「持続可能な再生航空燃料（SAF）」100%で、英ヴァージン・アトランテック航空が大型旅客機ボーイング787で大西洋横断飛行に成功。SAFの実用性を立証。高コスト削減が課題（RIEF）
2023-11-29 19:15:16
英ヴァージン・アトランティック航空は28日、同社の運航するボーイング787型機がバイオ原料から製造した「持続可能な再生航空燃料（SAF）」100％で大西洋横断の飛行に成功したと発表した。最大300人乗りの大型旅客機によるSAF燃料だけでの長距離飛行の成功は初めて。SAFは従来のジェット燃料と同様の性能の一方で、ライフサイクルでのCO2排出量を現状より最大70％削減できる。ただ、価格は1㌧当たり約2400㌦（約36万円）で、ジェット燃料の約2.5倍と高い。ヴァージンのSAF燃料初飛行は、価格削減のための官民連携を求めるデモンストレーションの意味もあるようだ。
SAF燃料による大西洋横断に成功したヴァージンのフライトはFlight100。英国のロンドン・ヒースロー空港を飛び立ち、米ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に到着した。同機は、ロールス・ロイス社製トレント1000エンジンを搭載している。
今回のフライトは、ボーイング社をはじめ、ロールス・ロイス、英インペリアル・カレッジ・ロンドン、同シェフィールド大学、ICF、ロッキーマウンテン研究所等の企業、研究機関等で構成するヴァージン・アトランティック航空主導のコンソーシアムが、英国運輸省の協力も得て実現したとしている。
今月9日には米航空機メーカーのガルフストリーム・エアロスペースが、20人規模の小型航空機によって、SAFのみ燃料で大西洋横断に成功している。今回のヴァージンが使用したボーイング787は通常の旅客輸送に活用される大型機である点で意味が大きいとされる。現在、日本の航空会社を含め、各国の航空会社はSAF混合10%の燃料での運航を試行している。
今回のフライトで使用されたSAFは、AirBP社が供給する88％のHEFA（加水分解エステルおよび脂肪酸）と、マラソン・ペトロリアム社の子会社であるVirent社が供給した12％のSAK（合成芳香族ケロシン）をブレンドした。HEFAは廃棄油脂を原料とし、SAKは植物性糖類が原料。SAKをブレンドしたのは、エンジン機能に必要な芳香族を加える必要があるためと説明している。
ヴァージン社は今回のSAF100%機の初フライトを踏まえて、「電気や水素のような他の技術がまだ数十年先の話なのに対し、SAFは今すぐにも使える。しかし、現在、SAFの使用は世界のジェット燃料の0.1％未満。燃料基準では商用ジェットエンジンへのSAFの混合は50％までしか認められていない。今回のFlight100のフライトは、生産規模の拡大が政策と投資の課題であることを示すためのものであり、産業界と英国政府は、SAF産業を繁栄させるために迅速に動かなければならない」と指摘している。
SAFは同社が指摘するように「今すぐにも」利用できる燃料だ。だが、最大の課題は従来のジェット燃料に比べて割高である点だ。国際航空運送協会（IATA）によると、22年時点でSAFの価格は1㌧当たり約2400㌦（約36万円）で、ジェット燃料の約2.5倍。ヴァージンが組織するコンソーシアムでは、SAFの使用拡大に加え、SAFがフライトの非炭素排出にどのような影響を与えるかを評価する。SAFに使用が飛行機雲や微粒子に与える影響について科学的に分析する等の活動も進めるとしている。
同社CEOのシャイ・ワイス氏は「Flight100は、SAFが化石燃料由来のジェット燃料に代わり、安全に使用できる燃料であることを証明した。SAFは、長距離航空の脱炭素化のための唯一の実行可能なソリューションだ。われわれはこの重要なマイルストーンに到達したことを誇りに思うが、さらに前進する必要がある」と述べた。
ヴァージン・アトランティック航空の創設者であるリチャード・ブランソン卿は「世間は常に、あなたがそれを実行するまで、何かができないと思い込んでいる。イノベーションの精神とは、外に出て、みんなの利益のためにもっとうまくやれることを証明しようとすることだ。ヴァージンは1984年以来、現状に挑戦し、航空業界を押し上げ、決して妥協することなく、より良いものを目指してきた。今日、ヴァージン航空のチームや、共に歩んできたパートナーとともにFlight100に搭乗できることを、これほど誇りに思うことはない」とコメントした。
Research Institute for Environmental Finance