現リソルホールディングスの旧大宮工場による周辺住民への石綿被害問題。さいたま市が周辺住民らの健康調査へ。周辺住民2人が中皮腫認定(東京新聞)
2017-06-07 17:48:46
さいたま市は今夏から、現在の中央区にあった「日本エタニットパイプ」(現リソルホールディングス)大宮工場の周辺住民らに、アスベスト(石綿)の吸引による健康被害についての調査を始める。以前から工場労働者の被害は問題になっていたが、一昨年から周辺住民二人が石綿が原因の「中皮腫」と相次いで認定されたことを受け、市は当時の周辺住民に被害が広まっている可能性が高まったと判断。実態把握に乗り出す。 (井上峻輔)
大宮工場は、一九三三~八二年に石綿セメント管を製造していた。
石綿関連疾患は潜伏期間が二十五~五十年と長く、当時の関係者が近年になって健康被害を訴えることが多い。工場労働者の被害については、すでに多くの訴訟が起こされているが、周辺住民の被害は明らかになっていなかった。
そんな中で二〇一五年に同市中央区の松井絵里さん(48)、昨年に市内の男性(75)が国から中皮腫と認定された。
昨年十一月には、二人の支援者が市に周辺住民の健康調査を要望。市は「ほかにも患者がいる可能性がある」と調査を決めた。
今回の調査は八二年以前に現在の大宮区、中央区に住んでいた市民が対象。先着百人で、七月から申し込みを受け付ける。問診やコンピューター断層撮影(CT)で診断。国の委託事業で、関西を中心に多くの自治体で行われてきた。
◆もっと早く調査行われていれば 中皮腫発症 松井さん悔しさあらわ
松井さんら患者や支援者の要望活動が実ってようやく市の調査が始まるが、松井さんは「もっと早く調査が行われていれば」と悔しさをあらわにする。
工場から約百三十メートルの家で生まれ育ち、パイプが置かれた空き地で遊んだ。当時は道は白い粉できらきらと輝き、外で遊べば手足は真っ白。今ならそれが石綿だと分かるが、当時は誰も危険だと言わなかった。
〇八年に肺に水がたまる症状が出始めたが、詳しい原因は分からなかった。一五年に胸に張りを感じてエックス線撮影をすると、真っ白な肺が映っていた。既に末期で手術は不可能。今は抗がん剤治療で病と闘うが、副作用の倦怠(けんたい)感や痛みは消えない。
「今思えば、近所の人は肺がんで死ぬことが多かった」と松井さん。支援者によると、未認定だが中皮腫と診断された周辺住民はほかにもいるという。
ただ、市は「特定の事業所を明らかにして行う調査ではない」としてエタニットパイプ社の名前は公にしていない。支援者の牛島聡美弁護士は「アスベスト工場があったこと自体があまり知られてない」と調査を申し出る人が少ないことを危惧する。松井さんは「周りの環境が大きく変わり、引っ越しをした人も多い。こういう調査が行われることを多くの人に伝えたい」と話している。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201706/CK2017060702000183.html