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「メディアのトップが権力に擦り寄っている」。古賀茂明氏が外国特派員協会の会見で指摘(BLOGOS)

2015-04-16 21:28:05

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16日午後、元経済産業省の古賀茂明氏が日本外国特派員協会で会見を行った。古賀氏は2月にも同協会で会見を行っている

17日には自民党の情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、番組内容などについて事情を聴くと報じられており、古賀氏の発言が注目されていた。

冒頭、古賀氏は、日本のテレビ局の状況について説明、放送免許制度を紹介し「監督組織が政府から独立していない」と指摘、新聞・雑誌についても再販制度、軽減税率にも触れ「政府に対して弱い立場にある。本気で戦えない」と述べた。また、”気になる傾向” として、「メディアの自粛」「メディアのトップが権力に擦り寄る」ことを挙げた。


古賀氏の冒頭発言要旨


 

みなさんこんにちは。今日はお招きいただきましてありがとうございます。
時間がないので、私の方からいくつかに分けてお話しさせていただきます。

日本の放送局、テレビ局というのは、政府との関係においてどのような立場にあるのか。これは国によって違いがあるので、日本の特殊な事情みたいなものをお話しさせていただければと思います。

日本ではテレビ局というのは、総務省という役所の管轄下にあって、その事業をやるのには免許が必要だということです。総務省というのは内閣の一部ですから、安倍首相の意向によって動くわけです。免許を取り消したり、更新したりという権限を持ったところが監督をしているという構造になっています。

ですから、例えば独立性の高い委員会とか、政府から独立したところが監督しているわけではないということを理解しておいてほしいと思います。そういう意味では新聞とはかなり性格が異なります。そういう風に非常に弱い立場にあります。

ついでに、日本の新聞や雑誌業界が、政府に対して弱い立場にあるということも申し上げたいと思います。

一つは「再販制度」という制度がありまして、価格を維持するための制度ですが、これは公正取引委員会が所管していますが、これを維持してもらえるかどうかというところで政府に対して弱い立場にあります。

もう一つは消費税との関係、今、10%への引き上げが議論されていますが、です。生活必需品に対する軽減税率をどのような品目にかけるかという議論がされていますが、新聞・雑誌業界は自分たちをその対象にしてほしいということを政府にお願いしている状態です。そういう意味で、本気で政府と戦うのは難しいという状態です。

そういう、日本のメディアが構造的に政府との関係で少し弱い立場にあるということを背景にしても、日本は世界の中でも非常に自由な国で自由な言論が保障されている国だと思うのですが、民主主義もしっかり定着しているのですが、そこから独裁が生まれることはあるのかということを考えています。それはクーデターとかではなくて、正統な手続きを踏んだ上での独裁への移行です。

それが起こるとしたら、第一段階として、政府がマスコミに対して圧力をかける。放送法の免許というのは一つの力になりますし、圧力だけじゃなくて懐柔をする。アメとムチですが「軽減税率の対象にしますよ」といって懐柔をする。これらが第一段階としてあるのではないかと思います。

そして、それはいつの時代にもありうることなのですが、そうした圧力や懐柔にメディアはどう反応するのか。今のメディアはそういう圧力を何とかかわそうとして、本来自分が描きたいものよりも少しずつ狭めて言って、それによって政権からの圧力を回避しようとする“自粛”する傾向が見て取れます。

また、マスコミのトップが政権側にすり寄っているように見える。そして、これは幼稚なことなのですが、「自分が政権を動かしている」というような感覚を持ってしまっているのではないでしょうか。

そうすることによって現場がやりづらくなる。まだまだ現場には、報道には真実を伝えるだけじゃなくて、権力に様々な問題があれば、問題提起する役割があるのだと思っている人間がたくさんいます。しかし、トップが権力にすり寄っているようでは、現場はトップを信じることができなくなる。現場が、ほとんどトップを信用していないという会社が増えていると私は感じています。

第一段階が圧力と懐柔だとしたら、第二段階はメディア側の自粛とすり寄りだと思います。

今の第一、第二段階において、第二段階を示す一つの例として、日本民間放送労働組合連合会というという労働組合がこないだ初めて自民党の報道介入にたいして抗議するという声明を出しているんですね。今まで出さなかったのが個人的には不思議なぐらいなんですが。 そこで面白い表現があります。「最近、報道機関のトップや編集幹部が積極的に安倍首相とのゴルフや会食に積極的に応じる一方で、政権サイドのメディアへの高圧的な態度がめだつ。」と。

ゴルフや会食に行くこと自体はケースバイケースで、いろんなことがあると思うのですが、少なくとも現場で働いている人たちが「何でそんなことするんだ」と感じるような文脈の中で、こうしたことが行われているということなんです。


重要なニュースが報じられない、または小さく報道されている


 

「報道ステーション」の3月27日の放送の時に話したかったのですが、いろんなつまらない口論があって、話せませんでした。一度フリップを出そうとしてひっこめた話があります。それは第3段階の話です。

そこで私が伝えたかったのは非常に重要なニュースが、今日本では報じられない、報じられても非常に小さくしか報じられない、そういうことが日本では起きています。その例を挙げようとしました。

例えば、小泉改革以来、目玉の一つであった政策金融機関の民営化という議論があります。この議論の中で、民営化する期限というのが決まっていた金融機関があります。政策投資銀行と商工中金という2つの大きな政府系金融機関。これは財務省と経産省の所管の金融機関ですが、現在国会で議論されている中では民営化の期限がなくなっています。ということは、民営化されない可能性が出てくる。

これは数年前の民主党政権下であれば一面トップで扱われたでしょうし、かつ国会でも非常に大きな議論なったはずです。しかし、非常に小さくしか扱われていない。

その他にも政府系金融機関として、先程挙げた二つに加えて、国際協力銀行、日本政策金融公庫といういずれも経産省、財務省系の機関がありますが、このトップは改革の過程で全員民間出身の方になっていました。それが安倍政権になってわずか2年ぐらいの間に4つのうち3つのポストが経産省、財務省の次官級OBのポストに変わっています。

つまりあれだけ「天下り廃止」と叫んでいたものが、一気に逆戻りしているのですが、これもほとんどマスコミにおいて問題にされることがない。

そういう重要なことが大きく報じられない理由が政権の圧力なのか、テレビ局の自粛なのかという風に思って、何人かのテレビ局の人に聞いてみたんです。そうしたら驚いたことに彼らはその重要性に気づいていないんです。これは5年前だったらありえないことです。

これは私が最終的な危機的段階だと思っています。つまり、最近では自粛していることを意識することすらできなくなっている。記者の一番重要な素養である問題を掘り出していく能力する失われつつあることが私は非常に心配になりました。

そういう話をした上で、報道ステーションでは最後にガンジーの言葉を言ったわけですね。英語の原文にはあたってないので、日本語訳ですが「あなたがすることのほとんどは無意味ではあるが、それでもしなければならない。それは世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられなくするためである」。

今お話しした最後の状況というのは国民にも同じことが言えます。国民は直接圧力を受けることはありませんが、限られた情報しか得られなくなっていく可能性はある。そうすると、自由な選挙、もっとも民主的な手続きである選挙にいくんだけれども、そこで間違った情報に基づいて選択してしまうということになる。その結果、独裁ないし、日本では独裁というのはありえないのですが、それに近い状態になってしまうのではないか。私は、そうなる前に、どこかで止まると思っていますが、そういう段階に入ってきているんだということを申し上げたいと思います。

以上が報道と権力についてですが、あと一つ最近変なプロパガンダが横行しているので、一言だけ。私が現在進めているキャンペーンがあるのですが、そのことについてお話ししたいと思います。

私は一か月ぐらい前にフォーラム4というキャンペーンを始めました。今、私を批判する中で、新しい政党を私が作るんだと。その宣伝のために報道ステーションを利用したという人がいるのですが、これは間違いです。フォーラム4というのは政党ではなく市民の活動です。

今無党派層が増えて、投票率が下がっているのですが、これは単なる無関心ではないと私は思っています。関心はあるけれども選びたい政党がない。そういう状況が起こっているんではないかと思っているんですね。

一言で申し上げますと、今のいろんな政党の政策の軸というものの一つは大きな構造改革をするかどうか。もう一つは従来の平和主義、日本の平和ブランドをやっていくのか、安倍政権のような積極的平和主義、私は積極的軍事主義と捉えていますが、というものです。

この二つの軸で構成される4つの枠の中で、今の日本の政党勢力で「改革をやるけれども、安倍政権的なタカ派ではないハト派的な政策をとる」勢力。語弊がありますが、単純化していうと、「改革はするけど戦争はしない」という勢力が存在しない。そこを目指す人がいるんだったら、手を挙げましょうというキャンペーンを始めました。今、市民の間でそういう議論していきましょう、というのが私が今やっているキャンペーンです。

 



 

圧力をかける方は“圧力”と言わない


 

―政党が中立な報道を求めることと、圧力をかけるというのは全然違うことだと思います。先程の「報道ステーション」の例については、それほど説得力がないので、もう少し具体的な例を出してほしい。政府や政党という権力側が個人のジャーナリストや雑誌、報道局に圧力をかけたという具体的な例を出してもらますか?

古賀:さっき申し上げた「報道ステーション」の時に、そういう話ができなかったというのは、別に私が圧力を受けて出来なかったのではなくて、つまらない議論に時間がとられてしまって出来なかったということで圧力の話ではないです。

一番知られているのは、例えばこないだの選挙の前に自民党が、「一般論です」といいながら在京のキー局、大手テレビ局に選挙にあたっての報道について注意事項というのを書いて「要請」という形で文章を出しました。

「これは圧力ではない」という風にとることも論理的には排除できませんが、この文書が どういう扱いを受けたか。各テレビ局の中で。

もしこれが「圧力ではない」と考えられているのであれば、この文書というのはもらっても、どこかに破いて捨ててもいいですし、本来であれば、「こんなもの来ました。ひどいですね」というのを放送すべきだと思いますが、それはどこもしませんでした。

じゃあこれを破いて捨てたかというと、私はいくつかの放送局に聴きましたけれども、むしろ、これを関係するところに配布をしている。もちろん文章として「こういうのが来ているのでみんな委縮しましょう」と書いてあるわけではないですが、こういうものが来ましたよと。一応伝えていると。これは圧力だと受け止めてですね、問題を起こさないようにということで考えざるを得ません。

これはずっと報道されなくて、結局ネットのニュースで「ノーボーダー」というところが最初に報じたのですが、それを受けてもテレビ局は放送しなかったですね、ニュースで。むしろ隠しておきたいというような感じになったのですが、それは何故かというと、それを出したら自民党に何をされるかわからないという恐怖感があるのだと思います。

それからもう一つ、それは一般的な注意事項みたいなものでしたが、最近また「ノーボーダー」がスクープで出していましたけれど、自民党から「報道ステーション」のプロデューサー宛に特定の日付の番組の内容について抗議をして。それは要するにアベノミクスのおかげでお金持ちがすごくもうかっていますというビデオを流したのですが、それがけしからんという内容の抗議文章、抗議といっても言葉はもちろん「ちゃんとやってくださいね」というお願いなんですけれども、そういうものも出ている。

そして、それも隠されているというようなことが、具体的に目に見える形で感じられる一つです。

 

―明日、自民党に放送局の人たちが呼ばれているというが?

古賀:これはいろんなところで報道されていますが、私自身は発表文などは見ていませんが、明日自民党の情報通信課、放送を扱う部会があるらしく、そこにテレビ朝日の私の放送の問題、3月27日私があそこで発言したこと。それからNHKの「クローズアップ現代」という番組が夜19時半からやっていますけれども、ここでヤラセが起きたんですね。その2つの問題を取り上げるのだろうということで、二つのテレビ局の責任者を呼び出しているという状況です。

これも自民党ですから。他の政党であれば、拒否することもできるだろうし、反対論を述べることも容易だと思いますけれども、自民党というのは政権与党ですから、自民党からよばれていかないというのは、テレビ局から見ると非常に怖いという感覚を受けるんだと思います。それから、そこで自民党にワーワーといろいろ言われた時に、それに反論するのも非常に怖いと。

これはまぁ言わない方がいいかもしれませんが、「集団リンチ」的な状況になる恐れもある。もちろん、こういう状況ですから言葉はすごく選んで丁寧に丁寧に質問をするという形になると思いますけれども。

そもそも政権与党が番組の編集について、口を挟むということ自体が実は放送法違反なんですね。よく放送法4条で「公平・公正」といったようなことを自民党は言うのですが、その前に3条という条文がありまして、この3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」という条文があるのですが、明らかにこれに違反している。

私は是非ですね、テレビ朝日にもNHKにも自民党のこの呼び出しは断ってほしいと思うんですね。もし本当に自民党がどうしても話したいというのであれば、「どうぞ我が社にお越しください」と。「それを生で放送しながら議論しましょう」ということをやってほしいと思います。

 

―菅官房長官会見で、今回の件が質問が出て「まったく政府側は圧力をかけていない」と言っているが、それをどう考えるか?

古賀:日本のメディアでしたら“官房長官様”のおっしゃることはそのまま伝えるということだと思いますが、これをそのまま受け取っているジャーナリストというのは非常に少ないだろうなと思います。さっき言った通り、その人自身が変えられてしまったという人は、「あぁなるほど」と思うかもしれませんが、私は権力の座にある人が発する言葉というのは、普通の一般市民が発する言葉とはまったく質が違うと思うんですね。

ですけど、安倍政権、安倍総理自身が国会で発言をしていましたよね。「私にも表現の自由がある」というようなことを言っていましたけれども、憲法の立憲主義というものをまったく理解していないんじゃないかなと思うんです。

放送法3条ということで、「介入しちゃいけませんよ」と。もちろん政府ですから法律に基づいて何かをするのはいいのですが、明日の会議は自民党ですから。自民党が、正式には何の強制力もないのですが、「俺たちは政権与党だぞ」という事実、背景を口には出さないけれど、相手が充分認識しているという前提で、呼び出すと。そして、番組の個別の放送について議論をします。これは「議論だから圧力じゃない。単なる質問過ぎない」というんですけれども、その背景には放送法の免許というのがあって、聞く人が政権与党の人だと。

圧力というのはかけた方は圧力とは言わないんです。いじめと同じで、いじめた人はいじめじゃないというのと同じ。相手がどういう風に受け取るのかというのをよく考えた上で、自分たちの大きな力というものを充分に認識したうえで、間違った形でそういう「表現の自由」とか「言論の自由」に負の影響を与えないようにと配慮してものを言うべきだと思うのですが、そういう姿勢が全く感じられない。そういうことだと思います。

菅さんの言葉でいえば、何事も“粛々と”進められているということだと思います。であれば、放送局は、菅さんが「圧力じゃない」と言ってるんですから、「圧力じゃないんですね、勝手にやらせてもらいます」ということで、明日の会議はキャンセルしていただきたいと思います。

 

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