EU理事会と欧州議会、レアアース等の重要鉱物の自給向上の「重要原料法案」で合意。年間消費量10%、リサイクル25%、製造40%を2030年までに達成。中国等への依存減少目指す（RIEF）
2023-11-15 22:13:29
（写真は、欧州議会で重要鉱物法案支持を表明するドイツ選出欧州議員のNicola Beer氏）
欧州議会は、EUの加盟国で構成するEU理事会との間で、リチウムやニッケル等の重要鉱物の域内自給率向上のための重要原料法（Critical Raw Materials Act）案について、2030年までに16種類の「戦略的重要鉱物」を対象とし、年間消費量の10%を域内で採掘、25%をリサイクル、40％を製造する目標を設定することで合意した。またどの重要原料についても65%以上を単一の第三国（主に中国を想定）の供給に依存することのないようにする。レアアース（希土類）等の自給率向上で、中国への依存率を減少させることを目指す。
重要原料法案は欧州委員会が3月に提案していた。欧州議会とEU理事会が原則合意したことで、法案は12月7日に予定される欧州議会の産業研究エネルギー委員会（ITRE）で採決されることで成立し、24年初めにも施行される見通しだ。
対象となる重要原料は、脱炭素のグリーン事業や、デジタル、防衛、宇宙産業等の重要分野での技術開発に使用するものを「戦略的重要原材料」と位置づけ、EU域内での自給率を高める。主な鉱物として、アルミニウム、コバルト、銅、ガリウム、ニッケル、リチウム、マグネシウム、マンガン、磁石用レアアース等をリスト化している。
このうち、電気自動車（EV）の主要材料であるグラファイト（黒鉛）については、中国が12月1日から輸出許可制への移行を予定している。欧州委の原案では、天然黒鉛は対象リストに盛り込んでいたが、EU理事会と欧州議会の協議では、人造黒鉛についても対象に加えることで合意した。中国はグローバルなグラファイト市場の90%以上を占めている。
レアアースは風力発電のモーター等の主要部品に使われるほか、リチウムやコバルト、ニッケル等は蓄電池製造に不可欠となっている。またシリコンは半導体製造に使用される。脱炭素事業、DX等の事業転換に需要が増大しており、リチウムだけでも、EUでは2030年までに現状より12倍、2050年までに21倍の年間需要が増大するとみられている。風力発電やEV等に使われるレアアースへの需要も同様に2030年までに6倍、50年までに6～7倍増と想定されている。
こうした需要増が見込まれる一方で、現在の重要鉱物の生産国は、コバルトの63%はアフリカのコンゴ民主共和国で、60％は中国で精錬されている。EUで消費されるマグネシウムの97%は中国が供給し、EVやモーター等に使用されるパーマネントマグネットのグローバル消費量の100%は中国製等、重要鉱物の多くを海外、特に中国に依存している（日本も同様）。
EU域内での重要鉱物の自給率向上のため、必要な各重要原材料について「戦略的プロジェクト」を選定して、開発に必要な行政手続きを迅速化するほか、対象事業への資金調達支援などを実施する。採掘の許認可期間の短縮では27カ月以内、加工やリサイクルの場合は15カ月以内に手続きを終えられるようにする。また、加盟国同士で必要な重金属の備蓄や在庫調整で協力する枠組みを設け、共同購入の仕組みも想定している。
ただ、こうした「自給率向上」の目標設定の一方で、実際に目標を達成できるかどうかには疑問の声も多い。EU域内での重要鉱物自体の生産に限界があるほか、生産地が増えたとしても開発コスト等で安い中国産に対抗できないとの懸念もある。このため、域内でのリサイクル率を原案の15%から25％に引き上げ、再生化を同時に促進する。
欧州委の域内市場担当の欧州委員であるティエリー・ブレトン（Thierry Breton : 仏）氏は「行動を伴わないと、EUは供給不足と望まない他国への依存というリスクにされされる。新たな法律は、最も高い環境と社会的基準に基づくもので、欧州委員会はEU各国と連携して、より効率的な開発手続き許可を進め、開発資金へのアクセスも緩和し、より短期的なベネフィットを得られる戦略的な開発プロジェクトを特定していく」と述べている。日本政府も参考にするべきではないか。
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_1661
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/fs_23_1663
Research Institute for Environmental Finance