第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦サステナブルボンド賞:東京海上日動火災保険「地方自治体の発行する水害対策事業を資金使途とした地方債への投資」(RIEF)
2026-03-03 20:46:15
(写真は、東京海上ホールディングス投資運用部グローバル債券投資グループマネジャーの桑山祐介氏㊧と同グループアシスタントマネジャー・データサイエンティストの吉本真実氏㊨)
東京海上日動火災保険は、日本では初めてとなる地方自治体の水害対策事業を資金使途とした地方債へ投資したことで、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選定されました。気候災害が激甚化・頻回化する中、対象地域では水害による家計・企業の損害発生の予防や被害軽減、災害レジリエンス(防止、極小化、復旧早期化)の向上が期待されます。東京海上ホールディングス投資運用部グローバル債券投資グループマネジャーの桑山祐介氏と同グループアシスタントマネジャー・データサイエンティストの吉本真実氏に聞きました。
――2025年10月に横浜市が発行した「浸水レジリエンス債」に15億円、三重県が発行した「みえグリーンボンド 水害レジリエンス債」に20億円を投資されました。全国初の、特定の水害対策事業を資金使途とする地方債投資となりました。水害対策という特定の気候災害への充当資金を対象として、地方自治体と連携して気候適応策の地方債をアレンジした動機、目的を教えてください。
吉本氏 : 自然災害大国である日本を母国市場とする当社グループにとって、災害の被害防止、極小化、復旧の早期化に取り組む「災害レジリエンス」の向上は重要な領域と考えています。われわれ損害保険会社は、事故が起きた時に保険金を契約者に支払うことで、事後の安心と安全を守る事業をしていますが、それだけでは顧客のニーズに応え続けることはできない、事後だけでなく事前と事後の安心と安全を合わせて提供することが社会的な使命と考えています。災害レジリエンスの向上には会社全体で取り組んでいますが、われわれ資産運用部門としては、災害を事前に防ぐ取り組みに投資すれば、災害レジリエンスの向上に貢献できると考え、今回、地方自治体の水害対策を防ぐ事業に投資することにしました。
――災害の中でも水害を特に対象に選んだ理由は?
吉本氏 : 今回、水害対策事業に資金使途を絞ったのは、水害対策は広域で取り組まなければならず、自治体からのサポート無くしてできないと考えたからです。水害対策事業は、減災の効果を具体的に測れる事業が多く、投資判断に繋げることができるという点も大きいです。

桑山氏 : 水害は個人でできる対策は限られます。地域全体として下水道のパイプを強くするとか、堤防を高くするとか、そういった公共事業なかりせば水害対策はできないので、われわれとしても地方自治体をサポートする意義があります。
――投資先はどうやって選びましたか。
吉本氏 : 水害対策事業に資金使途を絞った地方債投資については、2025年3月、4月あたりから検討を始め、最初、約10の自治体にお声がけさせていただきました。その中で、実際に災害を未然に防げる事業をやっているか、資金使途を限定した債券発行ができるか、減災効果の数字を定量的に測れるかを確認させていただきました。
桑山氏 : 公募地方債を出すのは、都道府県と政令都市全体で60団体ぐらいです。新規先を含めて間口を広くして当たりました。
――事業の効果は数字で測るのですか。
吉本氏 : はい。災害対策事業の費用と便益の数字を教えていただいて、こちらで保険金の支払いの削減にどう繋がるかを計算します。
桑山氏 : B(便益 : Benefit) by C(費用 : Cost)は今後50年の便益を4%の割引率を使って計算したものです。そこから単年度でどれくらいになるのだろうと計算すると、単年度の民間レベルの損害額を出すことができます。それを基に、仮にこのような損害が起こったら、損害保険会社の支払う保険金額はどれくらいになるのかを、数字として把握できます。
――初回の投資先として横浜市と三重県を選んだ理由は何ですか。
吉本氏 : 発行の規模では特に選んでいません。災害を未然に防げる事業をやっているか、事業をやることによる効果を定量的に測れるか、この二つの軸で探し、前向きな検討が可能だった三重県と横浜市の二自治体に投資させていただきました。
桑山氏 : 発行額の大きさではなく、効果が数字として分かるかどうかが重要でした。

――2025年春に投資を検討し始めて、同年10月には初回の投資を実行しました。発行体の自治体との話し合いはとてもスムーズにいったということですか。
吉本氏 : そうです。 横浜市さんと三重県さんとはお互い前向きに色々な議論をさせて頂きました。
――難しかった点はありましたか。
吉本氏 : 事業の個別指定とグリーニアム(グリーン性のプレミアム)の確保、この2点は前例がない分、いろいろ議論をさせていただきました。資金使途とする事業を個別に指定することは今回が初めてで、実際にどの事業を入れるかというのを、例えば数百程度ほど対象となる事業を示していただいて、そこからこちらが選んで、実際にそれらを指定できるかを確認しながら進めました。その後、資金使途を絞り一つひとつのプロジェクトの減災効果の数字をしっかり見させてもらいました。
――横並びの地方債の利率から「グリーン」ということで1ベーシスポイント(0.01%)下がり、「レジリエンス」ということでさらに1ベーシスポイント下がりました。この金利引き下げの根拠はどう設計しましたか。
吉本氏 : 市場で受け入れられているグリーニアムよりさらにタイトなスプレッドでの引き受けの場合には理由が必要です。参考にした数字は、1年間の保険金の支払額をどれくらい減らせるかなのですけれども、その数字を投資の利回りに直した時にどれくらいになるのかを考え、それが1ベーシス対比で上回るのであれば、下げる合理性はある、そのように判断をしました。
桑山氏 : 対象事業をサポートする意義があるということを数字で把握できたので、1ベーシスではありますけれど踏み込みました。お互いウィンウィンな資金調達と資金提供ができたと考えています。
――初の取り組みです。評判はどうですか。

吉本氏 : 昨年10月に投資をして以降、証券会社やほかの投資家からすごくポジティブなコメントをいただき、各種勉強会に登壇する機会もいただきました。他社も災害対策にさらに興味を持って投資をしようとしているという話も聞いています。損害保険業界全体で日本の災害レジリエンスを高めていくという、一つの動機付けになったと思います。
桑山氏 : 損保業界の中で、続いてくれる会社がいるように聞いています。続いてくれて、こういった災害対策を地方自治体と一緒に進められれば、地域全体の安心、安全につながります。先ほど申し上げましたが、事後だけじゃなく事前の安心を提供するのが、われわれ損害保険会社の存在意義の一つと考えているので、それを業界としてやり、日本の地域の安全につなげられれば、非常に社会的意義が大きいと思います。
――今後の展開、進もうとしている方向を教えてください。
吉本氏 : 昨年、このレジリエンスの意識や取り組みの動機づけができたので、2026年はもう少し幅広く自治体との連携を進めていきたいと思っています。去年は水害事業だけでしたが、新しいアイディアを踏まえられたらいいなと考えています。まだ具体的な話はありませんが、災害レジリエンスの軸でいろいろと検討を進めていきたいと思います。
桑山氏 : 自治体に新たな提案を始めている最中です。来年度に向けてどういったことができるのかはこれからです。水害関連は1度実例ができたので来年度も同じような水害関連対策債への投資は可能と思っています。それ以外の領域は現在、ディスカッション中です。われわれとしては「レジリエンス」という切り口から外れないようにしたいと考えています。
(聞き手は、宮﨑知己)

































Research Institute for Environmental Finance