HOME |第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑯サステブルボンド賞:伊藤忠商事。女性活躍支援で初のオレンジボンド発行、社内の女性支援と取引先の途上国の女性農業者支援も(RIEF) |

第11回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑯サステブルボンド賞:伊藤忠商事。女性活躍支援で初のオレンジボンド発行、社内の女性支援と取引先の途上国の女性農業者支援も(RIEF)

2026-04-03 23:10:57

CInari005スクリーンショット 2026-04-03 201729

写真は、サステナブルファイナンス大賞の表彰式で表彰状を授与された伊藤忠商事の成川氏㊧、㊥は審査員の待場智雄氏(ゼロボード総研所長)、㊨は環境金融研究機構代表理事の藤井良広)

 

  伊藤忠商事は女性の活躍支援やジェンダー・ポジティブな活動に資金を充当するための「オレンジボンド」を、日本国内で初めて発行したことが評価され、第11回サステナブルファイナンス大賞のサステナブルボンド賞に選ばれました。同社財務部コーポレートファイナンス室長の成川清一氏に話を聞きました。

 

――オレンジボンドは、これまで日本ではあまりなじみがなかったのですが、国際的なサステナブルボンドのうちで、女性の活躍支援、ジェンダー平等等の活動に必要な資金を調達するために発行されるもので、ソーシャルボンドの一種です。伊藤忠商事として同ボンドを発行しようと判断された理由を教えてください。

 

成川氏 当社は2024年4月に、それまでの中期経営計画の策定を止め、中長期の経営方針に切り替え企業価値の持続的向上を目指しています。同方針では、「業績の向上」に加え、「企業ブランド価値の向上」も掲げています。つまり、財務面での利益成長に加えて、当社らしい非財務の取り組みを通じて、外部からも高い評価を得て、企業ブランド価値を向上させることを目指しています。

 

女性活躍の支援については、20年以上前から取り組み、実践してきましたが、(中長期の経営方針発表と)同じタイミングで、女性活躍のさらなる推進に向けた施策を公表しました。具体的には女性役員比率の数値目標の設定や、男性社員の育休取得必須化等を打ち出しました。経営方針の切り替え、女性活躍の推進という二つの事象が重なったタイミングで、オレンジボンド発行を証券会社から提案されました。

 

当社としては、日本初のオレンジボンド発行ということで対外的にPRになるだけでなく、資金充当先である当社の女性活躍推進に資する取組みを通じた企業価値の顕在化をも目指して昨年9月に発行に踏み切りました。

 

成川氏
成川清一氏

 

――発行に際して、投資家の反応はどうでしたか。

 

成川氏  今回、起債する前のサウンディング期間で、投資家とのIRミーティングを5回実施しました。そのうち、1回はスモールミーティングを実施し40社を超える投資家に参加してもらいました。当社としては、反響が非常に大きかったと考えています。実際の起債に際しても、これまでの当社の社債購入者の中心であった機関投資家等に加え、学校法人による購入もありました。また起債後にはフランスやアフリカの事業会社等からHP経由で、当社が事業会社として同ボンドのフレームワークをどのようにして作ったのかといった技術的な質問が届きました。非常に幅広いポジティブな反応を内外からいただいた、と考えています。

 

悩ましかった部分としては、ESG債としても「初物」ということで、一部の投資家からIRの場で「これは本当のESG債なのか」といった基本的な点での指摘を受けたことですね。国際資本市場協会(ICMA)のガイドラインにも「ジェンダー」に絞ったものはありません。そこで、何をもってESG債とするかを客観的に証明する必要があるということで、SDGs債の定義を定めている日本証券業協会と協議をし、同協会のSDGs債に該当することを認めていただきました。そこは当社として苦労したところでした。

 

――伊藤忠の女性活躍の現状はどうですか

 

成川氏 まさに同ボンドの発行を検討していたタイミングで、女性活躍の評価指標として、女性役員比率を2030年までに30%まで引き上げることを目標とし、女性執行役員選考ルールも新設しました。当社では一定年次から役員が選ばれる中で、社員全体でみて役員になる方の年次と、総合職女性で役員候補となる方の年次とは、まだ数年の乖離があります。女性役員比率を高めるためには、その乖離を埋める必要があることから、将来的に役員になれる女性の方を別枠で執行役員として選ぶ人材プール制度を設けたのです。

 

これは女性の活躍を支援することもそうですが、男性社員の昇進・昇格を妨げない仕組みでもあります。同ルールの導入の結果として、導入前は執行役員に占める女性比率は12%ほどでしたが、直近ではこの春時点で29%まで引き上がっています。また、女性役員は当初5人だったのが、今は15人にまで増えています。

 

――社内の女性社員の方からの反応はどうですか。

 

CINari001スクリーンショット 2026-04-03 200456

 

  成川氏   :   社内の女性社員からは、「感謝」というと言い過ぎかもしれないですが、「良い取り組みだった」と評価する声をもらいました。新たな制度で執行役員になった女性社員の方々からも、そう言われましたね。それ以外の女性からも評価されました。そのため、女性活躍の推進力に、わずかかもしれないが、つながったのかなという思いがあります。

 

 実は、今回のボンド発行を担当したのは女性でした。彼女が証券会社と連携し、起案してくれました。私としては「やってみたら」ということで任せました。ただ、初めてのことなので、結構、時間がかかりましたね。2024年4月くらいから検討を開始し、実際、起債できたのは2025年9月ですので1年半かかったわけです。かなりの難産でしたが、彼女は誇りをもって取り組みを続けましたし、その活動内容を社内報等でアピールしたところ、他の女性社員から「こうした取り組みで勇気づけられた」等の反応の声が寄せられました。女性活躍をテーマにしたボンドの発行を、女性社員らが担ったこと自体が、女性活躍の推進につながったと思っています。今思うと、提案してくれた証券会社の方も女性でした。

 

 オレンジボンドのフレームワークでの要件として、ボンドを組成しているチームの3分の1が女性であることとされています。女性の視点が取り入れられていることが大事なのですね。今回も女性の視点がないとなかなか進まなかったと思います。女性たちが中心になることで、男性だけでは気づかないようなところにも、十分に配慮した起債になったと感じています。

 

――女性人材をどう活用していくかは、日本の産業界全体でも大きな課題だと思います。その中で、商社が女性活躍支援のボンドを出したことで、他の企業等への影響もあったと思います。

 

 成川氏   :   他の企業等への影響は正直分かりません。当社は、これまで女性活躍支援に取り組んできましたが、対外的には企業価値として顕在化しにくいものでした。しかし、今回のオレンジボンドは、ボンドの発行を通じて社内外にアピールすることで企業価値向上につながるという点が目新しく、当社としても手応えのあるものとなりました。


――そのうちに女性の取締役も出てきそうですね。

 

 成川氏   :   女性の社外取締役の方は今もいます。なお、2021年10月にさらなる女性活躍を推進するため、取締役会の任意諮問委員会として「女性活躍推進委員会」を設置し、初代委員長を、社外取締役であり厚生労働事務次官も経験された村木厚子氏が務められました。現在は社外取締役の中森真紀子氏が務めています。同委員会は社内の女性活躍施策の中心になっている状況です。

 

――オレンジボンドの発行は、ESG債としては初めになりますか。

 

 成川氏   :   5年前にグリーンボンドをドル建てで発行しています。サステナブルファイナンスには結構取り組んでいます。特に、銀行からのグリーンローンはこれまで10件程度、借り入れています。債券より融資が多い理由は、銀行ローンの場合、割と有利な条件で借りられますが、債券発行(ESG債)には相応の手間がかかる一方で、それに対するリターンがないので、正直なかなか進めづらい。オレンジボンドはPR効果、潜在的な企業価値の顕在化などと整理はできたが、通常のグリーンボンドはそうした整理もなかなか難しい。

 

インタビューに応じる成川氏㊨と財務部 コーポレートファイナンス室の水盛伸二郎氏㊧
インタビューに応じる成川氏㊨と財務部 コーポレートファイナンス室の水盛伸二郎氏㊧

 

――調達資金は、途上国での女性の農業生産者の支援にも使われていると。

 

 成川氏   :   資金の大半は、グアテマラでコーヒー豆の集荷をする当社100%出資の子会社からの仕入代金に充当しています。グアテマラは、男性が米国やメキシコ等に出稼ぎに出ることが多く、女性生産者比率が高い。そうした中で、当社の現地子会社は地元の女性生産者の育成・支援や教育プログラムを提供するなどしています。それらの農家から買い上げたコーヒー豆は、実際に日本国内で売られています。

 

 調達資金の評価は、当社の仕入れ先の女性農家からの調達割合を明確に設定して実施しています。重要業績評価指標(KPI)を明確に定め、かつビジネスありきとしています。現地で女性生産者を育てることによって、経済的にもしっかりと成り立つようにしているのです。経済合理性を維持しながら、支援と事業の両立を続けることができると確信しています。

 

――グアテマラ以外の資金充当先はありますか。

 

 成川氏   :   グアテマラ以外の資金充当先として、Doleのパイナップル生産拠点である西アフリカのシエラレオネ共和国における一般外来及び周産期医療の支援もあります。当社は2013年4月に米国のDoleからアジアでの青果物事業とグローバルな加工食品事業を買収しており、2022年4月よりシエラレオネで米国・欧州向けのパイナップル栽培およびパイナップル加工品の生産を行っています。

 

  同国は西アフリカにある最貧国の一つで、医療インフラに課題があります。そこで、従業員および事業地域住民への医療提供を目的に、自社クリニックを設立、特定非営利活動法人と医療提携契約を締結し、日本人医師・看護師の安定的派遣とハイリスク妊婦対応医療の提供等を行っており、その運営費にも資金の一部を充当しています。こうしたことで現地の女性従業員の医療環境を安定させることによって、会社としての生産活動向上につながると考えています。

                        (聞き手は 藤井良広)