第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑧国際賞 : 新韓銀行(韓国)「円建て外債(サムライ債)市場で初のトランジションボンド(移行債)発行」(RIEF)
2026-03-04 01:55:30
(写真は、第11回サステナブルファイナンス大賞授賞式において、国際賞の授賞内容を説明する新韓銀行のイ・ヒョンジュ氏)
韓国の新韓銀行(シンハン銀行:Shinhan Bank : 신한은행)は、昨年11月に、円建て外債市場(サムライ債市場)で初のトランジションボンド(移行債)400億円分を発行しました。外国銀行が日本のサムライ債市場で同ボンドを発行したのは、同行が初めてで、サムライ債市場の国際化促進につながるとして、第11回サステナブルファイナンス大賞で国際賞を受賞しました。同行財務部マネジャーのイ・ヒョンジュ(Hyun ju Le)氏に聞きました。
――円建てのサムライ債市場で移行債を発行することとした理由を聞かせてください。これは韓国国内における脱炭素化への移行需要の高まりを反映したものですか?https://rief-jp.org/ct6/162484?ctid=
イ氏 : サムライ市場でのトランジションボンド(移行債)発行は、韓国における脱炭素化を支援する移行資金需要の高まりを反映したものと言えます。炭素集約型産業への融資を単純に削減するだけでは、有意義な排出削減や産業変革を達成するには不十分であり、むしろ移行に必要な資金を制約する恐れがあります。こうした状況下で、新韓銀行は「移行を支援する融資」が「排除」のみに基づくアプローチよりも効果的であると判断し、移行債の発行に至りました。
特に日本市場は、移行金融に関する政策枠組みが整備され、投資家の理解度も高いことから、移行債発行に極めて適した環境であると考えました。加えて、過去のわれわれのサムライ債発行を通じて日本投資家との間に築かれた強固な信頼関係も、円建て移行債の発行を判断するうえで重要な要素になりました。今回の「サムライ移行債」の発行は、韓国における移行金融ニーズの拡大を示すと同時に、国際資本市場を通じた効率的な資金調達という戦略的判断の表れである。
――ドルやユーロ建て等の他通貨建てではなく、円建て債市場での調達を選んだのは、円建ての移行資金需要があったからですか、それとも単に円建てでの資金調達が市場的に有利だったからですか?
イ氏 : 円建てサムライ債市場を選択した主な理由は、資金調達通貨と市場の多様化を図るためです。新韓銀行は米ドルだけでなくユーロ、豪ドル、円でも資金調達を行っています。これは単一市場への依存度を低減し、資金調達構造の安定性を高めることを重視しているためです。

特に米ドル市場の変動性が高まる中、通貨と市場を跨いだ多様化は、安定した外貨調達を確保するための核心戦略となっています。加えて、新韓銀行は韓国で唯一、サムライ債の継続的発行を可能にする「シェルフプログラム(発行体があらかじめ一定の総額枠と基本目論見書を用意し、その枠内で複数回にわたり迅速に債券を発行できる仕組み)」を維持する商業銀行であり、必要時に迅速かつ柔軟に日本市場へアクセスできる利点があります。このインフラ機能を活用し、円建て市場での発行を今後も継続的に追求していきます。
――移行債では400億円を調達されましたが、調達資金の使途について説明してください。融資の主な対象となる産業やプロジェクトは何でしょうか?
イ氏 : 調達資金は主に国内の移行資産に配分され、明確な炭素削減効果と、強い移行特性を有するプロジェクトに優先的に充当します。これには化学産業における、高付加価値・環境配慮型の有機化学製品製造施設や、廃熱回収システムなどの省エネルギー設備、生産プロセス全体での温室効果ガス(GHG)排出量を大幅に削減可能なCCUS(炭素回収・利用・貯留)施設の整備などのプロジェクトが含まれます。
特に今回の調達資金は、有機化学製造プロセスに優先的に配分されます。生産工程全体のエネルギー効率改善とGHGの構造的削減に活用されることになります。つまり、調達資金は融資先企業の一般運転資金としてではなく、国内高炭素産業におけるプロセス改善と低炭素転換を直接支援する移行資産に充てられます。また、排出削減効果と移行成果を体系的に管理・モニタリングする計画です。

――日本政府もGX政策により、高排出産業・企業の移行を推進するとしています。韓国政府はどのような移行政策を実施していますか?金融機関として、新韓銀行は政府の移行政策と、どのように取り組みを整合させる計画ですか?
イ氏 : 日本、EU、シンガポールなどの主要地域では、高排出産業・企業の移行を促進するためにトランジションファイナンス(移行金融)が活用されています。韓国もこの世界的な潮流の中で、移行金融に関する政策議論が徐々に拡大しています。
こうした動きを受け、われわれ新韓銀行は金融機関として、金融の役割と方向性を政府の移行政策及び世界的な潮流に積極的に整合させることで、リーダーシップを発揮しています。政府がK-GX(グリーン・トランスフォーメーション)政策の中核として移行金融を位置付ける動きに合わせ、新韓フィナンシャルグループ(HD)は2025年、グローバルな移行金融議論を反映した「グループ移行金融ガイドライン」と「運用マニュアル」を韓国の国内金融グループとして初めて制定しました。
今後、新韓銀行は政府の移行金融ガイドライン導入を含む政策動向に沿って、内部の枠組みを継続的に強化するとともに、金融が社会の持続可能な移行をいかに有意義に支援できるかを検討し続ける方針です。
――新韓銀行は日本市場でも積極的に活動されています。日本の借り手における移行需要にはどのように対応されていますか?
イ氏 : 現在、新韓銀行の移行金融への取り組みは主に国内市場に焦点を当てていますが、日本を起点に他国へ拡大する形で、グローバル市場への参加を段階的に検討しています。ただし、SBJ(Shinhan Bank Japan : 新韓銀行日本)が短期間で単独で移行金融に全面的に関与することは困難であり、グループレベルの方針とマネジメント枠組みの確立に基づく段階的アプローチが必要と考えています。
したがって、新韓銀行はまずグループ全体の「移行金融マネジメント枠組み」を強化し、その後に、日本市場での活動を段階的に拡大する計画です。具体的には、グループレベルの移行金融ガイドラインの改訂、海外支店管理方針への移行金融分類システム・運用基準の組み込み、持株会社・銀行・SBJ間の緊密な連携強化を図ります。このプロセスを通じて、日本政府の基準や市場慣行を学びながら、SBJの移行金融マネジメント枠組みを段階的に構築していきます。
ーー今年中に円建てトランジションボンド(移行債)の再発行は予定されていますか?
イ氏 : 現時点では、追加の円建て移行債発行の確定計画はありません。ただし、円建て市場は引き続き新韓銀行の中核戦略市場の一つであり、資金調達ニーズや投資家需要に応じて将来的な発行の可能性は残されています。

新韓銀行はすでに円建て市場において、通常のサムライ債やソーシャルボンドの発行実績があり、今回の移行債は市場受容性と投資家反応を評価する初のケースとなります。これらの結果を踏まえ、投資家の需要と適格資産の確保に応じて、発行規模と頻度を段階的に拡大する計画です。
―― 最後に、新韓銀行の活動や取り組みで特に強調したい点があれば、ご自由にご意見をお聞かせください。
イ氏 : 新韓銀行は、国内政府の政策に沿いながらグローバルな動向を注視し、移行金融の枠組みを継続的に推進し、最終的にはグローバルな移行金融市場で自らの存在感を拡大することを目指しています。
特に、移行金融において、豊富な経験と実行事例を蓄積し、アジアで主導的役割を果たしている日本との協力を通じて、専門性と実践的なノウハウをさらに強化する計画です。当行は、SBJを中心に議論と協力を深化させるとともに、日本の金融庁や主要金融機関との連携を継続的に拡大していくつもりです。
さらに、アジア地域に焦点を当てた移行金融研究グループに参加し、金融機関間で実践的な経験やノウハウを共有するとともに、アジア地域全体における移行金融の普及拡大に貢献していく計画です。
(聞き手は 藤井良広)
*英語でのQ&AはPDF版を参照⇒

































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