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朝日叩き、かすむ本質 政府の姿勢も検証不可欠(西日本新聞)

2014-09-16 02:19:18

asahinewsキャプチャ
asahinewsキャプチャ朝日新聞は12日付朝刊で、東京電力福島第1原子力発電所の吉田昌郎元所長(昨年7月死去)が政府に事故当時の状況を説明した「聴取結果書(吉田調書)」に関する記事を取り消した経緯を掲載。先に撤回した慰安婦報道についても、11日の木村伊量(ただかず)社長の記者会見でのやりとりを載せ、あらためて説明した。だが、朝日の説明にはなお疑問が残る。一方で、報道が朝日批判に集中するあまり、原発、慰安婦をめぐる本質的な問題が置き去りにされる恐れがある。

 

■吉田調書

朝日は、政府が公開する前に吉田調書を独自に入手。5月20日付朝刊で「所員の9割が吉田氏の待機命令に違反し、福島第2原発に撤退した」と報じた。

 

記事はその根拠として「本当は私、2F(第2原発)に行けと言っていないんですよ」との発言を引用。だが、調書にはこの発言に続き「よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです」などの発言がある。朝日はこれらの発言をネットに載せたが、紙面には出さなかった。

 

朝日側は11日の会見で「所長の発言の評価を誤った。事後的な感想ということで(紙面から)割愛した」と説明した。だが、この部分を削除するのは理解に苦しむ。「命令違反」という記事の骨格と矛盾する発言を意図的に削除した疑いは消えない。

 

一方で、吉田調書などに基づく政府の事故調査委員会報告書が出された2012年7月当時から、原発の専門家は「吉田調書などを公開し、事故検証や新たな原発の規制に生かすべきだ」と指摘していた。

 

報告書には、吉田調書で明らかになった「われわれのイメージは東日本壊滅ですよ」「腹を切ろうと思っていた」といった吉田氏の生々しい言葉はなく、原発事故の真の過酷さは伝わらない。政府が2年以上公開しなかった吉田調書は、朝日報道がなければ永久に国民の目に届かなかった可能性がある。政府は、国民の判断材料となる吉田調書を公開することなく、原発を再稼働しようとしていた。

 

NPO法人原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「本来は政府が自発的に調書を公開すべきだった。政府の姿勢も問われるべきだ」と指摘する。

 

 ■慰安婦

慰安婦問題についても、朝日の説明は十分とは言えない。特に、慰安婦だったと初めて証言した金学順さんが、日本の芸妓(げいぎ)に当たる「妓生(キーセン)」学校に通い、軍関係者ではなく養父から連れていかれていたことを、朝日は1991年8月の初報から一切触れていない。朝日側は「キーセンが慰安婦だとは思っていない。ねじ曲げはない」とするが、他社はこの事実を書いている。「強制連行」にそぐわないため、意図的に触れなかったのではないか、との疑いが残る。

一方、韓国・済州島で女性を強制連行したとする吉田清治氏(故人)の証言を朝日が虚偽としたことで、この誤報が「慰安婦イコール性奴隷」のイメージを国際社会に植え付けたとする批判も多い。しかし、日本の慰安婦を「軍性奴隷」と断じた96年の国連人権委員会のクマラスワミ報告で、吉田証言を引用した記述は37ページ中わずか5行(英語版)で、根拠の柱は元慰安婦6人の証言だ。

 

人狩りのような強制連行と、軍と契約を結んだ業者にだまされ、意に反して慰安婦を続けさせられた「強制性」の違いは何か。「強制連行はない」と日本が主張することを、国際社会はどう受け止めるか。

 

ジャーナリストの青木理氏は「慰安婦での朝日批判には歴史修正主義の立場からの論調も目立ち、異様な状況だ」と指摘。服部孝章・立教大教授(メディア法)も「吉田証言が取り消されても、国際社会では日本は加害者だ。慰安婦問題がまるでなかったかのように主張するのは間違っている」と強調する。

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/113868