HOME |「バーバラ・リーは間違っていたか?」(むささびジャーナル)  「9.11」事件4日後、米議会での『知られざる演説』。フランス同時テロ後の「憎しみの連鎖」を考える(むささびジャーナル) |

「バーバラ・リーは間違っていたか?」(むささびジャーナル)  「9.11」事件4日後、米議会での『知られざる演説』。フランス同時テロ後の「憎しみの連鎖」を考える(むささびジャーナル)

2015-11-29 20:59:38

パリのテロ事件後、フランスのオランド大統領は「戦争だ!」と叫び、英国のキャメロン首相もISIS攻撃に参加することを示唆するし、なんとロシアのプーチン大統領も米仏とともにシリアのISIS領の爆撃を強化すると言っている。

 

英国メディアもISIS憎しで凝り固まっているように見える。という状況をネットで見るにつけ、むささびが思い起こすのは、いまから14年前、2001年9月11日のアメリカにおける同時多発テロの4日後(9月15日)に行われた、米議会におけるアフガニスタン攻撃をめぐる採決です。



全米がテロリスト憎しで凝り固まっており、当時のタリバン政権がオサマ・ビン・ラディンを匿っているというので、ブッシュ大統領がアフガニスタンの爆撃を提案したわけですが、上院が98対0、下院も420対1という圧倒的大差で大統領の提案が支持されたのですよね。

 

上下両院を通じてただ一人これに反対したのが、カリフォルニア選出のバーバラ・リー(Barbara Lee)下院議員だった。ここをクリックすると、採決当日のリー議員の下院における演説を動画と文字で見ることができます。むささびが記憶にとどめたいと思ったのは次の3カ所です。

 

 BarbaraLeeキャプチャ

 

  • (テロリズムという)アメリに対する言葉では尽くせないような行為に直面し、私はこれからの進むべき方向については、自分自身の道義上の羅針盤、自分自身の良心、そして私自身の神に頼るしかないという精神状態に至りました。

  • This unspeakable act on the United States has really — really forced me, however, to rely on my moral compass, my conscience, and my God for direction.
  • 9月11日は世界を変えました。私たちは深い恐怖に襲われています。しかし、私は固く信じております。軍事行動によって、アメリカに対する国際的テロが繰り返されることを防ぐことはできないのです。

  • September 11th changed the world. Our deepest fears now haunt us. Yet, I am convinced that military action will not prevent further acts of international terrorism against the United States.
  • 我々が行動するにあたっては、自分たち自身が否定する悪に自分たちがなることがないようにしようではありませんか。

  • As we act, let us not become the evil that we deplore.

最後の部分は、彼女自身の言葉というよりも、彼女が自分の教会の牧師から言われた言葉を自分の演説の中で引用したものです。リー議員は1946年生まれだから、この演説をしたときは55才だった。

 

▼彼女はその後、イラク戦争にはもちろん反対しているし、最近のシリア攻撃にも反対しています(ちなみに2001年9月15日の採決ではバラク・オバマ上院議員はアフガニスタン爆撃に賛成しているはずです)。むささびが引用したリーの言葉の中で「自分自身の」という言い方が正しいと思うし、最後の「自分たち自身が否定する悪」に自分たちがなってしまうことを拒否する呼びかけもことの核心をついていると思うわけです。ISISを憎むあまり、自分が同じようなことをするかもしれないことへの戒めです。



▼バーバラ・リーのアフガニスタン爆撃反対論ですが、結果的には彼女の意見が正しかったと言わざるを得ない状況になっている。ただむささびが問うてみたいと思うのは、あのときアメリカの議員がみんなバーバラのような意見であったならばブッシュ大統領も戦争はできなかったはず。そうなった場合はその後の展開はどうなっていたのだろうか?


▼アメリカのMother Jonesというサイト(2001年9月20日)にリー議員とのインタビュー記事が出ているのですが、その中に「彼女は自分が “pacifist” ではないと主張している」という文章があります。つまり戦争には何が何でも反対する絶対的平和主義者ではないということです。場合によっては賛成する場合もある、と。



▼バーバラ・リーとは関係ないのですが、アメリカの女性下院議員第一号となったジャネット・ランキン( Jeanette Rankin)という政治家は、アメリカが第一世界大戦に参戦することに反対したばかりか、日本の真珠湾攻撃にもかかわらず対日宣戦布告に反対した唯一の下院議員であったのだそうです。

http://www.musasabijournal.justhpbs.jp/backnumbers-333.html