる目的に利用する価値を指す。一方の間接的価値は、河川、湖沼、湿地帯、帯水層等によるエコシステムサービスを個人や社会が利用する価値とした。具体的には自然による水の浄化、洪水抑制効果、カーボン吸収、生物多様性保全、文化的かつ精神的価値等を含む。

 

 ②の未使用価値は、水や淡水エコシステムを直接・間接に使用するわけではないが、水や淡水エコシステムとして自然に存在することによる人間の精神健康上のベネフィットや、それらの水資源を将来世代に引き継ぐ価値等を含む。河川や湖沼、湿地、帯水層等が健全な形で存在することによる安心感等だ。③は、現在は未使用でも、将来の潜在的な水の使用を保全あるいは維持できるオプション価値、としている。②と③の価値については、今回の経済価値の推計値には含めていない。

 

WWFの推計による世界の水と淡水生態系の経済的価値
WWFの推計による世界の水と淡水生態系の経済的価値

 

 このうち①の直接的価値について、少なくとも年間7.5兆㌦と推計した。同価値は水の経済的価値全体の12%分。世界のGDPの7%を占める。このうちグローバルに取水される水の70%は農地の灌漑や牧草地の養生等での農業分野に利用され、灌漑用の水の経済的価値は3800億㌦。ただ、この推計値は、雨水や東南アジア等での自然灌漑農業等による水利用価値は含んでいない。気候変動が激化して、干害等が広がると、これらの非顕在の水価値不足が顕在化し、損害額が増大する可能性がある。

 

  製造業から鉱業までを含む産業の各工程で使用する水の量は年間6000億㎥。ほぼすべてのエネルギー生産において、水利用は重要な役割を果たしている。エネルギー部門は、農業に次ぐ水利用量が多い部門だ。グローバルベースでの産業全体の水の利用は年間5.1兆㌦で、直接的利用の約7割を占める。

 

 主な産業分野ごとの水利用の直接的価値は、水力発電が2200億㌦、淡水漁業180億㌦、レクリエーションとツーリズム2050億㌦、内陸水運190億㌦等。水利用は、生活に直結し、食料・エネルギーの安全保障につながり、あらゆる産業の基盤となり、経済成長、国際貿易を支えているわけだ。

 

 さらに水は人間の飲料水としての上水利用と、下水としての利用にも欠かせない。家計等が利用する水の供給のために自治体が提供する上下水道の市場価格は年5000億㌦に達し、それらへの公共の投資額は年1兆㌦。両方を合わせた自治体の水利用額は年間1.5兆㌦で、直接的価値全体の約2割と推計される。

 

水資源の保全を求める声が広がる
水資源の保全を求める声が広がる

 

 ②の間接的価値は、これら直接的価値の7倍も多い51兆㌦と推計した。淡水エコシステムは、栄養素の堆積・循環、 自然な水の浄化作用、農地の土壌の肥沃度の維持等に貢献している。これらを人工的な設備や製品で代替するには、年間27兆㌦もの膨大なコストを要するという。

 

 また水資源による温暖化防止効果も大きい。湿地や泥炭地はCO2の吸収源として重要な役割を果たしており、現状で年間2兆㌦分のCO2を吸収している。また泥炭地はグローバルベースで年間約0.37G㌧のCO2を吸収するが、そのうち10~15%は人為による開発ですでに荒廃し、逆に年間1.9G㌧以上のCO2排出源に転じているという。

 

 間接的価値のうち、生物多様性分野の価値は11兆㌦、内陸部の湿地帯や泥炭地を保全して洪水調整機能等を維持することによって、災害リスク軽減等による経済的効果は12兆㌦に達する。しかし現実は、湿地帯の開発等が進み、気候変動で干害も増大することから、 毎年、地球上の5500万人が干害で苦しみ、1970年~2019年の間では約65万人が同災害で死亡している。水リスク増大による損失は2050年までに5.6兆㌦に上るとみられている。

 

 報告書は、こうした膨大な価値を持ち、人類の生存、自然の保全に不可欠な水と淡水生態系だが、これまで、その価値が正しく把握されてこなかったために、急速に深刻な脅威にさらされている、と警告している。地球上の湿地は、森林伐採の3倍の速さで失われているほか、1970年以降の50年間で、全体の3分の1がすでに失われてしまった。同期間中に、淡水の自然に生きる魚類や両生爬虫類、哺乳類などの個体数は平均83%減少し、淡水種の1/3が絶滅の危機に直面している。

 

 水・淡水生態系の持続可能性が損なわれることで、すでに世界人口の半数が、月に一度は水不足に直面している。数十億人は安全な水を飲めず、下水を活用した清潔な衛生設備を利用できていない。さらに水不足、水資源確保の困難さから、世界の多くの地域で食糧不安が増大、現実化している。水をめぐる紛争もここ数年の間に増えている。

 

 水リスクは、農業や生活利用だけの課題ではない。企業、投資家、経済にとっても、差し迫った問題となり、その危機感は加速している。現状のペースで水と淡水生態系の保全や回復がなされなければ、2050年までに世界のGDPの最大46%が水リスクの高い地域からもたらされる可能性があるとしている。

https://wwfint.awsassets.panda.org/downloads/wwf_high-cost-of-cheap-water-report_web.pdf

https://www.wwf.or.jp/activities/lib/5442.html