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アジア諸国で高まる反中国感情 (WSJ) ミャンマーで、ベトナムで、カンボジアで・・

2013-01-15 13:17:58

中国が主導する銅鉱山開発計画に反対するデモ(昨年12月、ヤンゴン
中国が主導する銅鉱山開発計画に反対するデモ(昨年12月、ヤンゴン
中国が主導する銅鉱山開発計画に反対するデモ(昨年12月、ヤンゴン


【マンダレー(ミャンマー)】ミャンマーの歌手リンリンさんはコンサートで、愛や環境、自由をテーマにした曲を歌っている。だが、ファンがいつも求めてくる曲は、そうした曲ではなく、中国人移民に乗っ取られた故郷を嘆いた作品だという。「この都市に住みついた彼らは誰だ?/北東の国からここにたどり着いた隣人/僕は恥ずかしさのあまり耳をふさぐしかない/異邦人にめちゃくちゃにされてしまったのだ/愛するマンダレーは死んだ」。リンリンさんはアコースティックギターで穏やかなフォーク・ロック調の曲を弾き語る。

リンリンさんによると、過去10年の間に大勢の中国商人がマンダレーに押し寄せ、地元の企業を買い漁ったり、住民を市外に追い出したりしたという。この「マンダレーの死」という曲を歌う彼の姿はファンの1人によって撮影され、インターネット上に公開された。それ以来、数十万人がその動画を見た。

「どの公演でも、必ずこの曲がリクエストされる」と語るリンリンさん。中国文化や勤勉な多くの中国人は尊敬するが、彼らとの取引では得られるものより奪われるもののほうが多いと不満を口にした。

リンリンさんが歌に込めた厳しいメッセージやその反響の大きさは、経済や軍事、政治の面で大国化した中国に対する反感がミャンマーを初めとするアジア近隣諸国で高まっていることを示す1例だ。中国による天然資源の採取や同国製廉価品の輸入といった商業的問題から、領有権をめぐる対立や同国初となる空母の配備などの地政学上の問題まで、懸念材料は多岐にわたる。

中国社会科学院の東南アジア政治に詳しい郭継光氏は最近発表した地域安全保障環境に関するリポートで「(近隣)諸国の一部を見ると、一般市民の間では中国に対する不満感が日ごとに強くなっている」と指摘、このような地元感情を無視すれば、長期的な代償は小さくないとの見方を示した。

実際、天然資源を確保することや、他国から敬意を示されること、同盟国を作ることといった中国の戦略は既にある程度、反中感情の高まりによって複雑化している。

一方、近隣諸国の中国への警戒感は、米国に対してアジアでの同盟関係を再構築する機会を与えている。米政府はベトナムおよびフィリピンと軍事的な交流を深め、また東南アジア諸国への支援を拡大している。

米国の働きかけでミャンマーが西側世界との関係を改善させたのは、中国の存在感拡大に対する不安感も要因の一つだ。その結果、同国にいくぶん民主化の兆しが見えるようになるとともに、欧米企業に門戸が開かれ、中国国有の巨大企業との競争に向けた態勢が整いつつある。

このような状況に動きに対して、中国外務省は「平和的共存と平等、相互利益」の原則に基づいた包括的な戦略パートナーシップが中国とミャンマーの間に結ばれており、地域の安定と発展に貢献しているとの見解を示した。

中国政府関係者は以前から、その政策が近隣諸国の反感を買っているとの見方を一蹴してきた。さらに米国に対しては、反中感情をかき立てる一方で、中国の「封じ込め」を目指した戦略の柱としてアジア諸国との防衛協力関係を強化していると非難してきた。

ただ、パキスタンなど、国民の間で中国人気が引き続き高い国もある。パキスタンは米国がインドへの歩み寄りを見せるなか、軍事や核開発、経済の面で中国政府の支援を頼りにしている。さらに、長い目で見ると、近隣諸国の中国への態度は硬化したり軟化したりと波があり、今は対中国感情が悪化している国でも現在の対中感情が好転する可能性もある。

外交政策専門家は中国が過去10年間に築き上げてきた近隣諸国との友好関係について、領土問題で強硬姿勢を強めた結果、過去2年にその大半が損なわれてしまったと指摘する。また、中国が、相手国政府や財界幹部にしか接触しようとせず、反政府派などとつながりを持つことを控えてきたことから、ミャンマーといった国々における国民感情に対応できていないという専門家もいる。

ベトナムでは領有権をめぐる中国との対立に煽られる格好で、「打倒中国」を旗印にしたデモが昨年7月に勃発した。さらに昨年暮れには、南シナ海で同国の石油探査船のケーブルが中国漁船に切断されるという事件が発生。中国外務省はベトナムの抗議を却下しただけでなく、漁船の航行に支障が生じたとして、ベトナム海軍を非難。これに対しベトナムで反中デモが再発する事態に発展した。

カンボジアの地元住民の一部からは、中国企業の農業投資のために村民が立ち退きを強いられたとの批判が上がった。一方、モンゴルでは最近、海外からの投資に関する法律が成立し、中国経済に大きな比率を占める国有企業が天然資源事業を買収する際には、大半の場合、事前に特別許可を受けることを義務付けられた。

昨年11月に日本政府の内閣府が発表した「外交に関する世論調査」によると、中国に対して「親しみを感じる」あるいは「どちらかというと感じる」と答えた人の比率は18%と、1978年の調査開始以来最低水準にまで落ち込んだ。また、中国との領土紛争を抱えるフィリピンの調査では、中国を「ほとんど信頼していない」と回答した人の割合が1990年半ばの調査開始以来の最高値となった。韓国とインドネシアの最近の調査では、過半数が中国の軍拡を懸念していると回答した。

さらに香港でさえ不信感が高まっており、中国国民としての愛国心を育成する「国民教育」の導入に抗議する大規模デモが発生し、結局導入は見送れられた。一方、統制の厳しいシンガポールでは、中国人移民のバス運転手らがストライキを起こし、公共交通が混乱した際、インターネット上に反中メッセージが氾濫した。

 

http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324050504578242272438539446.html?mod=djem_Japandaily_t